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藤井聡太竜王(20)名人挑戦権争い単独トップ! A級6回戦で佐藤天彦九段(34)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月23日。愛知・名古屋将棋対局場において第81期A級順位戦6回戦▲佐藤天彦九段(34歳)-△藤井聡太竜王(20歳)戦がおこなわれました。

 朝10時に始まった対局は24時6分に終局。結果は110手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 リーグ成績は藤井竜王5勝1敗、佐藤1勝5敗。6回戦を終えた時点で、藤井竜王は名人挑戦権争いの単独トップに立っています。

藤井「まだ残り3局あるので、挑戦を意識するというよりは、残りの対局それぞれに、全力を尽くせたらと思っています」

 藤井竜王の順位戦通算成績は54勝4敗(勝率0.931)となりました。

 藤井竜王の今年度成績は33勝7敗(勝率0.825)となりました。(未放映のテレビ対局の結果はのぞく)

 また未放映のテレビ対局の結果も含めて、藤井竜王が通算300勝に達したことが公式に発表されました。

藤井竜王、新構想の仕掛け

 順位戦は戦後に創設され、ほどなく現在のように、A級優勝者が名人挑戦権を獲得するという制度が確立しました。その長い歴史の中で、A級に昇級直後の1期目で名人挑戦権を獲得し、そのまま名人になった棋士は過去に3人しかいません。谷川浩司現17世名人、羽生善治現九段、そして佐藤天彦九段です。

 もし藤井竜王が今期名人挑戦権を獲得し、来春から始まる七番勝負で渡辺明名人を降して名人位に就けば史上4人目の例。そして谷川17世名人の21歳という記録を抜いて、史上最年少名人となります。

 本局、先手の佐藤九段は矢倉を選びました。棋王戦準決勝でも採用した戦型です。

 藤井竜王は金を三段目に上がり、それから桂を五段目に跳ねていく仕掛けを見せました。これが新しい構想でした。

藤井「一応この形になれば、やってみようかなというふうに思っていた順で。ただ、やっぱりこちらの玉も薄い形で戦いになってしまうので。きわどい変化が多いのかなと思っていました」

「本譜、△6三金から△6五桂という攻め筋を、ちょっと事前に認識していなくて。先手なんですけど、いきなりつぶされそうな将棋になってしまったので。そこはまあ、ちょっとよくなかったというか。かなり序盤からつぶされないように、気をつかってという展開でした」

 42手目、藤井竜王は1時間5分考えて、中段に出ていた飛車を、じっと一段目に引きます。

藤井「どちらも銀を繰り出して攻めていく筋があるので。展開次第ではすぐに攻め合いになってしまう形なので。ちょっとどうバランスを取るのか。難しい局面が続いていってるのかなと思っていました」

 対して43手目、佐藤九段は57分の熟慮。左辺に移動していた玉を、右側に向けて戻していきます。

佐藤「けっこう、こちらから攻め合いにいく変化もあるのかとは思ったんですけれども。どうしてもちょっと7九玉の位置が相手の攻め駒に近いので。ちょっと自分の中では自信の持てない変化が多くて。比較的傷(いた)んでいない右辺の方に王様を逃していって。ちょっと『粘り強く指せたらな』と思いながらやっていた感じですね」

 ここからも両者の長考は続き、力のこもった中盤戦となりました。

藤井「すぐに終盤になってしまうような変化が多くて。距離感の難しい将棋だったのかな、と思います」

 夜戦に入っての47手目。佐藤九段は銀桂交換の駒損ながら、質駒の桂を取って攻めに出ます。対して、藤井竜王は手にした銀を端1筋に打ちつけて受けました。

佐藤「▲6五銀(と桂を)取って▲1五桂打ったら、本譜みたいな展開になるとは思っていたんですけど。ちょっとしょうがないかな、と思っていたところもあって。ただやっぱり、こちらは歩しかないので、基本的に細いのかなと思いながらやってはいました」

 53手目、佐藤九段は角を藤井陣上部に進めて攻めを継続。少し藤井竜王のペースと見られながらも、きわどい終盤戦が始まりました。

 佐藤九段の側からは角を切り捨てて銀と差し違える順があり、藤井竜王側から見れば怖そうにも見えるところ。そこを藤井竜王は攻め合いに出ます。

藤井「そういった攻め合いの変化もわからなかったですけど。ただ▲4二角成に△同玉と取り返した形が少し、玉が二段目に出て広くなるところもあるので。そういった変化を攻め合いにいってどうかと思っていました」

佐藤「▲4二角成とか、そういう攻めに出ても余されてしまいそうな感じだったので、粘りに出たという感じで」

 斬り合いにいけば、藤井玉にはかなり迫る形にはなっても、少し足りない。佐藤九段は逆転のチャンスを待ち、粘り強く指し続けます。

藤井竜王、佐藤九段の粘りを振り切る

 59手目。佐藤九段は玉を早逃げしました。

藤井「▲4八玉と上がられたところでちょっと、時間を使ったんですけど。攻め合いにいくのか、余しにいくのか、どういう方針で指せばいいのかわからなくて。ちょっと本譜はなんというか、歩切れになってしまうので。少し、あまり、いい指し方ではなかったかもしれないなと思います」

 棋王戦準決勝でも、佐藤九段は苦戦の中で玉を右辺に逃げ出し、最後は劇的な逆転勝ちを収めました。

 73手目、佐藤九段は金取りを受けて、自陣に桂を打ちつけます。これもさすがという粘り。対して藤井竜王は、馬を切ってその桂を取りました。

藤井「手前の時間を使ったところから少し、ちょっと自分の中ではあまり読みがまとまらなくなってしまっていたところはあったんですけど。8一の飛車のままだと(7一飛、6三金の両取りで)▲7二角、▲7二銀という筋がやっぱり常に残ってしまうので。それを消して受けに回るという方針でやっていました」

 89手目。佐藤九段は王手で飛車を成り込みます。観戦者の目からすれば、流れは逆転ムードにも見えるところ。しかし藤井竜王は終始落ち着いていました。しっかり受けて、藤井玉は寄りません。

佐藤「結果的にはそんなに追い上げる感じにはならなかったというか。あんまりいい感じの局面はなかったのかな、というところですね。ちょっとこちらがはっきりわるいと思うんですけど。手をつなぐだけつないで、チャンスを待つという感じではあったと思うんですけど。まあしっかり指されて、全体的にはずっと苦しかったのかなと思います」

 108手目。藤井竜王は銀を取りながら桂を成り込み、王手をかけます。佐藤九段はくちびるにリップクリームを塗って、飲み物を口にします。

記録係「50秒、1、2、3、4、5」

 一分将棋で秒を読まれる中で、玉で成桂を取る佐藤九段。対して残り18分の藤井竜王は一呼吸をおいて、110手目、桂を打って王手をかけます。これで佐藤玉は即詰みです。佐藤九段はあぐらから正座に戻りました。

記録係「50秒、1、2、3、4、5、6」

佐藤「負けました」

藤井「ありがとうございました」

 深夜0時6分。佐藤九段が投了し、熱戦に終止符が打たれました。

 両者の対戦成績はこれで藤井5勝、佐藤1勝となりました。

 この秋から冬にかけて、何度も対局が続いていく両者。12月27日には、棋王戦挑戦者決定二番勝負の第2局が予定されています。勝者は渡辺明棋王への挑戦権を獲得します。

藤井「棋王戦の対局もすぐにあるので。まず、本局をしっかり振り返ったうえで、また、いい状態で臨めればと思います」

佐藤「ちょっと今日の将棋がどうだったのかということをしっかり反省して。まあ総括して。27日ですかね。そちらの対局にも全力で向かっていければと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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