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大天才・藤井聡太竜王(20)竜王位初防衛 広瀬章人八段(35)の挑戦を4勝2敗で退ける

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月2日・3日。鹿児島県指宿市・指宿白水館において第35期竜王戦七番勝負第6局▲藤井聡太竜王(20歳)-△広瀬章人挑戦者(35歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 2日9時に始まった対局は3日17時17分に終局。結果は113手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 19歳で竜王位に就いた藤井竜王。20歳となった今年は七番勝負を4勝2敗で制して、竜王位初防衛を決めました。

 藤井竜王は全タイトル戦の七番勝負において、今期竜王戦で初の2敗目を喫し、初の第6局を指しました。しかし第7局はありませんでした。

 藤井竜王はタイトル戦初登場以来、11回タイトル戦に登場。そのすべてを制しています。そうした棋士は過去にはいません。

 タイトル通算11期は歴代9位です。

 将棋界の八大タイトルのうち、五冠を保持する藤井竜王。今年度は叡王、棋聖、王位、竜王の四冠を防衛しました。ここから王将を防衛し、棋王に挑戦し、獲得すれば、年度内に史上最年少六冠となります。

藤井竜王、盤石の防衛

 藤井竜王先手で戦型は角換わり腰掛銀。前例をふまえての複雑な駆け引きの末、藤井竜王が桂を跳ねて仕掛け、1日目から激しい戦いに入りました。

 2日目。封じ手とされていた広瀬挑戦者の70手目が開かれて対局再開。藤井竜王が飛車を取らせる代償に、先に広瀬玉に迫る順を得て、リードを奪いました。

 81手目。藤井竜王は20分考えて、タダで取られるところに銀を打ちます。これがきびしい王手。取っては寄ってしまうので広瀬挑戦者は取らず、盤面右側に玉を逃していきます。

 少しでも間違えれば、とたんに逆転しそうな終盤戦。しかし藤井竜王は間違えません。広瀬玉を右端9筋まで追い詰めたところで、藤井竜王はじっと金を近づけます。いつもながらに正確無比な速度計算。自玉に詰めろがかからないのを読み切っています。

 持ち時間8時間のうち、残りは藤井2時間1分、広瀬59分。かつての藤井竜王は序中盤で惜しみなく時間を使い、終盤ではほとんど時間が残っていない場面もしばしば見られました。しかし最近では最終盤でも時間に余裕があるように見られます。

 100手目を前にして、落胆した表情の広瀬挑戦者。刻々と時間が削られていきます。広瀬挑戦者は36分を使い、残りは23分。そして香を打ち、王手をかけて席を立ちました。

 101手目。藤井竜王は静かに同玉と応じます。1分を使って、残りは2時間です。

 席に戻ってきた広瀬挑戦者。下段から角を打って王手をかけました。さすがの迫り方で、受け間違えれば、やはりつかまってしまう藤井玉。時間に余裕のある藤井竜王はあわてず、改めて考えます。

 103手目。藤井竜王は13分考えて、合駒に香を打ちました。これも正確な受け。やはり藤井玉はつかまりません。

 107手目。上部の四段目に玉を逃げればよさそうと思われたところで、藤井竜王は下の二段目に引きます。相手の攻め駒に近づくだけに、なんとも怖いところ。しかしこれで勝ちです。

 鷹揚な人柄と言われる広瀬挑戦者。普段は勝っても負けても淡々としていることが多いのですが、本局の最後の方では、落胆を隠しませんでした。

 広瀬挑戦者が藤井玉に詰めろをかけて形をつくったあと、113手目、藤井竜王はもらった角で広瀬玉に王手をかけます。これで広瀬玉は詰み。広瀬挑戦者が投了し、七番勝負に幕がおろされました。

 両者の対戦成績はこれで藤井10勝、広瀬3勝となりました。

 藤井竜王の今年度成績は28勝7敗(勝率0.800)となりました。タイトル五冠を保持しながらこの勝率は驚異的というよりありません。

 藤井竜王は今年度勝率8割台で終えると、デビュー以来6年連続となります。

 藤井竜王のタイトル戦番勝負における通算成績は39勝8敗(勝率0.830)です。

 公式戦において勝率8割が驚異的なのに、タイトル戦で8割3分とはどういうことでしょうか。大山康晴15世名人、中原誠16世名人、羽生善治九段、渡辺明名人といった大棋士であっても、タイトル戦番勝負における勝率は6割前後です。

 藤井竜王はこの先、どこまで勝ち続けるのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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