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佐藤天彦九段(34)横歩取りに誘導 藤井聡太竜王(20)堂々と受けて立つ 棋王戦挑決第1局開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月19日10時。第48期棋王戦コナミグループ杯・挑戦者決定二番勝負第1局▲藤井聡太竜王(20歳)-△佐藤天彦九段(34歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 現在棋王戦は「冬将軍」とも呼ばれる渡辺明棋王(38歳)が10連覇中です。

 渡辺棋王への挑戦権を争うトーナメントはクライマックスの段階を迎えました。藤井竜王は敗者復活戦で伊藤匠五段、羽生善治九段に勝って、挑決に進出。挑決で対戦相手として待ち構えているのは、藤井竜王が準決勝で敗れた佐藤九段です。

 準決勝は佐藤九段先手で戦型は矢倉。結果は121手で、佐藤九段が劇的な逆転勝ちを収めました。

 勝者組を制した佐藤九段にはアドバンテージがあり、2局のうちで1勝をあげれば挑戦権を獲得。対して藤井竜王は2連勝が必要となります。

 対局がおこなわれるのは東京・将棋会館5階の特別対局室。まず藤井竜王が姿を見せ、上座に着きます。続いて佐藤九段が下座に。両者駒を並べ終えたあと、先後を決める振り駒がおこなわれました。

 記録係が藤井竜王側の歩を5枚取って、包んだ手の中でよく振り、畳の上に放ります。表の「歩」が5枚出て、本局は藤井竜王の先手と決まりました。

 もし本局で藤井竜王が勝ち、挑決第2局がおこなわれる場合、次は先後が入れ替わって、自動的に佐藤九段が先手・・・と思いそうなところですが、実はそうではありません。

 将棋界の事情をよく知る人でもうっかりしそうなところですが、実は第2局ではまた改めて振り駒がおこなわれます。1998年度に勝者組から挑決に進んだ藤井猛現九段(当時竜王)も第1局で佐藤康光現九段(当時名人)に敗れるまで知らなかったそうです。

 振り返ってみれば、24年前のいまごろも、棋王戦挑決は「藤井-佐藤戦」だったことになります。当時のタイトル保持者は、羽生善治棋王(四冠)、藤井猛竜王、佐藤康光名人、郷田真隆棋聖という顔ぶれでした。

 棋王戦挑決では佐藤康光名人が先手番で2連勝し挑戦権を獲得。五番勝負では羽生棋王が3勝0敗で防衛し、9連覇を達成しています。

 羽生九段は現在までに棋王12連覇、通算13期という大記録を達成しています。

「連続5期」という厳しい条件をクリアして、永世棋王の資格を保持しているのは、羽生現九段と渡辺現棋王の2人だけです。

 定刻10時。

「それでは時間になりましたので、藤井先生の先手番でよろしくお願いいたします」

 記録係が対局開始の合図をして、藤井聡太竜王と佐藤天彦九段は一礼。2022年度の棋王戦挑決が始まりました。

 藤井竜王はまず、紙コップに注がれたお茶を口にします。そして初手、飛車先の歩を突きました。

 対して佐藤九段はグラスに注がれた水を飲んだあと、しばし瞑想。そして角筋を開きました。

 佐藤九段は横歩取りに誘導します。藤井竜王は避けることなく、飛車を横に動かすモーションで、相手の歩を取りました。戦型は横歩取りです。

 11時現在は藤井竜王が27手目を考えています。まだ序盤で形勢は互角。しかし戦型の性質上、水面下では常に一触即発の激しい順を含みとしているため、午前から目が離せない進行です。

 棋王戦挑決の持ち時間は4時間(ストップウォッチ形式)。昼食休憩をはさんで、夕食休憩はなく、通例では夕方から夜にかけての終局となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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