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苦境に立たされた木村一基王位 藤井聡太挑戦者が強く踏み込んで勝勢に 王位戦第4局2日目終盤戦

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影:筆者)

 8月20日。福岡県福岡市・大濠公園能楽堂において第61期王位戦七番勝負第4局▲木村一基王位(47歳)-△藤井聡太棋聖(18歳)戦、2日目の対局がおこなわれています。

 61手目。木村王位は桂を跳ね、5筋の飛車と手を組み、藤井玉に照準を合わせて反撃に出ます。

 対して藤井挑戦者の方からは香を打って飛車筋を止めながら飛車取りに打つ、最強の攻防手が見えます。ただしその香を打てば、妥協なき寄せ合いとなります。藤井玉にもたくさん王手がかかり、怖いところはたくさんあります。

 藤井挑戦者は慎重に腰を据えて考え始めました。

 午後、藤井挑戦者はオレンジジュースを頼みました。これはしばしば見られてきた選択です。

 甘いジュースを飲んでも、盤上ではまったく甘さを見せない藤井挑戦者。45分を使い、やはりというべきか。香を打つ最強の応手で決めに来ました。

 客観的な形勢は藤井挑戦者勝勢といってもよさそうです。しかし将棋は逆転のゲーム。本当に誤りなくゴールまでたどりつけるのかどうかは、また別問題です。

 持ち時間8時間のうち、残り時間は木村1時間34分、藤井1時間27分。

 木村王位は28分を使って決断します。桂を捨て、さらには盤上最強の飛車までも捨て、藤井玉に一気に迫っていきます。藤井玉は中段四段目まで引っ張り出され、かなり危ない形となりました。

 木村王位が香を打って王手をしたのに対して、藤井挑戦者は玉を一つ寄せます。危ないのはもちろん危ない。しかし危ないながら、これが最短の勝ちと見切ったか。

 藤井挑戦者は白いマスクをはずしています。対して木村王位は黒いスポーツ用マスクをつけたまま。

 強靭な粘りが身上の木村王位も、ここに至っては苦しくなったか。

 16時14分頃、木村王位は角を打って王手をかけます。対して藤井棋聖はすぐに三段目に玉を引き戻し、安全な方に向かって逃げていきました。

 残り時間は木村56分、藤井1時間16分。先に時間が切迫することが多い藤井挑戦者は、本局、ほぼ完璧なゲームマネジメントで進めているようです。

 木村王位は角を移動し、角で銀を取りながら香筋を通します。これは「開き王手」。このやり取りで木村王位は駒をたくさん取れます。しかし藤井玉はさらに安全な二段目へと逃げ去っていきます。

 あまりに強い、藤井挑戦者。このまま進んで逃げ切れば、ストレート4連勝で王位獲得となりそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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