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前王位・木村一基九段(47)百折不撓の指し回しで前々王位・豊島将之竜王(30)を降し今期リーグ好発進

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月19日。大阪・関西将棋会館において、お〜いお茶杯第62期王位戦リーグ紅組1回戦▲木村一基九段(47歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は20時12分に終局。結果は127手で木村九段の勝ちとなりました。

木村九段、二転三転の大熱戦を制す

 王位戦リーグ紅組は2月8日の▲片上大輔七段-△佐藤天彦九段戦から始まりました。

 結果は佐藤九段の逆転勝ちでした。

 豊島-木村戦といえば、なんといっても2019年度の王位戦七番勝負です。将棋史に残る激闘を制して、木村九段は初タイトルを獲得しました。

 歴史のめぐりあわせは皮肉なもの。2020年度、47歳の木村王位からタイトルを奪っていったのは、18歳の藤井聡太挑戦者でした。

 そして今期。藤井王位への挑戦権をかけて、前々王位と前王位がさっそくリーグ1回戦でぶつかることになりました。

 両者の過去の対戦成績は木村9勝、豊島10勝。直近では王将戦リーグで豊島竜王が勝っています。

 王位戦リーグはあらかじめ先後が決まっています。後手番の豊島竜王の注文で、戦型は木村九段の横歩取りとなりました。

 木村九段は3筋で相手の歩を取ったあと、自分の歩を前に進めていきます。一般的に、横歩取りではそう進めば成功で、序盤では木村九段がうまくペースをつかんだようです。

 木村九段は飛角桂の協力で3筋から攻め入ろうとします。対して豊島竜王は玉みずから最前線に立って受けました。木村九段のお株を奪うような顔面受け。もし対局者の名を伏せたら、後手を持って指しているのが木村九段と思う人もいるでしょう。

 そのまま攻め倒されても不思議ではなさそうなところ、豊島玉は中段の四段目から五段目へと進み、きわどく耐えています。形勢は不明となりました。

 終盤は二転三転の大熱戦。豊島玉は3五の地点から逃げ足早く盤上を駆け回り、ついには9二の地点にまで逃げ込みます。一方、木村玉も逃げ道をあけ、勝敗不明のまま戦いは続いていきます。

 最後は持ち時間4時間を使い切っての一分将棋。将棋ソフトの評価値は豊島よしを示していました。しかしこれはもう、指運(ゆびうん)の勝負だったでしょう。

 122手目。豊島竜王は成銀を木村玉の近くに寄せました。この一手が敗着となったようです。きわどいようでも、木村玉への詰めろになっていませんでした。

 木村九段は正確に読み切り、豊島玉へ必至をかけます。ここで木村九段の勝ちが決まりました。

 豊島竜王は木村玉へ王手をかけるものの、9八の地点まで逃げられ、詰まないことがはっきりしました。そこで豊島竜王は投了しています。

 木村九段は王位戦リターンマッチに向けて強敵中の強敵を倒し、これ以上はない幸先のよいスタートを切りました。両者の対戦成績はこれで10-10のイーブンに戻りました。

 豊島竜王ももちろん、挑戦権獲得の可能性がなくなったわけではありません。リーグはまだあと4戦残されています。

 同日おこなわれた▲斎藤慎太郎八段-△澤田真吾七段戦は、斎藤八段の粘りをふりきって、澤田七段が快勝を収めました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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