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藤井聡太王将、記録ずくめの盤石防衛! 菅井竜也八段の挑戦を4勝0敗でしりぞけ、王将戦七番勝負閉幕

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月7日・8日。東京都立川市「オーベルジュ ときと」において、第73期ALSOK杯王将戦七番勝負第4局▲藤井聡太王将(21歳)-△菅井竜也八段(31歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 7日9時に始まった対局は8日17時52分に終局。結果は121手で藤井王将の勝ちとなりました。

 藤井王将は4勝0敗でシリーズを制し、王将位を防衛。王将戦3連覇を達成しました。

 藤井王将は2020年、史上最年少17歳で初タイトルの棋聖位を獲得。以来、登場したタイトル戦の番勝負では一度も敗退することなく、史上初の全八冠を制覇。そして今期王将戦で、20回連続でのタイトル戦番勝負制覇を達成しました。

 藤井王将が登場する以前には、大山康晴15世名人が1963年度から66年度にかけて打ち立てた19期連続が最高記録でした。

 藤井王将はその記録に追いつき、そして追い越して、歴代単独1位の記録を達成しました。

 通算タイトル獲得数は20期で、米長邦雄永世棋聖の19期を抜き、歴代単独6位となりました。

 藤井王将の今年度成績は41勝6敗1持将棋(勝率0.872)となりました。

 藤井王将の勝率は、中原誠16世名人が1967年度、五段当時に記録した勝率0.855(47勝8敗)を上回るペースです。

形容しがたい強さ

 あの強い菅井八段が、こういう負かされ方をするのか。そう何度も思わされた、本シリーズでした。それだけ、藤井王将の強さがきわだっていたということでしょう。

 本局、先手の藤井王将はいつもの通り、居飛車で臨みます。対して振り飛車党の菅井八段は4手目、角筋をオープンにしたまま、三間飛車に振りました。

 穏やかに駒組を進めるか。それとも角交換から動いていくか。藤井王将は5手目にして早くも大きな作戦の岐路を迎えました。

 藤井王将はわずか2分で角交換を決断。以下、互いに馬(成角)を作り合う、乱戦模様の序盤戦となりました。

 27手目。藤井王将は4筋三段目に銀を上がります。序盤にして早くも非凡な一手で、菅井八段から馬と金銀の二枚換えをされても大丈夫と読んでの、大胆な銀上がりでした。

 39手目。藤井王将は57分考えてさらに銀を上がり、4筋で互いの飛車をぶつけます。

 対して菅井八段は1時間35分の長考で40手目を封じ、1日目は指し掛けとなりました。

 明けて2日目。立会人の中村修九段が封筒を開き、用紙を取り出して、菅井八段の封じ手を読み上げます。しかしここで、中村九段が符号を読み間違えるというハプニングが起こりました。

中村「封じ手は飛車を交換する一手だと思ってたんですよ。実際、飛車交換したんですけどね。(封じ手記入された用紙を)こう持って、飛車に矢印が書いてあるんですけどね。なにを勘違いしたのか、上と下を勘違いしてしまいましてね。『△4八飛車成』と言わなきゃいけないところを『4二飛車成』と言ってしまいました。えー。恥ずかしいですね」

 中村九段はそう反省の弁を述べていましたが、これはちょっとしたイージーミス。笑い話ですむ話でしょう。

 2日目は互いに主力の馬を好ポジションに置き、飛車の打ち込みに気をつけながら、慎重な指し手が進んでいきます。そこでいつの間にか、藤井王将が少しずつポイントを稼ぎ、ペースをにぎっていきます。

 56手目。菅井八段は銀取りに馬を寄ります。ここで藤井王将には端に飛車を打つ好手が生じました。しかし藤井王将はすぐには指さず、12時30分、昼食休憩に入りました。

 13時30分、対局再開。藤井王将は57分の消費時間で端に飛車を打ちます。対して菅井八段は6分で飛車を打ち返しました。これは指しづらい一手で、飛車交換のあとには盤面が元に戻り、手番だけが藤井王将に移っている取引になります。泣きたくなるような一手パスですが、菅井八段はじっと耐えて逆転のチャンスを待ちました。

 しかし優位に立った藤井王将は、まったく間違える気配がありません。以下は盤石の態勢で、勝利へと近づいていきました。

 121手目、藤井王将は菅井陣に龍(成飛車)を入って王手をかけます。ここで菅井八段は投了。藤井王将の防衛でシリーズは幕を閉じました。

 両者の対戦成績はこれで藤井13勝、菅井4勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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