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豊島将之竜王(30)端から攻撃開始 羽生善治九段(50)49手目を封じて竜王戦第3局1日目終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月7日9時。京都市、総本山仁和寺において第33期竜王戦七番勝負第3局▲羽生善治九段(50歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦、1日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 第1局は豊島竜王、第2局は羽生九段の勝ちでした。

 豊島竜王の今年度成績は20勝12敗(勝率0.625)。

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 直近の王将戦リーグの対局では佐藤天彦九段に勝ち、4連勝でトップ争いに立っています。

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 一方の羽生九段は、王将戦リーグでは永瀬拓矢王座との全勝対決に敗れて一歩後退となりました。しかし最終戦で豊島竜王との直接対決を残しています。

 羽生九段は今年度13勝10敗(勝率0.565)です。

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 これまでの両者の公式戦通算対戦成績は羽生九段18勝、豊島竜王17勝と拮抗しています。

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 将棋は先手番の側がわずかに有利です。ただし豊島竜王と羽生九段の直近の対戦では不思議なことに、後手番の側が9連勝中です。

 本局では先手番の羽生九段。その戦型も注目されるところでした。

 8時47分。まず羽生九段が入室します。羽生九段はかつて対談で次のように語っていました。

「(前略)調子の善し悪しは、朝、対局室に入ってきたときが一番よく分かるんです。部屋に入って「おはようございます」といったときに、前と違うなって感じることがありますね。ああ、調子がよさそうだなとか、調子を落としているな・・・と」

出典:羽生善治『簡単に、単純に考える』2001年刊

 8時49分。豊島竜王が入室しました。羽生九段の目には、今日の豊島竜王はどのように映ったでしょうか。

 両者駒を並べ終えたあと、対局室にはしばし静謐の時間が流れていきます。対局が始まる前、静かに緊張感が高まっていく様を、現代ではネットで、リアルタイムで見られるようになりました。そうして観戦者もまた、画面の向こう側で自然と厳粛な気持ちとなるでしょう。

 9時。立会人の福崎文吾九段が声をかけます。

「定刻になりました。第33期将棋竜王戦七番勝負第3局は、挑戦者・羽生九段の先手で開始してください」

 両対局者ともに「お願いします」と一礼。一息を置いたあと、羽生九段はゆったりとした動作で2筋、飛車先の歩を一つ前に進めました。対して豊島竜王も同様に8筋の歩を進めていきます。

 戦型は相掛かりとなりました。

 羽生九段は飛車を縦に走らせて歩を交換したあと、21手目、飛車を大きく横にすべらせ、遠く7筋の歩を取りました。1歩を持つプラスが優るか。それとも飛車を動かす手損のマイナスが響くか。このあたりの損得勘定は実に微妙です。

 昼食休憩が終わり、対局再開後の33手目。羽生九段はさらに3筋の歩も取りました。これで2歩得。それでもやはり、豊島竜王には駒を多く動かせる「手得」の主張があり、局面のバランスは取れています。

 47手目。羽生九段は端9筋に角を上がります。これはなんとも大胆な一手。というのも、すぐに角頭の弱点を狙われる端攻めが見えているからです。

 豊島竜王は45分考え、その端攻めを決行しました。

 17時半前。羽生九段が席を立っている間、豊島竜王・叡王は不二家のチョコレート「LOOK」を取り出して食べていました。叡王戦は今期から不二家がスポンサーとなりました。

「観る将棋ファン」の間でも、不二家のお菓子を食べながらの観戦が定着しつつあるようです。

 ところで『将棋年鑑 令和2年版』を見ると、豊島竜王の現在の身長と体重は166cm、53kgだそうです。十数年前、十代新四段の時には46kgで、将棋界最軽量と言われていました。

 一方、羽生九段が1989年、18歳の時に竜王位を獲得した際には172cm、53kgでした。(『竜王、羽生善治。』参照)

 18時。

福崎「午後6時になりましたので、規定により封じ手の時刻になりました。次の羽生九段の一手は封じ手となります」

 立会人の福崎九段がそう告げました。羽生九段はすぐに応じます。

羽生「あ、じゃあ封じます」

福崎「あっ、そうですか。はい」

 羽生九段が49手目を封じて、1日目が終了しました。形勢、消費時間とも、ほぼ互角と言ってよさそうです。

 明日2日目は午前9時に再開されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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