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豪腕無双・西山朋佳女流三冠(25)竜王戦6組ベスト8進出! 優勝で史上初女性棋士誕生の可能性も

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月24日。大阪・関西将棋会館において竜王戦6組ランキング戦▲西山朋佳女流三冠(25歳)-△冨田誠也四段(25歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は22時12分に終局。結果は139手で西山女流三冠の勝ちとなりました。

 西山女流三冠はこれでベスト8に進出。準々決勝で小山怜央アマと対戦します。

西山女流三冠、うなる豪腕で制勝

 男性の棋士を次々と破っている西山女流三冠。前期竜王戦6組ではベスト4まで進み、あと1勝で昇級というところで敗れました。

 今期はここまで長岡裕也六段、室岡克彦七段に勝っています。

 冨田四段は2020年10月に四段昇段。まだプロとしてデビューしたばかりです。今期竜王戦6組では平藤真吾七段、中村亮介六段に勝っています。

 西山女流三冠は現在、奨励会員として三段リーグを戦っています。冨田四段とはリーグで4回対戦し、2勝2敗という成績が残されています。

 振り駒の結果、先手は西山女流三冠。7筋に飛車を移動させる三間飛車で、石田流の作戦を取りました。戦法の特性上、序盤から一触即発の状況で、両者ともに時間を使い合って、スローペースで進みます。

 冨田四段は、玉側の金はエルモ囲いに組み、飛車側の金は積極的に攻めに使います。冨田四段が金を四段目までに進めたタイミングで、西山女流三冠は角筋を開きさばきに出て、激しい戦いが始まります。

 西山女流三冠は相手玉を薄くし、6筋にと金を作る戦果をあげました。3二でエルモ囲いに収まっていた冨田玉は、中段に泳ぎだします。西山女流三冠が攻めきるか、それとも冨田四段がしのぎきるか、きわどい攻防が続きました。

 89手目。西山女流三冠は盤上中央、タダで取られるところに角を飛び出します。まさに豪腕一閃という場面でした。

 持ち時間5時間のうち、残り時間は西山58分、冨田31分。

 冨田四段はタダの角にどう応じるか。もし玉で取ると受けなしに追い込まれそうです。6分考えて、自身の角で相手の角を取りました。これは正確な応手だったようです。

 西山女流三冠はすぐさま角を取り返し、ギリギリで攻めを続けられる形ではあります。しかし冨田四段の辛抱が実り、コンピュータ将棋ソフトの評価値を見る限りでは、冨田四段有望の終盤だったようです。

 100手目。冨田玉はついに西山陣、9七の地点にまで進んで入玉を果たします。しかし西山女流三冠は角銀銀銀の4枚で冨田玉を側面から包囲していき、楽にさせません。

 そしてついに、冨田玉は受けが困難となってきました。盤上左隅、狭い空間でのパズルチックな攻防の中、西山女流三冠は冨田玉を締め上げていきます。

 西山女流三冠は最後、豪快に飛角を捨て、鮮やかに冨田玉を寄せきりました。

躍進する女性とアマ

 西山女流三冠は堂々たる勝ちっぷりで、竜王戦6組ベスト8に進出しました。準々決勝ではベスト4進出をかけ、小山怜央アマと対戦します。

 小山さんは現在のアマチュア棋界を代表する強豪中の強豪。竜王戦6組ではここまで泉正樹八段、門倉啓太五段、そして公式戦10連勝中だった出口若武四段を破っています。西山女流三冠にとっても、もちろん強敵でしょう。

 竜王戦6組で女性(奨励会三段)とアマがともにベスト8まで勝ち上がり、準々決勝で対戦。それはかつての将棋界であれば、大ニュースとなったことでしょう。しかし現在では、さほどの驚きはないのかもしれません。それだけ女性もアマも活躍している状況です。

 2月5日。日本将棋連盟は女流棋士、奨励会員、アマチュアが公式棋戦において優秀な成績を収めた際の新規定を発表しました。

 新規定によれば、竜王戦6組優勝者には棋士編入試験受験の資格が与えられます。

 また奨励会三段が竜王戦6組で優勝すると次点1が付与されます。

 西山女流三冠は奨励会三段として、過去に次点1を取っています。次点2で四段(フリークラス)に昇段できます。

 西山三段は今期三段リーグはここまで8勝8敗で、今期リーグでの四段昇段の可能性は消えています。

 西山三段は来期リーグに参加し、上位2人に入ればもちろん無条件で四段昇段。次点でもフリークラス編入で四段昇段。他には降段点を取らず、竜王戦6組優勝となれば、新規定で四段となる道も開かれています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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