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藤井聡太NHK杯選手権者、さばきのアーティスト・久保利明九段と対戦 1月21日放映NHK杯3回戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月21日。第73回NHK杯将棋トーナメント3回戦・藤井聡太NHK杯選手権者(21歳)-久保利明九段(48歳)戦が放映されます。勝者はベスト8に進み、準々決勝で伊藤匠七段(21歳)と対戦します。

両者ともにNHK杯優勝1回

 藤井NHK杯は前期、本棋戦初の優勝を飾りました。

 久保九段はいまから20年前、2003年度に優勝しています。

今期ここまでの歩み

 藤井NHK杯は今期1回戦はシード。2回戦で出口若武六段と対戦しました。棋譜はこちらをご覧ください。

 出口六段先手で、戦型は角換わり。終盤まで勝敗不明の戦いが続きました。最後は藤井NHK杯が出口六段の一失をとらえて押し切り、110手で勝利を収めました。

 久保九段は1回戦で田村康介七段に勝ち。2回戦で里見香奈女流五冠(現・福間香奈女流四冠)と対戦しました。棋譜はこちらをご覧ください。

 振り飛車党同士の対戦は、先手の里見女流五冠が中飛車に。後手の久保九段は居飛車穴熊を選びました。中盤の戦いで久保九段が優位に立ち、最後は里見玉を詰ませて勝ち切りました。

過去の対戦成績は拮抗

 藤井NHK杯と久保九段は過去に7回対戦し、藤井4勝、久保3勝と拮抗した数字が残されています。

 藤井現八冠は最初の何年か、なかなか勝てない棋士がいて、久保九段もその一人でした。直近では藤井現八冠が3連勝中で押し返しています。

 久保九段は「さばきのアーティスト」の呼び名で知られる振り飛車党。両者の対戦では、千日手局を含めて過去8局のうち7局は四間飛車。あと1局は中飛車です。

 本局の注目ポイントもまずは、久保九段がどこに飛車を振るかでしょう。

2019年度NHK杯

 2019年度のNHK杯では両者は2回戦で対戦。後手の久保九段の四間飛車に藤井七段(当時)は左美濃から銀冠に組みます。互いに角を手持ちにして打開ができず、62手で千日手になりました。

 指し直し局の棋譜はこちらをご覧ください。

 以下は当時、筆者が書いた記事です。

 先手となった久保九段は、今度もまた、四間飛車の作戦です。そして再び、角交換に。久保陣の構えは、アマチュアの立石勝己(たていし・かつみ)さんが開発した「立石流」の形になりました。
 久保九段は美濃囲い、藤井七段は銀冠の堅陣に組みます。そして再び、戦況は膠着状態に陥りました。ただし、今回は藤井七段が待ち続ける順も難しかったようです。
 藤井七段は自陣に角を打ち据えて、打開の順を選びました。久保九段も手に乗って動き、本格的な中盤の戦いが始まります。
 久保九段は相手陣に角を打ち込んで、馬(成り角)を作りました。
 対して藤井七段は久保九段の玉近くの端から反撃を開始。藤井七段が盤面の右に左に手をつけ、あちこちで火の手が上がり、盤面いっぱいを使っての戦いとなりました。
 先に考慮時間を使い切ったのは久保九段。以下は1手30秒以内で指すことになります。
 難しい中盤の押し引きが続くうちに、いつしかリードを奪ったのは藤井七段でした。
 やがて藤井七段も時間を使い切って、双方30秒の秒読みに。早指しのNHK杯では、この秒読みの中で、幾多のドラマが生まれてきました。
 藤井七段は飛車と角を成りこみ、強力な龍と馬を作って、いち早く久保陣の攻略を目指します。終盤の入口では、藤井七段がはっきり優位に立っていたようです。
 しかし久保九段も金を取りながら馬を作って、藤井七段の本陣に迫ります。
 そこでどこか、藤井七段に緩手が出てしまったか。藤井七段の終盤力は傑出したものですが、久保九段も当然ながら強い。銀を捨てて、藤井玉を端の危険地帯におびき寄せます。あっという間に体が入れ替わり、逆転模様となりました。
 さすがは歴戦の久保九段というところ。解説を担当していた藤井七段の師匠の杉本昌隆八段は、改めて久保九段の終盤力に感嘆していました。
 攻防にはたらいている馬と藤井玉が1筋に並び、その動きを久保九段は1枚の香で制しています。見事な指し回しで、最後は久保九段がはっきり勝勢となりました。
 焦点は最後、久保九段の玉が詰むか詰まないか、という点にしぼられました。
 藤井七段もまた、銀を捨てて久保玉に迫ります。しかし馬が身動きができない状態では、どうしても駒が足りない。
 詰将棋を解くのが世界一速い藤井七段なら、久保玉が詰まないのは、すぐにわかっていたのでしょう。藤井七段は何度も悔しそうな表情を見せました。王手を続けながら、がっくりと肩を落とし、下を向きます。
 藤井七段が龍で王手をしたのに対して、137手目、久保九段は金を合駒します。やはり、はっきりと詰みません。
 藤井七段が頭を下げ、さしもの大熱戦も終幕となりました。
 投了後もしばらく、藤井七段はうつむいたままでした。
 久保九段と藤井七段の対戦成績は、これで久保九段の3勝1敗となりました。
(松本博文、2019年8月25日記事)

 改めて並べ直してみると、16歳の藤井七段はすでにおそろしく強い。そして苦しい局面をしのいで逆転に持ち込んだ久保九段もまた見事という印象を受けます。

 本局が放映される時間(1月21日10時30分~12時)はちょうど、王将戦七番勝負第2局▲藤井王将-△菅井竜也八段戦の2日目午前と重なります。こちらもおそらくは菅井八段の振り飛車でしょう。いずれも目が離せない対局となりそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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