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豊島将之九段(32)プレーオフの可能性を残して最終戦へ! 王将リーグ、渡辺明名人(38)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月15日。東京・将棋会館において第72期ALSOK杯王将戦・挑戦者決定リーグ▲豊島将之九段(32歳)-△渡辺明名人(38歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時46分に終局。結果は113手で豊島九段の勝ちとなりました。

 勝った豊島九段は4勝1敗。11月22日におこなわれる最終局において羽生善治九段(現在5勝0敗)に勝てば、プレーオフに持ち込むことができます。最終的に藤井聡太王将への挑戦権をつかむのは、はたしてどちらでしょうか。

 すでに陥落が決まっていた前王将・渡辺名人。最終的には1勝5敗となり、一足早くリーグ全局を終えました。

豊島九段、角換わり腰掛銀の熱戦を制す

 豊島九段先手で戦型は角換わり腰掛銀。互いに仕掛け合って、中盤の戦いが始まりました。

渡辺「作戦だったんですけど、▲4五歩△6五歩のあとはちょっと手が広いんで、そのあとまた考えようかなと」

 47手目。豊島九段は相手陣に角を打ち込みました。そして馬(成角)を作ります。

豊島「馬を作ったんですけど、あんまり戦果が上がっていなかったかなと。途中からは若干苦しいかなと思いました」

 渡辺名人が銀取りで歩を取り込んだのに対して、51手目、豊島九段は銀を引いて逃げます。

渡辺「取り込み(△7六歩)に銀引く形(▲8八銀)になったら指せるのかなと思ってたんですけど。うーん。まあでも、指せるといっても少しなのかな、という感じで」

 渡辺名人がわずかにリードして、昼食休憩に入りました。

豊島「(苦しいと思ったのは)昼の休憩からですかね。まあもっと前にわるくなってたのかもしれないです」

 午後の戦いに入ってから、戦いは激しさを増していきます。

 68手目。渡辺名人は銀を進める手に38分考えました。このあたりは一局の大きな分岐点だったようです。「あのあたりから少しずつ形勢を損ねていった感じがした」「長考したところであまりいい手が浮かばなかった」と渡辺名人は局後に語りました。

 69手目。豊島九段は渡辺玉の近くに歩を置きます。

豊島「こちらは玉がかなり危険なので、よくわからなかったです。▲2三歩打って、けっこう大変なのかなとは思ったんですけど。(形勢は)はっきりわからなかったですね」

 そのあと、豊島九段は相手陣に作ったと金で、相手の攻め駒を取っていきます。

 72手目。渡辺名人はと金に追われながら角を逃げます。持ち時間4時間を使い切って、あとは一分将棋。対して豊島九段は1時間26分を残していました。

渡辺「ちょっと駒損になってからは、基本的にはつらいかなとは思ってやってたんですけど。と金でいっぱい駒を取られたんで。桂とか角とか飛車とか。そのあたりはちょっとつらいかなと」

 一方、豊島九段もそんなに自信はなかったようです。

豊島「途中でいい局面もあったと思うんですけど。手拍子で指してしまってまたなんか、まずい感じになったかなと思いました」「(79手目)▲7四とのところでもっと考えて、方針をしっかり決めないといけなかったような気がします」

 84手目。渡辺名人は相手陣に王手で銀を打ちます。これがさすがの追い込み方。評価値の上では渡辺名人が追いついて、互いに攻防手が飛び出す勝敗不明の終盤戦を迎えました。

 残り時間を多く残している豊島九段は、相手が指したらすぐに応じる「ノータイム指し」を何度も見せます。そして要所要所で余った時間を使うスタイル。形勢は再び、豊島九段が突き放しました。

豊島「最後(105手目)▲3一角と王手して、勝ちかなと思いました」

 109手目、豊島九段は相手陣に桂を成ります。相手玉を受けなしに追い込みながら、自玉の逃げ道を開く「詰めろ逃れの詰めろ」で、きれいに決まりました。

 最後、渡辺名人は観戦者の目にも豊島玉が詰まないとわかるところまで進めて投了。豊島九段が大きな一番を制しました。

豊島「(一局を振り返って)けっこう悪手を指してしまったかなと。苦しい局面も多かったと思いますし、ちょっとわるい手もたくさん出てしまったかなと」

渡辺「(リーグを振り返って)ちょっとまずい将棋も多かったんで。それは現状として、またこれからに活かしていきたいなとは思います」

激熱のリーグ、いよいよ最終戦へ

 豊島九段は羽生九段との最終戦について、次のように抱負を語りました。

豊島「一週間後ですけど、しっかり準備して、せいいっぱいがんばりたいと思います」

 11月22日におこなわれる最終戦のカードは以下の通りです。(▲=先手、△=後手)

▲羽生善治九段(5勝0敗)-△豊島将之九段(4勝1敗)

△永瀬拓矢王座(3勝2敗)-▲服部慎一郎五段(1勝4敗)

△近藤誠也七段(2勝3敗)-▲糸谷哲郎八段(2勝3敗)

 羽生-豊島戦は羽生九段が勝てば6戦全勝で挑戦権獲得。豊島九段勝てば5勝1敗で並び、一番勝負のプレーオフ(挑戦者決定戦)へともつれこみます。

 近藤-糸谷戦は勝った方が残留となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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