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アゲアゲ物語第2章の始まりか? YouTuberから棋士となった折田翔吾四段(30)プロ入り後1勝目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月12日。大阪・関西将棋会館において朝日杯一次予選1回戦▲増田裕司六段(49歳)-△折田翔吾四段(30歳)戦がおこなわれました。持ち時間は各40分。10時に始まった対局は11時53分に終わり、結果は122手で折田四段の勝ちとなりました。

 折田さんはYouTuber、アマ強豪として活躍したあと、棋士編入試験に合格。

 4月1日付で晴れて「折田四段」となりました。プロとなってからは公式戦初戦1敗のあと、本局で初の1勝をあげました。

 また同日、2回戦▲折田四段-△長沼洋七段(55歳)もおこなわれました。14時に始まった対局は16時22分に終局。結果は134手で長沼七段の勝ちとなりました。

第2章始まるも、2勝目はならず

「ストーリー性のあるような棋士になれたらなあ、とは思うんですけど。とりあえず今日でアゲアゲ物語第1章は終わりという感じで。今後も第2章、第3章と、ストーリー性のあるような人生にできたらなあ、と思います」

 2月25日に棋士編入試験に合格した際、「アゲアゲさん」こと折田翔吾さんはそう語っていました。

 今年度にプロ棋士としてデビューした折田四段。次の大きな目標はフリークラス卒業、順位戦参加となるでしょう。そのためには10年以内に規定の成績を収める必要があります。そこに訪れたコロナ禍は、折田四段にとっては最初の逆風となったでしょう。

 第10回加古川青流戦では、折田四段は今泉健司四段(現五段)と対戦する予定でした。編入試験合格者同士の対戦は、もし実現していれば注目を集めたこととなります。しかしコロナ禍のため、今回の加古川青流戦は開催中止となってしまいました。

 折田四段がプロになってからの公式戦デビュー戦は棋聖戦一次予選、大橋貴洸六段戦でした。強敵を相手に、折田四段にとっては残念ながら敗戦となりました。

 そして本局。デビュー4か月目で、折田四段はようやく2戦目を戦うことになりました。

 10時から始まった1回戦・増田裕司六段戦。

 後手番となった折田四段は飛車を4筋に移動。四間飛車の作戦を見せます。最近の折田四段はずっと居飛車党でしたが、かつては振り飛車で戦っていたこともあります。

 そして折田四段は6筋に金を立ち、玉を7筋のまま囲う現代最新の構えを見せます。またもう1枚の金は逆サイドへと上がるバランス重視の姿勢です。

 対して増田六段も四段目に角を上がる現代風の駒組です。

 両者互いに中央5筋に飛車を回って戦闘開始。中盤の難しいねじりあいが続きます。

 終盤戦。折田四段は飛車を切って桂と刺し違え、寄せに入ります。一手を争う寄せ合いを制し、最後は折田四段が増田玉を即詰みに討ち取って終局。記念すべきプロ入り後の1勝目をあげました。

 続いて14時から始まった2回戦・長沼洋七段戦。

 先手番となった折田四段は初手に6筋の歩を突きます。これはプロ公式戦ではほとんど指されない初手。折田四段、早くもエンターテナーぶりを発揮しているようです。

 そのあとは前局に続いての四間飛車採用。そして同様に玉側の金は立ち、反対側の金は逆サイドに開くスタイルです。

 長沼七段が袖飛車から軽く動いたあと、互いに間合いをはかりあって、長い駒組合戦に。

 盤上の各所で歩がぶつかって、本格的な戦いが起こったのは60手を過ぎたあたりからでした。長沼七段はすでに40分の持ち時間を使い切って一手60秒未満で指す一分将棋に。折田四段は十数分を残しています。形勢ほぼ互角のまま長い中盤戦が続き、85手の時点で折田四段も一分将棋となりました。

 長沼七段は折田陣の弱点である、薄い玉側の端から攻めていきます。対して折田四段は長沼玉すぐそばにと金を作り、互いに相手玉を目指しての寄せ合いに入ってきます。

 勝敗不明の最終盤を制したのは、長沼七段でした。折田四段は長沼玉に迫るも寄せはなし。最後は長沼七段が2枚の飛車で折田玉をはさみ撃ちにして、終局となりました。

 アゲアゲ物語第2章は、本日から始まったのかもしれません。ただし本日2勝目とはなりませんでした。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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