Yahoo!ニュース

鬼軍曹・永瀬拓矢王座(28)王将戦リーグも進撃止まらず4連勝 羽生善治九段(50)は初黒星で一歩後退

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月3日10時。東京・将棋会館において王将戦リーグ▲永瀬拓矢王座(28歳)-△羽生善治九段(50歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は17時22分に終局。結果は89手で永瀬王座の勝ちとなりました。

 これでリーグ成績は、永瀬王座は4勝0敗。豊島竜王とトップを並走する形になりました。次戦は11月17日、将棋の日に▲永瀬-△豊島の全勝決戦がおこなわれます。

 一方、羽生九段は3勝1敗となって一歩後退となりました。次戦は11月17日、木村一基九段と対戦します。

永瀬王座、充実の完勝劇

 永瀬王座先手で戦型は相掛かり。

 永瀬王座が横歩を取ったのに対して、羽生九段は角交換から永瀬陣のスキに角を打ち込み、馬を作りました。これは相掛かりではしばしば生じる筋で、成立するかどうかはケースバイケースです。

 本局、羽生九段が馬を作り、永瀬王座がそれを受けの駒で封じ込めたところでは、バランスは取れ、互角の展開だったようです。

 昼食休憩が終わって12時40分、午後の戦いが始まりました。

 37手目。永瀬王座は昼食休憩の40分をのぞいて39分を使い、飛車取りに▲8七銀と上がります。

画像

 実はここは大きな岐路でした。というのも、羽生九段から△8七同飛成と切って勝負する順があったからです。部分的には、藤井聡太現二冠が王位戦第4局の封じ手で見せたのと同じ符号となります。

 筆者手元のコンピュータ将棋ソフト「水匠2」では△8七同飛成を最善手と読んでいました。この激しい順で後手もやれるという見解です。

 本譜、羽生九段は10分考えて、穏やかに飛車を引き上げます。これは人間の目には常識的な一手に見えます。

 永瀬王座はここから巧みにポイントを稼いでいきます。盤上右隅の相手の馬を金と交換して駒得に成功。羽生九段が手を作ろうと桂を跳ねてきたのを待って、弱点であるその頭を攻めます。

 形勢は永瀬王座優勢となりました。

 羽生九段は、じっとしていてはジリ貧となってしまうので攻めを続けるよりありません。そして永瀬玉に肉薄します。

 永瀬王座はしのぎ続けたあと、駒を取らせる代償に玉を逃げていきます。そして手番を得て、羽生玉に迫りました。

 最後は永瀬玉にも詰めろがかかって、一手違いの形。その一手の差を永瀬王座はキープして羽生玉を寄せていきます。

 85手目。永瀬王座は桂を跳ねました。自玉の詰めろを受けながら相手玉に詰めろをかける「詰めろ逃れの詰めろ」。きれいな決め手です。

 永瀬王座は最後まで気を抜きません。座布団からひざがはみ出すほどに盤に近づいて座っているため、頭が盤上におおいかぶさります。

 羽生九段は永瀬王座の飛車を取って形を作ります。

 89手目。永瀬王座は銀を打って羽生玉に王手をかけます。羽生九段はそこで投了を告げました。羽生玉は以下、即詰みとなります。

 大きな一番を快勝で制した永瀬王座。リーグ初参加ながら、快進撃を続けています。言うまでもなく次戦、豊島竜王との4連勝対決を制した方が、渡辺明王将への挑戦に大きく近づきます。

 羽生九段は挑戦権争いから一歩後退。ただし、可能性がなくなったわけではありません。最終戦では豊島竜王との直接対決を残しています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事