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「他のタイトルホルダーの人とも互角に戦えるようにやっていきたい」防衛達成の豊島将之竜王、記者会見全文

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

――竜王戦初防衛の感想からお願いいたします。

豊島「まだ実感はないですけれども、防衛を目標に最近はやってきていましたので。結果が出せてよかったですし、ほっとしています」

――七番勝負を総括していかがでしょうか。

豊島「第3局をはじめ、難しい将棋が多くて。大変な戦いだったと思います」

――第4局についてはどうお考えですか?

豊島「難しい将棋でしたけど、大きなミスなくまとめられたのかな、というふうに思います。終盤で、調べたら一番早い勝ちは逃していたみたいなんですけど、でもリードを保って指せたので、まずまず良い内容で指せたのかなというふうに思います」

――第3局は終盤、詰むや詰まざるやあたりの攻防が印象に残っているということでしょうか。

豊島「そうですね。でも全体的に濃い内容の将棋だったような気がしていて。序盤戦から中盤戦のあたりも手将棋(てしょうぎ、定跡形を離れた戦い)ですごく難しかったので。全体的に見てやっぱり第3局が一番内容が濃かったのかなというふうに思います」

――コロナ禍の中での一年のタイトル戦を振り返っていかがでしょうか。

豊島「対局できない時期もあって、調整とかは非常に難しかったですし。まあでもその中でタイトル戦を3つ(名人戦、叡王戦、竜王戦)指して、結果的に2つ勝つことができたのでまあまずまず・・・。そうですね、名人戦とか負けてしまいましたけど、まずまずの結果が出せたのかなというふうに思います。コロナで大変な中ですけど、対局ができているので、本当に関係者の皆さまには感謝していますし、対局できる幸せを感じています」

――羽生九段の発熱で第4局が延期になったときも率先してファンサービスをやられていました。ファンサービスの重要さは改めて感じましたか?

豊島「そうですね。やっぱりイベントとかもなかなかできないので。(対局がおこなわれなかった)福島の時は自分にできることをやろうと思っていました」

――相手の羽生九段は通算100期がかかっていました。どのような気持ちでシリーズを戦い抜いたんでしょうか。

豊島「やはり注目度の高さは感じていて。でも自分の将棋も注目していただけるということなので、それはすごくうれしいことだなと思って。やりがいを感じながら指していました」

――応援しているファンの方々にどのような気持ちで指していましたか。

豊島「本当に多くの方に見ていただけてると思っていたので。そうですね、やっぱり自分の力を出し切ってなるべく良い内容のものをというふうに思ってました」

――今まで防衛がなかったということで、その壁をどのような重さで感じていましたか。

豊島「防衛戦ということで、自分の中ではそんなに変化がなく戦っているつもりだったんですけれども。今回だけでなく、過去の3回(棋聖戦、王位戦、名人戦)もそういうふうに戦っていたつもりだったんですが。でもやっぱり勢いのある方との戦いになるので、そういったところが、これまで挑戦する時と違ったのかなというふうに思って。難しさを感じていました」

――超えなくてはならない壁として、自分の中で大きなものとしてありましたか。

豊島「一応自分の目標としてはやはり、タイトルをなるべく長く持ち続けて、タイトル戦線で戦い続けるというのがあって。防衛しないとそれが難しいので。いずれは防衛を達成しないといけないとは思っていましたし。まあでもタイトル、初め1回取るまでも苦労したので。その経験から焦ってもいいことがないと思っていたので、焦らずに、実力をつけていけばいずれは達成できるのではないかというふうに考えて取り組んでいました」

――第3局、どんな終盤戦だったのか、もう少し具体的にうかがってもいいですか。

豊島「一番最後の評価値が逆転したところは負け筋に自分も気づいていなかったので。ただ、その前の局面で(139手目)△6九飛とおろした(相手陣に打ち込んだ)ところは負けだなと思っていましたので。でも最後の最後のところは自分もまったく(負け筋に)気づいていなかったです」

――改めて羽生九段とシリーズを戦った印象と、その相手から防衛できたということについて、感想をいただけますか。

豊島「以前にも何度もタイトル戦で対局をしていて。やはり経験から来る大局観の良さみたいなものが自分には足りていないのかなあというふうにずっと思っていまして。今回もやっぱり、2局目とか3局目とかは、そういうところがあったと思うんですけど。まあでも、自分も少しずつそういうところを克服して。なんというか、まだ足りないところは多いですけど、少しずつ克服できてきているかなあ、というふうにも思います」

――このシリーズ、ご自身が指した手で、一番印象に残る一手は何でしょうか?

豊島「(しばらく考えて)えーと・・・うーん・・・いや・・・なんでしょう(笑)。3局目の(98手目、王手で)△2六香と打った手とか、4局目の(91手目)▲9二香と打った手とかは、なんとなくぱっと思いつくんですけど。まあ、それですかね(笑)。ちょっと頭がはたらいてないところもあるんで(笑)。そういう手がぱっと思い浮かびました」

――けっこう香車が活躍したシリーズだったということですかね。

豊島「そうだったかもしれません」

――今後の目標があったら教えてください。

豊島「他のタイトルを持たれている方(渡辺明名人、藤井聡太二冠、永瀬拓矢王座)と対局をしたりとか、そういう方の棋譜を見ていて、自分も危機感というか、ちょっとだんだん苦しくなってきているような気持ちもあるので、なんとかついていきたいというか、戦えるように、他のタイトルホルダーの人とも互角に戦えるようにやっていきたいというところです」

――今回の防衛戦、どういう思いで臨んだのか、改めて教えてください。

豊島「焦るのはよくないと思いつつも、やはり負けが続くのもよくないので、そろそろ結果を出したいというのはありました。でもやっぱり、苦労したものの、最終的にはタイトルを棋聖戦で取ることができた経験とかがあって。そういうところで防衛戦も変わらず指せたかなというふうに思います」

――その原動力みたいなのは、他のタイトルホルダーの方々が刺激になったということがありますか。

豊島「刺激にはなってますね、はい。でもやっぱりタイトル戦は、本当になんていうか、タイトル戦指すために、というか本当に一番の晴れの舞台なので、当然それに向けて一生懸命やるのは、自然にそうなりますね、はい」

――視聴者の方にカメラ目線で、2020年一番の笑顔で一言お願いします。

豊島「最後までご観戦いただきましてありがとうございます。2020年、これからも対局はありますけど、とりあえず自分のタイトル戦はこれで終わったということで。コロナがあって、いろいろ大変なことがありましたけれども、ファンの皆さまの応援のおかげで、なんとか戦い抜くことができたかなあ、というふうに思います。ありがとうございました」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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