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梶浦宏孝六段(25)初手に3分瞑想 羽生善治九段(49)は横歩を取らせる作戦 竜王戦本戦準決勝始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 8月13日。東京・将棋会館において第33期竜王戦本戦準決勝▲梶浦宏孝六段(25歳)-△羽生善治九段(49歳)戦が始まりました。

 本局がおこなわれるのは将棋会館4階・特別対局室。上座に羽生九段、下座に梶浦六段が着いています。羽生九段は黒、梶浦六段は白のマスクを着けています。

 振り駒の結果、先手は梶浦六段と決まりました。

 羽生九段はここで一度席を立ち、部屋の外に出ます。

 梶浦六段は水をペットボトルから湯呑に注ぎます。さらには紙パックを開け、レモンティーをグラスに注ぎました。

 梶浦六段は1995年7月6日生まれ。現在は25歳です。

 梶浦六段が生まれた頃、将棋界はちょうど「羽生六冠王」の時代でした。

 翌1996年2月14日から7月30日まで、羽生現九段は七つのタイトルをすべて同時に保持していました。

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 今度は梶浦六段が席をはずし、代わりに羽生九段がひとり、盤の前に座ります。羽生九段の前には扇子と腕時計が置かれています。

 羽生九段は1970年9月27日生まれ。「羽生七冠王」の時には25歳でした。今年の誕生日を迎えると、羽生九段は50歳となります。

 梶浦六段が戻ってきて、両者ともに瞑目。対局開始の時を待ちます。

 10時。

「それでは時間になりましたので、梶浦先生の先手番でお願いします」

 記録係が定刻となったことを告げて、両対局者は「お願いします」と一礼。対局が始まりました。

 梶浦六段はしばらく目を閉じたままでした。観ている側にとっても、いよいよ大一番が始まったという雰囲気が高まってきます。梶浦六段は3分を使ったあと、飛車先の歩を一つ前に進めました。

 対して羽生九段も一呼吸をおき、1分を使って、角道を開けます。

 後手番の羽生九段は横歩取りに誘導する姿勢を見せました。近年は「横歩取りは先手よし」という見解が有力となり、後手番をもって横歩を取らせる棋士が減っていました。しかし最近では再び、大きな舞台で横歩取りが見られるようになりました。

藤井聡太七段●-○大橋貴洸六段(王座戦二次予選決勝)

豊島将之竜王●-○上村 亘五段(棋王戦本戦)

豊島将之竜王●-○永瀬拓矢叡王(叡王戦第4局)

 などの対戦では、横歩取りの後手番が勝っています。

 15手目。梶浦六段は敢然と横歩を取りました。相手に用意の対策があろうとも、受けて立つ姿勢です。

 梶浦六段は玉をまっすぐ立つ「青野流」の構え。対して羽生九段は二段目にじっと歩を受つ最新型で臨みます。

 11時12分。梶浦六段はじっと1筋の歩を突きます。対して羽生九段は18分を使って飛車を元の位置まで引きました。

 まだ一見、ゆっくりとした進行にも見えます。しかし戦型の性質上、いつどこで大決戦となっても不思議ではありません。

 竜王戦本戦の持ち時間は各5時間。昼食休憩、夕食休憩をはさんで、通例では夜に決着となります。

 本局の勝者と挑戦者決定戦三番勝負で戦うのは丸山忠久九段です。

 挑決がもし丸山九段-梶浦六段戦ならば、初手合です。

 もし羽生九段-丸山九段戦となれば、両者にとっては実に58回目の対戦となります。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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