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紆余曲折を経て依然一進一退の難解な中盤戦 名人戦第5局▲豊島将之名人-△渡辺明挑戦者戦、2日目進行中

松本博文将棋ライター
写真撮影:悟訓

 8月8日。東京・将棋会館において第78期名人戦七番勝負第5局▲豊島将之名人(30歳)-△渡辺明二冠(36歳)戦、2日目の対局が始まりました。

 8時44分頃、挑戦者の渡辺二冠、8時51分頃、豊島名人が対局室に入ります。両対局者ともに白いマスク姿です。

 コロナ禍は将棋界にも深刻な影響を与えました。名人戦の開幕も大幅に延期されています。

 そうして真夏の8月現在、名人戦は佳境を迎えています。

 両対局者が最初の位置に駒を並べたあと、立会人の屋敷伸之九段が声をかけます。

屋敷「それでは1日目の指し手を再現いたします」

記録係「先手、豊島名人▲2六歩。後手、渡辺二冠△3四歩。・・・」

 後手番の渡辺挑戦者は雁木志向。豊島名人が棒銀に出たのに対して、渡辺挑戦者は4筋に飛車を回る意外な手段で対抗します。そのあとは、思いも寄らないような進行となりました。

 1日目は52手目、渡辺挑戦者が飛車を中段に出たところまで進みました。

屋敷「それでは封じ手を開封いたします。・・・封じ手は△4六歩です」

 53手目。豊島名人は飛車取りに歩を打ちました。

 歩を控えて打つ△4七歩か。それとも一歩を犠牲にして先手を取る△4六歩か。ここは大きな分岐点で、どちらも有力と予想されていました。

 筆者手元のコンピュータ将棋ソフトでは最初に△4七歩が最善として示され、48億手以上読んだあとに、△4六歩が最善と判断が変わっていました。

画像

 報道陣が退出したあと、豊島名人はマスクと眼鏡をはずして目薬を差し、おしぼりで顔をぬぐいます。そしてまた、マスクと眼鏡をつけました。

 3分を使ったあと、渡辺挑戦者はゆったりとした動作で飛車を動かし、歩を取ります。

 豊島名人にとってはここもまた大きな分岐点。飛車成を防ぐために歩を打つか。それとも銀を打つか。

 名人はすぐに歩を打ちました。対して挑戦者もすぐに飛車を引きあげます。

 豊島名人は7筋の歩を突いて取らせ、金を上部に誘います。

 豊島名人は1日目、玉側の桂を跳ね出して歩を1枚得し、さらに攻撃陣側の桂でも歩を取って、合計2歩を得していました。本日指されたやりとりでは2枚の歩を渡辺挑戦者に渡したことになり、駒の損得はなくなりました。

 59手目。豊島名人は渡辺陣に生じたスキに角を打ち込みます。これは金取りで、強い手です。金を逃げられてしまうと、この角は行き場がなくなります。豊島名人は角を渡す代わりに、渡辺挑戦者の攻め駒である銀桂の2枚をもらいました。

 角と銀桂の「二枚換え」は一般的には、2枚もらった方が得をする場合が多い。しかし将棋は常にケースバイケースで、その二枚換えがいつでも得であるとは限りません。

 渡辺挑戦者は手に乗る形で、前線に誘われた金をさらに前に押し出していきます。渡辺陣の攻め駒がすべてさばけているのに対して、豊島陣の右辺には棒銀が残っているのが気になるところです。

 1日目が終わった段階では、どちらかといえば豊島名人乗りの声が多く見られました。2日目に入ると、渡辺挑戦者が盛り返しているようにも見受けられます。

 本日2日目は1時間の昼食休憩、30分の夕方の休憩をはさんで、通例では夜に決着がつきます。

 本日夕方からはAbemaTVトーナメント準決勝がおこなわれます。出場チームは以下の通りです。

チーム康光(佐藤康光九段、谷川浩司九段、森内俊之九段)

チーム永瀬(永瀬拓矢二冠、藤井聡太棋聖、増田康宏六段)

 名人戦とともにこちらも観戦、という方も多いでしょう。勝ち上がったチームが決勝で対戦するのはチーム渡辺(渡辺明二冠、近藤誠也七段、石井健太郎六段)です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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