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藤井聡太NHK杯選手権者、今期ベスト8進出! 3回戦で久保利明九段の三間飛車を破る

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月21日。第73回NHK杯将棋トーナメント3回戦▲久保利明九段(48歳)-△藤井聡太NHK杯選手権者戦が放映されました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 結果は108手で藤井NHK杯の勝ちとなりました。

 藤井NHK杯はベスト8に進出。2月4日に放映される準々決勝で、伊藤匠七段と対戦します。

久保九段、三間飛車を選ぶ

 対局開始前、両対局者は次のように語っていました。

藤井「久保九段は振り飛車党で、かろやかなさばきと粘り強さをあわせ持った棋風という印象です。早指し戦なので、残り時間を意識しながら戦いたいと思っています」

久保「久しぶりの対戦にもなりますので、楽しみにしていました。いまの自分の力がどれぐらい通用するかというところも考えながら、指していきたいなと思っています。基本的には振り飛車の戦いにはなるとは思うんですけども、その中で自分の特色をいかした戦いができればなと思っています」

 まず注目されるのは、久保九段がどこに飛車を振るのか。両者の対戦では千日手局を含め、久保九段は四間飛車を7回、中飛車を1回選んでいます。

 本局は振り駒の結果、久保九段先手。5手目、久保九段は三間飛車に振りました。

 本局の放映時間はちょうど、王将戦七番勝負第2局▲藤井王将-△菅井竜也八段戦の2日目と重なっていました。王将戦の方では、菅井八段の三間飛車が見られました。

 21手目、藤井NHK杯は3筋に角を上がります。持久戦を志向した一手で、このあとは穏やかな駒組が続けば、藤井NHK杯の方はすんなり穴熊に組むことが予想されます。久保九段は3筋の歩を突き、以下は積極的に動いていきました。

久保「序盤はいろいろある中で、ある程度想定内ではあったんですけども」「先手番ということで、主導権を握ってという戦いをしたかったので。行けるときは攻めて行こうかとは思っていたんですけど。その中でひとつの、そういう局面にはなったかなと思ったので。積極的には行ってみました」

 中段の銀と袖飛車、さらには角のにらみをいかして、久保九段の攻めは迫力十分。対して藤井NHK杯は角の転換から反発。早くも大決戦となりました。

藤井「かなり激しい展開になって、ちょっと判断がつかない局面が多かったんですけど。途中でいくつかミスも出てしまったのかなとは思います」

久保「すごく激しい将棋になりまして。ちょっと中盤でいろいろ迷ったところもあったんですけど。うーん、そうですね。ちょっと変化が多くて、何が正解だったかよくわからなかったです」

藤井NHK杯、激戦を制す

 時間があればいくらでも考えたくなるような難しい進行の中、38手目、藤井NHK杯は決断して6筋の歩を突き上げます。

藤井「△5三角と引くのが自然だと思ったんですけど。▲8四歩のときにどう指すかまた難しくなるかなと思ったので。△6四歩はリスクのある手だと思ったんですけど、考えて難しいかなと思ったので、指してみたというところでした」

久保「(ポイントと思う局面は)△6四歩突かれたときに、うまく対応できているかどうかというところと(その少し前の34手目)△8六歩と突いた手を取った手がよかったのかどうかとか。あのあたりでけっこう変化がいろいろあるので。そこでうまく指せたかどうかっていうのがちょっと、精査してみないとわからないですかね」

 コンピュータ将棋(AI)の判定では藤井NHK杯に少し分があるものの、それほど差はない形勢のまま、盤上は一気に終盤へと入っていきました。

藤井「中盤から終盤に差し掛かるところで、大きく間違えてしまって。少し苦しくなった局面もあったと思うんですけど」

 74手目。藤井NHK杯は1筋の端歩を突きました。「端玉には端歩」というセオリー通り、久保玉にプレッシャーをかけています。

 手番が回ってきた久保九段は二枚飛車の威力で藤井玉に迫っていきます。しかし藤井NHK杯はその攻めをしのいで、どうやらゴールが見えてきました。

藤井「(84手目)▲1六歩と取り込む手が間に合って、よくなったかなと思いました」

 久保九段は形を作ったあと、視聴者にわかりやすいよう、自玉が詰まされる少し前のところまで指し進めます。108手目、藤井NHK杯が王手で歩を打った局面で久保九段は投了。熱戦に幕がおろされました。

 両者の対戦成績はこれで藤井5勝、久保3勝、千日手1局となりました。

NHK杯と棋王戦で藤井-伊藤対決

 藤井NHK杯はベスト8に進出。2年連続の優勝まであと3勝としました。

 準々決勝の藤井聡太NHK杯-伊藤匠七段戦は2月4日に放映されます。

 また同じ2月4日には棋王戦五番勝負第1局、藤井棋王-伊藤挑戦者戦もおこなわれます。

 もちろん対局者の立場では、NHK杯は2月4日よりも前に収録されます。

 一方、観戦者の目線では、2月4日午前は藤井-伊藤、両者による「二面指し」が見られることになります。藤井-伊藤戦は言うまでもなく、同じ21歳同士、現棋界トップクラス同士の好カード。NHK杯、棋王戦第1局ともにファンにとっては必見で、忙しい一日となりそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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