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現役最年少棋士・伊藤匠四段(18)タイトル保持者・永瀬拓矢王座(29)に鮮やかな金星! 王位戦予選

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月28日。東京・将棋会館においてお〜いお茶杯第63期王位戦予選▲伊藤匠四段(18歳)-△永瀬拓矢王座(29歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時21分に終局。結果は127手で伊藤四段の勝ちとなりました。伊藤四段はこれで予選ベスト4に進出。初のリーグ入りまであと2勝としました。

 前々期は藤井聡太現王位(19歳)と挑戦者決定戦を戦い、前期も挑戦権争いの有力候補であった永瀬王座。今期は予選での敗退が決まりました。

伊藤四段、大ブレイクの予兆

 1960年に第1期七番勝負がおこなわれた王位戦。リーグ入りを目指しての予選は、たとえタイトル保持者でも大きくシードされることはありません。上位者も下位者もほぼフラットな位置からのスタートとなるため、ときに勢いある若手棋士が大活躍する場にもなってきました。

 上位陣が予選で姿を消す例もよくあります。今期、渡辺明名人は予選で千葉幸生七段に敗れています。

 永瀬王座は前期、惜しくもリーグ陥落となりました。

 永瀬王座は今期、予選からの参加。3回戦で現役最年少棋士の伊藤匠四段と対戦することになりました。

 伊藤四段は第4回ABEMAトーナメントでチーム藤井「最年少+1」のメンバーとして大活躍しました。

 伊藤四段はいずれ、同学年の藤井三冠のライバルとなることも期待されている大器です。

 本局は振り駒の結果、先手は伊藤四段となりました。戦型は相掛かり。伊藤四段が得意とする形を、永瀬王座が受けて立ちました。

 伊藤四段が桂得をするのに対して、永瀬王座は角頭の弱点に歩を垂らす。高度に発展し続けている、現代相掛かりの最前線です。

 伊藤四段は自陣に得した桂を打って、受けに使います。序盤の華々しいやり取りが落ち着いたあとは一転して、お互いがじりじりと間合いをはかりあいながら駒組を進める、力のこもった中盤戦となりました。

 再び駒がぶつかり合って、攻勢をとるのは永瀬王座。強い相手に攻められると焦りそうなものですが、伊藤四段は堂々と受けて立ち、次第に優位を確立していきます。

 伊藤四段優勢で迎えた終盤戦。永瀬王座も鋭く迫って、伊藤玉も危なくなったかのように見えました。しかし序盤で打った受けの桂が最後までよくはたらき、伊藤玉の詰みを防ぎました。

 125手目。伊藤四段は歩を一つ進めて、永瀬玉に王手をかけます。永瀬王座は詰んでいる自玉を、じっと10分間見つめていました。

 永瀬王座は盤上中央、5五の地点に玉を逃げます。伊藤四段は銀を打って、追撃の王手。ここで永瀬王座が投了を告げ、終局となりました。

 もし若手四段が指し盛りのタイトル保持者を相手に勝利をあげることを「金星」と表現するのならば、本局は見事な金星でした。

 伊藤四段の今年度成績はこれで20勝6敗(勝率0.769)です。新人王戦では決勝に進出。これから三番勝負で優勝を争います。

 今年10月でデビューからちょうど1年となる伊藤四段。いつ大ブレイクをしてもおかしくはありません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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