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永世竜王にして前期竜王挑戦者の羽生善治九段(50)1組4位で今期も本戦進出決定!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月21日。東京・将棋会館において第34期竜王戦1組出場者決定戦・羽生善治九段(50歳)-木村一基九段(47歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は22時21分に終局。結果は123手で羽生九段の勝ちとなりました。

 前期は1組ランキング戦で優勝し、決勝トーナメント(本戦)を勝ち進んで挑戦権を獲得した羽生九段。今期は1組4位での本戦進出となりました。

羽生九段、最終盤で勝ちをつかむ

 羽生九段先手で、序盤は矢倉模様に進みました。羽生九段、木村九段ともに矢倉は得意としています。

 羽生九段は互いに角を向かい合う形で、早囲いから片矢倉(天野矢倉)に組む手法を採用。この形は藤井猛九段の名にちなんで「藤井矢倉」とも呼ばれます。

 角交換のあと、羽生九段は棒銀をさばいて先攻。対して木村九段は棋風通り的確に受けました。コンピュータ将棋ソフトが示す評価値を見ると、中盤のわかれでは、木村九段がややリードしていたようです。

 木村九段は自玉そばにと金を作らせる代償に、相手陣にも成駒を作り、容易には負けない態勢を築きました。

 それほど差がつかないまま迎えた終盤戦。羽生九段は手段を尽くして攻めを続けます。

 104手目。木村九段は守りの金を上がり、ガツンと羽生九段のと金にぶつけます。力感あふるる木村流の受け。この交換は無論、羽生九段の駒得になります。流れとしては羽生九段の攻めがつながったようにも見えましたが、木村九段も最善を尽くして、勝敗不明のまま終盤戦は進んでいきました。

 112手目。木村九段は相手の飛車の頭、タダで取られる2七の地点に銀をたたきこみます。2七の地点は俗に「羽生ゾーン」と呼ばれ、ここに羽生九段がここに駒を打つ印象が強いようです。

 本局では羽生ゾーンに木村九段が銀を打ちました。これは見るからに名手です。もし羽生九段がタダの銀を取れば、飛車の横利きが消えて羽生玉は詰み。取らなければ飛車の縦利きが止まって、木村玉の上部が開けます。

 昨日までおこなわれた名人戦第4局。2筋と3筋で一路違いますが、斎藤慎太郎八段が渡辺名人の飛車の頭、タダで取られるところに銀を放つ勝負手を見せました。

 斎藤八段の銀打ち同様、木村九段の銀打ちもまた、強烈な攻防手。もし本局、木村九段が勝っていれば、勝因と讃えられたでしょう。

 持ち時間5時間のうち、残りは羽生16分、木村2分。難解な最終盤、羽生九段は9分を割き、金を捨てて「羽生ゾーン」の銀を抜く順を選びます。

 117手目。飛車の縦利きの王手に対して木村九段はどう受けるか。もしここで合駒を打たず、強く玉を上がっておけば、木村九段の会心譜となったかもしれません。力強い玉さばきといえば、木村流の真骨頂です。

 しかし残り時間が切迫していた木村九段。本譜は金を打って合駒をしました。手堅いようでも、これが敗着となったようです。羽生九段からは、ギリギリの寄せをつなげる的確な順がありました。

 120手目。羽生九段は自陣一段目に王手で飛車を打ちます。これが華麗な決め手となりました。

 時間を使い切り、ついに一分将棋に追い込まれた木村九段。今度は銀合をして受けました。すると木村玉には3手詰が生じています。

 最後は急転直下とも思われる終局で、羽生九段の勝利となりました。もちろん誤らずに勝ち切る羽生九段の決定力はさすがというよりありません。

 今期も竜王戦本戦に進んだ羽生九段。当然ながら挑戦権争いの有力な候補として名前をあげられるでしょう。

 竜王戦七番勝負で待ち受けているのは、豊島将之竜王。ただしその前に、3日後の5月24日、豊島竜王と羽生九段は王位戦挑戦者決定戦という大一番を戦います。藤井聡太王位への挑戦権を獲得するのは、はたしてどちらでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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