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羽生九段・美濃囲いVS豊島竜王・居玉 形勢互角のまま難解な中盤戦続く 竜王戦七番勝負第3局2日目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月8日。京都市、総本山仁和寺において第33期竜王戦七番勝負第3局▲羽生善治九段(50歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦、2日目の対局がおこなわれています。

 2日目午前。羽生九段の角は小刻みに動きながら、曲線的な進行をたどります。

 『将棋年鑑 令和2年版」の「棋士名鑑」アンケート。「ご自身の棋風をワンフレーズで表現すると?」という項目がありました。

 これは難しい質問でしょう。渡辺明名人は「ワンフレーズでは無理」と回答。豊島竜王、永瀬拓矢王座、藤井聡太二冠は回答なしでした。

 羽生九段はズバリ一言「柔軟」と答えていました。これはなるほど、という回答です。

 豊島竜王が端9筋の香を走ったのに対して、羽生九段は61手目、じっと端を受けます。部分的には損をしても、大局的にはバランスが取れているようです。そして豊島竜王の手番で12時30分、昼食休憩に入りました。

 13時30分。

「時間になりました」

 記録係の高田明浩三段が再開の時刻になったことを告げます。豊島竜王はすぐに盤上に手を伸ばし、まだ動いていなかった桂を三段目に跳ねます。うんうん、といった感じで、小さくうなずく羽生九段。1分半ほどして、玉を中央5筋からひとつ右、4筋へと寄せました。

 70手目。豊島竜王は横歩を取る順が見えました。しかしそれは銀をタダのところ、天王山に出る妙手がありました。もしそう進めば、羽生九段の妙手の一つとして将棋史に残る可能性があったかもしれません。豊島竜王はその筋を看破していたか、横歩を取らず、慎重に飛車を引きました。

 ABEMA解説の藤井猛九段は昼休明けの再開時、次のように語っていました。

藤井九段「第1局、豊島さん必勝の局面で、指せば投げるって場面があったわけですけど。私ならもう、とっとと指して、相手に投げてもらって、早く楽になりたい。豊島さんは確認に次ぐ確認、確認、確認っていう感じでね。指さないんですよ。指せば、羽生さん投げるんですよ。誰がどう見てもね。(中略)豊島さん、指を動かせば、羽生さん、反射的に『負けました』って言うはずなんですよ。全然指さなくって。慎重にやってたのが印象深かったですよね」

 豊島竜王が70手目を指した時点で、持ち時間8時間のうち、残り時間はともに2時間4分と並びました。

 羽生九段は玉を美濃囲いに収めるように、3筋に引きます。戦いの最中に玉形を整えるのが上級者の呼吸です。

 竜王戦七番勝負史上最短手数の52手で終わった第1局。終了時は両者ともに玉が初期位置から動いていない「居玉」のままでした。

 本局、羽生玉が次第に危険地帯から遠ざかっていくのに対して、豊島竜王はここまで依然居玉です。

 豊島竜王の方も玉を動かす順が考えられるところ、8筋から中央5筋に飛車を転換しました。主戦場となっている場所に攻めの主力を応援に加えるメリットがある一方、「玉飛接近すべからず」の格言に反するデメリットもあります。

 羽生九段はすぐに飛車を目標として歩を打ち捨て、勇躍、桂を中段に跳ね出します。

 16時を過ぎました。現在は81手目、羽生九段は2筋に玉を移動し、美濃囲いの正位置に据えました。流れから見て、これも予想しづらい手です。

八代弥七段「羽生九段らしい組み立て方ですよね」

 両者ともにマスクをはずしていて、前傾姿勢。形勢はほぼ均衡が保たれたままのようです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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