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名人位失冠後リスタートを切る豊島将之竜王(30)A級順位戦初戦でライバル稲葉陽八段(32)と対戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月31日10時。大阪・関西将棋会館において第79期A級順位戦1回戦▲稲葉陽八段(32歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦が始まりました。

 前名人の豊島竜王は8月15日、名人位を失冠したばかりです。

 豊島竜王はA級順位戦において、順位1位からの再スタートとなります。

 豊島竜王が初戦で対戦するのは稲葉八段。関西奨励会の昔からしのぎを削り合ってきたライバル同士です。

 豊島竜王はこれから稲葉八段、菅井竜也八段、佐藤天彦九段、糸谷哲郎八段、斎藤慎太郎八段。5回戦までずっと、関西奨励会出身の近い年代の棋士との連戦となります。

 生まれた年は、豊島竜王は1990年、稲葉八段は1988年で、年齢は稲葉八段が2歳年長です。

 関西奨励会入会は、豊島竜王は1999年、稲葉八段は2000年で、豊島竜王が1年先行しました。

 四段昇段は、豊島竜王は2007年、稲葉八段は2008年で、こちらも豊島竜王が1年先行。

 A級八段となったのは、豊島竜王は2017年、稲葉八段は2016年で、こちらは稲葉八段が早い昇進でした。

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 また先に名人戦七番勝負の舞台に登場したのも、稲葉八段でした。

 2017年の名人戦七番勝負。稲葉八段は佐藤天彦名人に挑戦して、2勝4敗で敗退しました。

 一方2019年、豊島竜王(当時王位・棋聖)は佐藤天彦名人に挑戦して、4連勝で名人位を獲得しています。

 豊島竜王、稲葉八段の過去の対戦成績は豊島10勝、稲葉8勝で拮抗しています。

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 今年度成績は、豊島竜王は7勝9敗2持将棋。

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 稲葉八段は2勝6敗です。

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 両者ともにここまで好調とは言えない戦績ですが、相手を見ればなるほど、強敵ばかりではあります。

 稲葉八段は直近、三浦弘行九段に勝って、順位戦は幸先のよいスタートを切っています。

 本局がおこなわれるのは関西将棋会館。関西所属の豊島竜王、稲葉八段にとってはホームです。今期A級は10人のうち4人が関西所属で、その分、A級の対局も多くおこなわれることになります。

 関西会館4階・御上段の間は、前名人の豊島竜王にとっては、名人戦第6局を戦った対局室でもあります。名人戦の際は名人、挑戦者ともに和服姿でした。本局では両対局者ともにスーツにネクタイ姿です。

 将棋盤は畳のちょうど真ん中に置かれています。

 座布団の位置は決まっているわけではなく、棋士によって個性が現れます。

 上座の豊島竜王の座布団の前あたりは、ちょうど畳の縁にかかっています。

 一方で下座の稲葉八段の座布団は、畳の縁からずいぶんと離れています。稲葉八段が座っている位置は、盤から少し離れていることがうかがえます。

「それでは時間になりましたので、稲葉先生の先手番でお願いします」

 両者「お願いします」と一礼して、対局が始まりました。

 稲葉八段は一呼吸を置いたあと、前かがみになり、手を遠くの方に伸ばすようにして、2筋の飛車先の歩を伸ばします。

 対して豊島竜王も8筋、飛車のひとつ前にある歩を手にします。そこで駒が手につかずに落とし、隣り7筋の歩にぶつかって、2枚の歩が裏を向いて「と」を見せました。豊島竜王はまず7筋の歩を表に戻し、次いで8筋の歩をひとつ進めます。

 戦型は角換わりとなりました。飛車側の銀の位置は、稲葉八段は早繰り銀、豊島竜王は腰掛銀です。

 25手目。稲葉八段が3筋の歩をつっかけたのに対して、豊島竜王は腰掛銀を4筋に引いて、受けに柔軟性のある銀矢倉の形にしました。

 稲葉八段は35手目、自陣を金矢倉に組みます。豊島竜王が次の手を考慮中に、時刻は10時50分を過ぎました。

 A級順位戦の持ち時間は各6時間(1分未満切り捨てのストップウォッチ方式)。昼食休憩、夕食休憩をはさんで、通例では夜遅くに決着します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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