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ヤバすぎる終盤力の藤井聡太二冠(18)逆転で鬼軍曹・永瀬拓矢王座(28)を降し叡王戦ベスト4進出!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月31日。東京・シャトーアメーバにおいて第6期叡王戦本戦トーナメント2回戦▲永瀬拓矢王座(28歳)-△藤井聡太二冠(18歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は17時23分に終局。結果は138手で藤井二冠の勝ちとなりました。

 藤井二冠はこれで叡王戦ベスト4進出。準決勝で丸山忠久九段(50歳)と対戦します。

 前期叡王の永瀬王座は、今期はここで敗退となりました。

 藤井二冠の今年度成績は5勝1敗(勝率0.833)となりました。

藤井王位・棋聖、三冠挑戦に近づく逆転勝ち

 永瀬王座先手で角換わり模様の立ち上がり。永瀬王座は角筋を止め、互いに雁木に組む進行となりました。

 途中、永瀬王座の23手目、ノータイムで6筋で飛車を回った手などは、いかにも用意周到な研究手順に思われました。

 永瀬王座がほぼノータイムで進めるのに対して、藤井二冠は時間を使います。局後の感想戦を見ると、相当序盤に苦労していた様子でした。

 25手目以降は永瀬王座も時間を使います。こちらもそれほど序盤に自信があったわけではなさそうです。

 本局は中終盤が大変な大熱戦となりますが、終局後、両対局者がまず感想を口にしたのは序盤についてでした。

藤井「序盤、どのあたりがまずかった・・・」

永瀬「あ、いや、一応作戦負けのような気はしたんですが・・・」

藤井「あっ、そうです? いやなんか・・・まずいのかなと思ったんですが」

永瀬「あ、そうですか。あんまりこちら展望がない気がしたんですけど」

藤井「そうですか。でもなんか(38手目)△2二玉入ってからちょっとわるくしたかと・・・(大駒の)直射が厳しかったので、玉入ってはいけなかったのかと。ただ代わる手が難しかったので・・・」

 49手目、永瀬王座は飛車を6筋から2筋へと戻します。これで飛と角、2枚の大駒が藤井玉をにらむ態勢ができました。

 本格的に駒がぶつかって、まずリードを奪ったのは永瀬王座。藤井玉の上部から押していき、好調に攻めているように見えました。

 72手目。藤井二冠は自陣にじっと歩を受けて辛抱します。持ち時間3時間のうち、残りは永瀬58分、藤井4分。盤上の形勢も残り時間も、永瀬王座が優位に立ちました。

 74手目。藤井二冠は桂を跳ねて反撃に出ます。これまでの永瀬王座の棋風であれば、じっと受けに回って、長く指すところのように見えました。

永瀬「取りたいですよね」

 本譜は銀で桂を取って刺し違え、駒損を甘受。その代償に手番を得て、一気に藤井玉に迫ります。

 ところが危なそうに見えた藤井玉は、そう簡単には寄りません。コンピュータ将棋ソフトが示す評価値は、互角に近いところにまで戻りました。

 藤井二冠は持ち時間を使い切り、82手目からは一手60秒未満で指す「一分将棋」に入りました。勢いよく飛車角交換から永瀬玉に迫る形をつくります。

 93手目からは永瀬王座も一分将棋。盤上の形勢、残り時間ともにリードはなくなり、五分へと戻りました。

 勝敗不明の最終盤。藤井二冠がきわどい受けをして、形勢は再びはっきり、永瀬王座よしになった瞬間もあったようです。

 107手目。永瀬王座は馬(成角)取りに桂を打ちます。感想戦では触れられませんでしたが、ここで代わりに桂で王手をしておけば、永瀬王座勝勢だったようです。

 113手目。永瀬王座は金を打って王手をかけます。藤井玉はきわどいながらも、詰みはありません。一方、金を渡した分、永瀬玉は危なくなっています。形勢はついに藤井二冠勝勢となりました。

 永瀬王座は藤井玉に迫ります。しかし永瀬王座には結末がわかっていたか、視線はしばらく、盤上ではなく中空の方に向けられていました。

 永瀬玉は詰むや詰まざるや。藤井二冠が秒読みの中、詰ますことができれば勝ちです。ただしこうした場面で、藤井二冠はほとんど間違えたことがありません。落ち着いた様子で着実に永瀬玉に王手をかけ続け、終局へと向かっていきます。がっくりとうなだれる永瀬王座。勝者と敗者のコントラストが鮮やかに現れた場面でした。

 137手目。永瀬玉は「打ち歩詰め」の状態になりました。もし藤井二冠が歩を打って王手をかければ、たちまち反則負けとなります。

 138手目藤井二冠は桂を打って王手をかけました。これが打ち歩詰め回避の鮮やかな捨て駒。詰将棋のようにきれいな手順で永瀬玉は詰みます。

「30秒」

 記録係の秒読みの声を聞いたあと、永瀬王座は「負けました」と投了。両対局者は一礼し、大熱戦に幕がおりました。

 両者はしばらく沈黙。グラスに注がれたお茶を口にしたあと、藤井二冠が口を開き、あとはなごやかに感想戦が始まりました。

 これから先、何度も続いていくであろう両者の対戦は、永瀬1勝、藤井4勝となりました。

 藤井二冠は準決勝で丸山九段と対戦します。両者は昨年の竜王戦本戦で対戦し、丸山九段が勝っています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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