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木村一基王位、受け師の本領発揮で優位に立つ! 藤井聡太七段はどう粘るか? 王位戦七番勝負第2局2日目

松本博文将棋ライター
写真撮影:悟訓

 第61期王位戦七番勝負第2局▲木村一基王位(47歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦は2日目午後、緊迫した中盤の戦いが続いています。

 60手目、藤井七段が飛車を浮き、木村陣四段目に置いた手は木村王位の意表を衝いたようです。木村王位はしばらくの間、じっとうつむいて考えていました。

 木村王位の心中はもちろん、対局中にはわかりません。一方でネット上の反応を見れば、ほとんどの観戦者の意表を衝いたのは間違いのないところです。

 61手目。木村王位は28分を使って角を一つ上がりました。藤井七段の飛の横利きを止めながら、次に飛車の捕獲を狙っています。

 藤井七段はその手を見て、グラスに注がれている冷たいお茶を飲みました。

 藤井七段が考える間、木村王位は眼鏡を再びはずし、おしぼりで目をおおいます。この場面だけを見れば、木村王位がずいぶんと打ちひしがれているようにも見えます。しかし対局者の仕草は、必ずしも形勢を表すわけではありません。形勢はほぼずっと、互角のまま推移しているようです。

 木村王位の角上がりは「空城の計」。藤井七段から見れば角が移動したため、端の9筋にいる飛車は前方に障害物がなくなり、木村陣のスキに飛び込んで成ることができます。それがいいのかどうか。

 藤井七段は37分考えて、飛車を成り込みました。もし木村王位が香を打ってむりやり龍(成り飛車)を取りにくれば、藤井七段の攻めが通りそうです。

 63手目。木村王位はじっと一段目に飛車を引きます。これが木村王位用意の一手でした。藤井七段の飛車浮きが玄妙さを感じさせるなら、こちらの木村王位の飛車引きはふところの深さを表しているようです。

 木村王位の飛車引きは、藤井七段の龍の動きを制限しながら、反撃を秘めた守りの好手です。ここは受け師の面目躍如たる場面でした。

 藤井七段は34分を使い、じっと龍を自陣に引き上げます。残りは23分と切迫してきました。対して木村王位は1時間35分を残しています。

 先手は一方的に龍を作られて損をしたようですが、そうではありません。

 木村王位は4分考え、2筋に香を据えます。これが強烈なカウンターパンチ。飛と香の二段ロケットで藤井陣の一角は必ず崩されることになります。

 藤井七段は銀を上がる難しい受けを見せます。これは非勢を認め、粘りに出たようにも見えます。3分を使って、残りは20分。藤井ファンにとっては見慣れているかもしれませんが、ほとんど時間がない中での、ハラハラした終盤戦となりそうです。

 現状は少しずつ木村王位がペースをつかみつつあるようです。筆者手元のコンピュータ将棋ソフト(水匠2)では評価値にして1000点近いの差が示されています。

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 このまま進めば、木村王位の名局となるかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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