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羽生善治九段(49)午後の戦いで飛車切りから鋭く踏み込んで優位に立つ 竜王戦本戦準決勝

松本博文将棋ライター
写真撮影:悟訓

 8月13日。東京・将棋会館において第33期竜王戦本戦準決勝▲梶浦宏孝六段(25歳)-△羽生善治九段(49歳)戦がおこなわれています。

 梶浦六段の先手で横歩取りから青野流。27手目、1筋を突き越した局面で12時、昼食休憩に入りました。

 12時40分、対局再開。羽生九段は角交換のあと、銀を上がります。この銀は横歩を取ったまま中段にとどまっていた梶浦六段の飛車に当たっています。

 ここで梶浦六段は長考に沈みました。じっと飛車を引いて逃げるのか。あるいはこのタイミングで相手の飛車頭に歩を打ってしまうのか。

 羽生九段の前に扇子は置いてあります。しかし対局中、それをほとんど手にすることはありません。

 一方で梶浦六段は扇子を出していません。

 先日のB級2組順位戦3回戦・藤井聡太棋聖-鈴木大介九段戦。梶浦六段の師匠である鈴木九段は愛弟子が「百雑碎」(ひゃくざっさい、百雑を砕く)と揮毫した扇子を使っていました。

 鈴木九段は羽生九段は竜王戦1組やA級順位戦などで合計9回対戦し、鈴木九段3勝、羽生九段6勝という成績が残されています。梶浦六段にとっては、本局が初めての羽生九段との対戦です。

 足を崩して考えていた梶浦六段。すっと正座に戻ります。背筋を伸ばしてさらに3分考え、消費時間は53分。梶浦六段はじっと飛車を一つ引いて逃げました。

 羽生九段は飛車取りに角を打ち、進んで飛角交換となりました。

 39手目。梶浦六段はちょうど1時間を使って、堂々と3筋の歩を伸ばします。横歩取りでは、歩を取った筋、すなわち3筋に歩を突き進めていくのが先手の狙い筋の一つです。とはいえこの局面では8筋、羽生九段側の飛車筋が縦に通ったままで怖いところです。

 今度は羽生九段が考え始めます。飛車筋の先、相手陣の銀頭に歩を打って踏み込んでいく順が成立するかどうか、というところです。

 コンピュータ将棋ソフトが示す評価値を見れば、もし羽生九段がその順を選べば形勢よしということが示されています。羽生九段を応援するファンとしては、その順を選んでほしいと思いながらの午後の観戦となったかもしれません。

 羽生九段が1期目のタイトルとなる竜王位を獲得したのは1989年、19歳3か月のとき。この最年少竜王記録は、すでに藤井聡太棋聖でも抜くことはできません。となれば、空前にして絶後の記録となる可能性は高そうです。

 そして最年長竜王の記録を持つのもまた、羽生九段です。もしまた竜王位に復位すれば、タイトル通算100期達成とともに、自身が持つ最年長竜王の記録も更新することとなります。

 座布団の中央に座っていた羽生九段。いつしかあぐらに組んだ足が、座布団の前に出ています。それだけ近づいて盤を見つめているということにもなります。

 羽生九段は正座に戻ります。考えること1時間4分。梶浦六段の銀頭に歩を打って、踏み込む順を選びました。自陣に置かれていた飛車を切って銀と刺し違え、持ち駒の飛車を梶浦陣に打ち込みます。

 羽生九段は飛車を成って王手金取りをかけたのに対して、49手目、梶浦六段は角合でしのぎました。ここで18時、夕食休憩に入りました。

 形勢は羽生九段、はっきり優勢となりました。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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