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出雲のイナズマ炸裂! 里見香奈女流四冠、棋聖戦一次予選で前期叡王挑戦者・出口若武六段を撃破!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月24日。大阪・関西将棋会館において第94期ヒューリック杯棋聖戦一次予選の対局がおこなわれました。

 里見香奈女流四冠(30歳)は10時からの1回戦で浦野真彦八段(58歳)に勝利。

 次いで14時からの2回戦では、出口若武六段(27歳)にも勝ちました。

 プロ公式戦ですでに10勝4敗(勝率0.714)の成績をあげ、プロ編入試験の受験資格を得ている里見女流四冠。それからさらに2勝を積み上げ、現在は12勝4敗(勝率0.750、7連勝中)となりました。

里見女流四冠、棋聖戦でも快進撃

 里見女流四冠は本棋戦、過去に5期出場。いずれも一次予選で敗退しています。とにかく相手がキツく、2018年には藤井聡太七段(現棋聖)と対戦しました。

 2019年には3連勝で一次予選決勝まで進出したものの、最後は大橋貴洸四段(現六段)に敗れています。

 里見女流四冠は今期まず、1回戦で浦野真彦八段と対戦しました。過去には里見女流四冠が3連勝しています。本日は後手で、得意の中飛車に振りました。

 浦野八段は引き角から居玉のまま指し進める趣向。対して里見女流四冠は堅く美濃囲いに組んでから巧みに揺さぶりをかけました。

 里見女流四冠は着実にリードを広げたあと、最後は三十手近い詰み手順を読み切って、華麗なフィニッシュ。114手で快勝を収めました。

前期叡王挑戦者にも勝つ

 続く2回戦、里見女流四冠は出口若武六段と対戦。出口六段は若手強豪の代表的な一人であり、前期叡王挑戦者です。

 三段リーグでは里見1勝、出口4勝でした。

「いくら里見さんが強くとも、出口六段が相手では厳しいのではないか・・・」

 そう思われた方が多いと思われます(筆者もその一人でした)。しかし2019年のトーナメント表をよく見れば、そこでは里見勝ちです。

 里見女流四冠後手で、本局は四間飛車に振りました。対して出口六段は居飛車穴熊の堅陣に。出口六段が飛車を成り込んで大きなポイントを挙げたのに対して、里見女流四冠は穴熊の弱点である端から殺到して勝負を懸けます。

 出口六段優勢で迎えた終盤。里見女流四冠は中段に玉をかわしてきわどくしのぎます。形勢が混沌とし、また持ち時間もない中で、里見女流四冠は攻防手を連発。ついに逆転へとこぎつけました。

 最後はイナズマ一閃、角を成り捨てて出口玉を受けなしに。131手で里見女流四冠の勝ちとなりました。

 強い・・・! とにかく強い。語彙力がありませんが、その一語に尽きるでしょう。

 最近の将棋界における大きなトピックの一つは、里見女流四冠が棋士編入試験を受験するかどうかです。

 里見女流四冠は現在まで、受験するかどうかの判断を保留しています。

「初の『女性棋士』を目指して、編入試験を受けてほしい」

 そう願っているファンや関係者も多いでしょう。しかしもちろん、自分が進む道を決めるのは里見女流四冠自身。どちらを選んでも、きっとそれが最善手でしょう。筆者も豪快な里見将棋の一ファンとして、変わらず応援し続けたいと思っています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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