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スキなし豊島将之竜王(30)竜王位初防衛! レジェンド羽生善治九段(50)タイトル通算100期ならず

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月5日・6日。神奈川県箱根町・ホテル花月園において第33期竜王戦七番勝負第5局▲羽生善治九段(50歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 5日9時に始まった対局は6日18時25分に終局。結果は84手で豊島竜王の勝ちとなりました。

 豊島竜王は4勝1敗で七番勝負を制し、竜王位連続2期目。全タイトル戦を通じて初防衛を果たしました。

 2年ぶりにタイトル戦に登場し、竜王復位、タイトル獲得通算100期が期待された羽生九段。残念ながら今期は敗退となりました。

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豊島竜王、充実の初防衛

 2日目午後。豊島竜王の辛抱が実って、形勢は豊島よしとなりました。じっと引いた飛車が受けによく利いています。

 豊島竜王が席をはずしている時、羽生九段は「ひょー・・・」と言いながら、扇子で右頬を何度も叩きました。

羽生「残りどれぐらいですか・・・」

記録係「1時間と19分です」

羽生「うーん・・・」

 はた目には、羽生九段が苦しくなったように見えます。しかし羽生九段はこうした場面から、何度も逆転劇を演じてきました。

 73手目。羽生九段は豊島陣一段目に金を打ち込みます。これがさすがの勝負手でした。三段目に逃げている豊島玉は前後左右から王手がかかる形。羽生九段はプレッシャーをかけてチャンスを待ちます。

 持ち時間8時間のうち、残りは羽生1時間16分、豊島1時間24分。時間はほぼ互角です。

 そして豊島竜王は熟慮に沈みます。時間があればいくらでも考えたいところ。そして時間があっても、読みきれないほどに難しいところなのかもしれません。

 考えること40分。豊島竜王は自陣に桂を打ちました。縦に利いている羽生九段の飛車の筋を遮断して、冷静な一手です。また機を見てこの桂を跳ね出せば、羽生玉の死命を制する決め手となります。

 はたして、その桂跳ねは5手後に実現しました。

 80手目。豊島竜王は桂を支えとして4筋にと金(成歩)を入ります。8筋のと金とともに6筋一段目の羽生玉をはさみ撃ちにして、ほぼ受けなしに追い込みました。

 一方で5筋三段目の豊島玉は、危ないようでも寄せがありません。

 羽生九段はしばらくうつむいたあと、席を立ちます。そして席に戻ってきてまた考え始め、額に手をあて、またうつむきました。

 考えること20分。羽生九段は中段に角を出て王手をかけました。残りは羽生16分、豊島20分。

 豊島竜王は駒台に1枚ある歩を、ノータイムで合駒として打ちます。「一歩千金」の言葉通り、これで豊島玉は寄りません。

 羽生九段は自陣に金を打って、自玉の詰みをしのぎます。対して豊島竜王は慎重に3分を使い、8筋に銀を打って、最後の仕上げに入ります。

 羽生九段はうつむき、また苦しそうな表情を見せました。残りは10分を切ります。すでに盤はほとんど見ておらず、ずっとうつむいたままでした。

 対して豊島竜王はいつも通り表情を変えず、冷静沈着に盤を見つめていました。

 羽生九段は11分を使いました。残りは5分。そして次の手を指すことはありませんでした。

「負けました」

 羽生九段が投了を告げて一礼。豊島竜王も礼を返して、竜王戦七番勝負は閉幕となりました。

 充実の豊島竜王は見事な初防衛。

 対して多くのファンの大声援を背に戦った羽生九段。また遠からず、タイトル戦の舞台に戻ってくることでしょう。

 両雄の対戦成績はこれで羽生九段18勝、豊島竜王21勝となりました。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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