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イナズマ炸裂ならず 里見香奈女流五冠(30)棋士編入試験第1局で徳田拳士四段(24)に敗れる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月18日。大阪・関西将棋会館において棋士編入試験第1局▲徳田拳士四段(24歳)-△里見香奈女流五冠(30歳)戦がおこなわれました。

 結果は127手で徳田四段の勝ちとなりました。

 五番勝負は黒星スタートとなった里見女流五冠。岡部怜央四段(23歳)と対戦する第2局は9月22日、東京・将棋会館でおこなわれます。先後は入れ替わり、第2局は里見女流五冠先手となります。

徳田四段、実力発揮で壁となる

 本局は里見女流五冠が後手。戦型は得意の中飛車でした。

 形勢互角で迎えた終盤戦。解説の羽生善治九段は千日手(お互いに手を変えることができなくなっての引き分け、指し直し)の可能性も示唆していました。

 80手目。里見女流五冠は角を取らせて攻める順を選びます。結果的には、この判断はどうだったか。

 そこからペースをつかんだのは、徳田四段でした。デビュー間もない新人ながら、現在勝率1位の実力をいかんなく発揮。駒得を重ねながら、落ち着いて優位を広げていきました。

「出雲のイナズマ」と称される卓越した終盤力を持つ里見女流五冠。本局では残念ながら、徳田四段の手厚い指し回しの前に鋭手を封じられた格好です。

 125手目。徳田四段はじっと歩を伸ばします。これがゆっくりしているようでいて、勝ちを急がない本筋の一手。

羽生「格調高いですねえ」

 囲碁・将棋チャンネル(将棋プレミアム)で解説の羽生九段も感嘆の声をあげていました。2009年の小学生名人戦決勝。徳田少年が指した手を「明るい」「非常にセンスのいい手」と称賛したのも羽生現九段。「うまいですね」と言ったのは、聞き手を務めていた里見現女流五冠でした。

 127手目。徳田四段はあたりになっている龍を逃げて盤石の態勢です。攻防ともに見込みのなくなった里見女流五冠。残り8分を使って、次の手は指さず、そのまま潔く投了を告げました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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