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野月浩貴八段(47)公式戦7戦目にして羽生善治九段(50)に初勝利&朝日杯本戦初進出を決める

松本博文将棋ライター

 12月10日。東京・シャトーアメーバにおいて第14回朝日杯将棋オープン戦二次予選決勝▲羽生善治九段(50歳)-△野月浩貴八段(47歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 19時に始まった対局は20時58分に終局。結果は112手で野月八段の勝ちとなりました。

 野月八段は公式戦7戦目にして、羽生九段に初勝利。そして初めて本戦(ベスト16)進出を決めました。

羽生九段、2年連続で二次予選敗退

 最近は銀髪姿となっていた羽生九段。少し前に髪を染めたそうで、本日は黒髪での登場でした。

 羽生九段と野月八段は過去に6回対戦。結果はすべて、羽生九段が勝っています。本局は10年ぶりの顔合わせとなります。

 振り駒の結果、先手は羽生九段。

「それでは時間になりましたので、羽生先生の先手番でお願いします」

 19時、対局が始まりました。

 後手番の野月八段は角筋を止め、雁木模様に組みました。

 対して羽生九段は玉を1手だけ左サイドに上がりコンパクトな囲いを作ります。そこから速攻を仕掛けて動きました。

 野月八段は居玉のまま、銀を素早く繰り出します。両者の攻めの銀があっという間に五段目まで進みました。

 羽生九段は角金交換の駒損から飛車をさばいてきます。野月八段は羽生玉のすぐ近くから攻めかかる乱戦となりました。

 52手目、野月八段は羽生玉に歩を打ち捨て、形を乱します。持ち時間の40分を先に使い切って、ここからは一分将棋となりました。

 羽生九段は野月陣に飛車を成り込んだものの、居玉だった野月玉は軽く逆サイドに逃げていきます。このあたりでは、野月八段がわずかにリードを奪ったようです。

 野月八段は技を駆使して、飛車を成り込みます。羽生玉のすぐ近くだけに迫力十分。羽生九段がピンチに陥ったように見えました。

 羽生九段はきわどくしのいで、玉を早逃げします。

 時間のない野月八段。打った歩をすぐに成り捨ててやり直します。4手進んで純粋に1歩を損したことになりますが、秒読みのシーンではしばしば起こりうることです。

 羽生九段も持ち時間を使い切り、77手目からは両者ともに一分将棋となりました。

 野月八段は攻めあぐねたか、形勢は怪しいムードです。

「いやあ」

 と口にする野月八段。羽生九段が追い上げて、白熱の終盤戦となりました。

 野月八段は羽生玉の左から龍、右からと金(成歩)ではさみ撃ちの形を作ろうとします。対して羽生九段は持ち駒の金銀を投入して頑強に受け続け、いつしか羽生玉の周りには金3枚、銀2枚が並びました。

 野月八段は龍を捨てて羽生玉に迫ります。一手の余裕をいかしてここを押し切れるかどうか。きわどい攻防が続きました。

「いやあ」

 野月八段は何度かそう口にしました。

 101手目。羽生九段は自陣の金で相手の桂を取ります。感想戦では代わりに桂を打って相手の角筋を止めていれば大変という結論になりました。

 102手目。野月八段は銀を取りながら角を成り込みます。羽生玉には長手数ながら詰めろがかかっています。

 秒読みの中、103手目、羽生九段は野月陣に飛車を打ち込みます。これが攻防手となっているかどうか。しかし羽生玉への詰めろはほどけていませんでした。

 野月八段は角を打ち込んで王手をかけていきます。これでぴったり羽生玉は寄っています。

 羽生九段はわかりやすいところまで進めて、投了を告げました。

 厳密にいえば敗着は103手目の飛車打ちということになりそうですが、感想戦では触れられていませんでした。代わりに金を引いて逃げ道を作るなどの手段はあったようですが、そこではすでに羽生九段が勝ちづらくなっているのかもしれません。

 これまで羽生九段に勝ち星のなかった野月八段にとっては、感慨深い勝利でしょう。

 一方、過去に優勝5回を誇る羽生九段。前期に続いて今期も二次予選敗退となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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