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羽生善治挑戦者、難易度高き歩の垂らし! 藤井聡太王将、鮮烈な銀の放り込み! 王将戦第1局2日目始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月9日9時。静岡県掛川市・掛川城二の丸茶室において第72期ALSOK杯王将戦七番勝負▲藤井聡太王将(20歳)-△羽生善治挑戦者(52歳)戦、2日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 朝、対局室には羽生挑戦者、藤井王将の順に入室。藤井王将が「王将」、羽生挑戦者が「玉将」の駒を据え、大橋流で並べていきました。

 両者ともに駒を並べ終えたあと、記録係・中沢良輔三段の棋譜読み上げによって、昨日1日目の指し手を再現していきます。

 昨日は後手の羽生挑戦者が一手損角換わりを採用したことが、早くも話題となりました。

 羽生挑戦者もかつてはよく指していた戦法ですが、最近では珍しい。さすがの藤井王将も意表を突かれたようです。互いに早繰り銀から戦いが始まって難しい中盤戦に。両者ともに長考の応酬となりました。

 封じ手は羽生九段の44手目。久保九段が封筒を開くと、用紙には成銀が丸で囲まれ、相手の銀を取るように矢印が示されていました。予想本命の一手です。

 両者ともにあらためて一礼をして、2日目の対局が始まりました。

 藤井王将はお茶を一口飲みます。掛川は深蒸し茶の美味しいところとしても知られています。

 藤井王将は現在20歳。同世代の象徴でもあるでしょう。

 藤井王将は成銀を金で取ります。注目されるのは、この次の羽生挑戦者の一手でした。コンピュータ将棋ソフトが示す最善手は難易度の高い歩を垂らす手。それを羽生挑戦者は指しました。

 さすがは羽生挑戦者、というところでしょう。解説の森内俊之九段は次のように語っていました。

森内「決断の手ですね、これは。予想手のひとつで、昨日のAI予想では一番人気だったんですけど。ただちょっとこう、少しやりにくい手でもあるかなというふうに思ったので。この手を指すかどうかは、なんともいえないなと思って見てたんですけど」

 藤井王将はどこまで想定していたのか。ここで手が止まり、熟慮に沈みます。考えること44分。藤井王将の右手は駒台に伸びます。そして銀を餅、タダで取られるところに放り込みました。なんともまた、目をみはるような鮮烈な手です。

森内「いやあ、それ打つんだ。すごいなあ」

 森内九段も感嘆の声をあげていました。候補手の一つとして、棋士なら想定されるところではあっても、やはりインパクトはあります。

 放り込んだ銀を取ってくれれば、藤井王将は飛車を成ることができます。

「良い手だね」

 ほかならぬ藤井王将が指しただけに、多くの観戦者ならそう思いそうなところです。

 ただしこの銀打ちは羽生挑戦者にとっても想定内だったか。取れる銀は取らず、15分の考慮で飛車取りに銀を打ちます。高度な応酬が続いて、形勢は互角。勝負はこれからです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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