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永瀬拓矢王座(28)意表の四間飛車! 藤井聡太二冠(18)は急戦に出る 王将戦リーグ3回戦開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月26日10時。東京・将棋会館において第70期王将戦挑戦者リーグ3回戦▲藤井聡太二冠(18歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦が始まりました。

 これまでのリーグ成績は、藤井二冠は0勝2敗。羽生善治九段、豊島将之竜王に敗れています。

 永瀬王座は佐藤天彦九段、木村一基九段に勝って2勝0敗。本局を勝てば3連勝で、豊島竜王と肩を並べることになります。

 今年度成績は、藤井二冠は23勝6敗(勝率0.793)。

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 全棋士中の成績ランキングでは、対局数3位、勝数2位。ここ最近、比較的黒星が重なっていましたが、直近の村山慈明七段戦では勝利をあげています。

 永瀬王座は26勝9敗2持将棋(勝率0.743)。

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 永瀬王座は成績ランキングで対局数1位、勝数1位です。

 現在の将棋界は「四強」の時代と言われています。

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 席次は上位から順に渡辺、豊島、藤井聡太、永瀬。この4人のタイトルホルダーが名実ともにトップグループを形勢しています。

 今年度に入るまで、不思議と公式戦で対戦のなかった藤井、永瀬の両者。それが今年は棋聖戦、王位戦と、2つのタイトル戦での挑戦者決定戦という大舞台での戦いが続きました。結果は藤井七段(当時)の連勝となりました。

 本局がおこなわれるのは東京・将棋会館5階の特別対局室。床の間を背にして上座に座るのは藤井二冠です。

 藤井二冠は3位、永瀬王座は4位。藤井二冠が上座というのは席次通りです。

 ただし席に着く際には、上座の譲り合いがあったそうです。史上最年少のタイトルホルダーとなって以来、ずっと席次通り、すんなり上座に就いていたように見える藤井二冠。永瀬王座の存在はそれだけ特別ということなのでしょうか。

 ちなみに両者の段位は、藤井二冠は八段。永瀬王座は九段。それぞれタイトル獲得2期、タイトル獲得3期という規定をクリアしての昇段でした。藤井二冠は今期王将戦でタイトルを獲得すれば、史上最年少での九段昇段となります。

 定刻10時。

「それでは時間になりましたので、藤井先生の先手番でよろしくお願いいたします」

 記録係が声をかけて、両対局者は「お願いします」と一礼。対局が始まりました。

 藤井二冠は紙コップを口にしたあと、初手は角筋を開きました。

 まず注目は、後手番・永瀬王座の作戦選択。2手目に角道をあけたところを見ると、横歩取りへの誘導かと思われました。最近、永瀬王座が比較的よく後手番で「横歩取らせ」を指していること、また藤井二冠が横歩取りで比較的結果が出ていないところから、横歩取りに進むことを予想していた方も多いのではないかと思われます。

 そこへ4手目。永瀬王座は角筋を止めました。これは意外な立ち上がりです。

 進んで12手目。永瀬王座は四間飛車を採用しました。この作戦を次戦に予想し、もし当てた方がいたとすれば、大変な眼力の持ち主といえそうです。

 永瀬王座は今期王座戦五番勝負で全5局、久保九段の振り飛車を受けて立ちました。

 久保九段の振り飛車を研究するうちに、影響も受けたのでしょうか。

 永瀬王座はデビューして間もない十代の頃は、振り飛車党でした。それが居飛車党に転向してからは振り飛車を採用することはまれです。とはいえ、まったく指さなくなったというわけではありません。

 2017年、非公式戦「炎の七番勝負」での▲藤井四段-△永瀬六段戦(肩書はいずれも当時)では、後手番の永瀬六段は中飛車を採用。結果は永瀬勝ちでした。この七番勝負、藤井四段から唯一勝ち星をあげたのは永瀬六段でした。

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 対して藤井二冠。対振り飛車も勝率は高いところです。本局では和戦両様、持久戦でも急戦でもいける構えを見せます。

 27手目。藤井二冠は3筋から歩をぶつけて動きました。ここからは激しい変化に突入するかもしれません。

 33手目。藤井二冠は戦いの起こった3筋に飛車を寄せます。持ち時間は各4時間。ここまでの消費時間は藤井1時間13分、永瀬13分。いつもの通り、時間の消費は藤井二冠が大きく先行しています。

 12時前。永瀬王座の手番で昼食休憩に入りました。

 再開は12時40分。夕食休憩はなく、通例では夜に終局となります。

 本日は王将戦リーグもう一局▲木村一基九段(47歳)-△佐藤天彦九段(32歳)戦もおこなわれています。こちらはここまで木村九段2敗、佐藤九段3敗。先手の木村九段が横歩を取る展開となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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