Yahoo!ニュース

「初めての2日制でいい経験ができた」藤井聡太七段(17)王位戦七番勝負第1局勝利後インタビュー全文

松本博文将棋ライター
(写真撮影:筆者)

(藤井七段、対局終了後に記者会見場に現れ、一礼して席に着く)

司会「お待たせいたしました。ただいまより、7月1日・2日におこなわれました第61期王位戦七番勝負第1局において勝利した、藤井聡太七段の記者会見を始めさせていただきます。初めに王位戦主催紙・中日新聞様より代表質問をお願いいたします」

岡村「岡村と申します。主催社を代表し、質問させていただきます。藤井七段、長時間の対局、どうもおつかれさまでした。第1局の勝利もおめでとうございます。本局は1日目から藤井七段が強気で踏み込んでですね、本日は木村王位の力強い受けの手もありましたが、終始、攻めて、攻めて、攻め勝ったような将棋でした。本局の手応えについて、どんな印象をお持ちでしょうか?」

藤井「1日目からかなり激しい展開になって・・・。途中攻め方を間違えてしまったところもあるかなと思うんですけど。なんというか、最後は押し切れたのかな、という気がします」

岡村「終盤に△3一桂と木村王位が指された後にですね、▲1五歩で1時間の長考がありました。あの時はどんな思いを持たれておりましたか?」

藤井「きわどい局面なので、ちょっとどうかわからなかったです」

岡村「木村王位は『受け師』と呼ばれる非常に受けの強い棋士で、本日対局してみて、その印象はいかがでしたか?」

藤井「途中から木村王位の玉が薄い局面が続いたかなと思うんですけど、その中でもきわどくしのぐような手を多く指されたかなと思います」

岡村「今回、初めての2日制の対局ということで、指し掛けのまま日をまたぐという経験をされました。昨晩はですね、どんな様子で過ごされて、どんな思いを持たれておったのでしょうか?」

藤井「普段通り寝ることはできたんですけど、ただやっぱり2日制だと、2日続けて対局があるわけなので、体力的なところも気をつけなくてはいけないのかな、と思いました」

岡村「やはりいつもよりはおつかれになった感じですか? 対局を終えてみて」

藤井「そうですね、普段の公式戦の対局が2日続けてあるということはないので・・・。そういう意味ではやっぱり普段以上に体力、集中力が要求されるのかなという気がします」

岡村「そのほかですね、ご自身は書かれなかったですけど、封じ手の作法を教わったりですね、ホテルで対局したりと、いろいろと新たな経験をされたと思います。全体を振り返ってその印象はいかがでしょうか?」

藤井「多くの関係者の方に素晴らしい対局環境を用意していただいて、その中で対局できるとは、うれしいことだなというふうに感じました」

岡村「私からは最後の質問で。王位戦では今後ですね、北は北海道、南は九州と全国を転戦することになります。それについての期待ですとか、不安ですとか、意気込みですとか、思うところをお話ください」

藤井「王位戦、七番勝負だと各地を転戦することになりますけど、現地で見ていただく方にしっかり、よい将棋をお見せできるようにがんばりたいなと思います」

岡村「ありがとうございました。主催社からは以上です」

司会「それでは次に東京将棋記者会幹事社、朝日新聞様より質問をお願いいたします」

村上「朝日新聞の村上です。おつかれさまでした。東京将棋記者会を代表して、いくつか質問をさせていただきます。まず形勢についてですね。1日目、2日目、藤井七段はどのように感じながら指していましたでしょうか?」

藤井「1日目はちょっと予想以上に激しい展開になって・・・。こちらが攻め込めるかどうか、きわどいのかなというふうに思っていました。2日目は・・・少したぶん、途中ちょっと間違えてしまって、攻めが細くなってしまったところもあったのかなという気がします」

村上「本日、最終盤の方なんですけれども、かなり木村王位の受けが強靭な受けでですね、一歩間違えれば逆転じゃないかといわれるような局面もけっこうあったかと思うんですけれども、そのあたりは逆転の可能性みたいなものを考えながら指していたんでしょうか?

藤井「途中からこちらが寄せられなければ、負けてしまうような展開になってしまったので、ちょっと失敗したかな、というふうには思っていました」

村上「2日制ということで、封じ手をやるチャンスがあったのかどうか・・・はちょっとわからないんですけども、チャンスがあったら封じ手をやってみたい、というようなことは考えていたんでしょうか?」

藤井「そうですね・・・ただ・・・封じ手はまったく経験がないので・・・できれば第1局では木村王位の封じ手の仕方を見て勉強したいな、というふうには思っていました」

村上「じゃあ、次回はもしかすると、するかも?」

藤井「まあ、展開次第で、はい」

村上「先ほどの終局後のインタビューで『体力面に課題があったかな』という話をされてたんですけれども、どういった点でそういうふうに思われたんでしょうか?」

藤井「特に2日目の午後からかなり・・・普段の対局以上に疲労を感じるところはあったので、2日間通して集中できる力が必要なのかな、というふうには感じました」

村上「最後の質問です。前回ですね、和服は杉本師匠(昌隆八段)から贈られたものを着られたということだったんですけど、今回の和服はいつ、どのように揃えられたものなんでしょうか?」

藤井「今回のは(6月4日に)棋聖戦の挑戦が決まってから仕立てていただいたものです」

村上「わかりました。ありがとうございます」

司会「それでは他に藤井七段に質問のある方は挙手をお願いします。質問は一人一問とさせていただきますので、当てられた方は社名、氏名を名乗ってから質問をお願いします」

林「おめでとうございます。NHKの林と申します。今日、パブリックビューイングで近くにあったんですけれども、ものすごい県内の人、応援してくれたと思うんですけども、ファンに向けてメッセージがありましたら、お伝え下さい」

藤井「愛知県でタイトル戦の対局が指せるというのは自分自身うれしかったですし、ファンの方に見ていただいてる中で勝つことができたのはよかったかなというふうに思います。第2局以降もファンの方に喜んでいただけるような将棋が指せればというふうに思っています」

粟野「今日はおつかれさまでした。ジャーナリストで『サンデー毎日』とかに書いている粟野と申します。今日、かなり長考されたのが、木村王位が△3九馬と金にぶつけてきた時に、▲5三銀を打つのにかなり考えられたと思うんですけども、あそこっていうのはずっと攻め続けてたのを、一回、その馬を何とかした方がいいかなというようなふうに考えてられたんでしょうか?」

藤井「直前の▲4四歩(△同玉)から▲5二とが急所をはずしてしまったかなと思ったので、改めてどう攻めるかというのを考えていました」

粟野「えっと、あと、これはちょっと言いにくいかもしれないんですけど、藤井七段から見て、今日の木村さんの手のこれが悪かったんじゃないかと、逆に藤井さんから言うとこれに助けられたと、そういうふうに思うような手というのはございましたか?」

藤井「ちょっと・・・そのあたりはまあ、精査してみないとわからないかなと思います」

粟野「あとこれだけほとんど自分の王は守ること少なく攻め続けて勝つっていうのは、やっぱり気持ちがいいもんでしょうか?」

藤井「いや、まあ、ほんとにその局面でなんとか、最善に近づければと思っているので、特にその・・・そういった展開というのはあまり、なんというか、重要でないというか、それぞれの局面でいい手を指したいという思いの方が強いです」

粟野「どうも、ありがとうございました」

北野「報知新聞の北野と申します。おつかれさまでした。持ち時間に関してうかがいたいんですけども、8時間を楽しみと、前夜おっしゃっていたと思うんですが、さっき疲労、集中力というところもお話しされていましたが、この2日間、夜考えるということも含めると、いろんな意味で未経験の時間設定の中で過ごした2日間だったと思うんですけど、持ち時間は楽しめましたでしょうか?」

藤井「持ち時間8時間というのは初めてでしたけど、いい経験になったのかなというふうに思います」

北野「それは今までの持ち時間では考えれなかった深いところまで読めたりとかって、そういう違う体験みたいなものを感じた一局だったですか?」

藤井「普段の対局以上に深く読むことができたかなと思うんですけど、ただ一方で、形勢判断とのバランスを少し欠いてしまったようなところもあるので、また、そのあたりの反省を次局にいかしたいなと思っています」

北野「ありがとうございます」

福島「デイリースポーツの福島と申します。おめでとうございます。これで先の棋聖戦から含めてタイトル戦3連勝負けなしということにまたなったんですけど、トッププロを相手に、前回の棋聖戦も今回の王位戦も、ほぼ何もさせることない快勝だったかと思うんですけど、この2戦、3戦を通じて、ご自身の記録といいますか、タイトルに手をかけた、っていう手応えというのはいかがでしょうか?」

藤井「そうですね・・・まあ、ただ、なんというか、棋聖戦、王位戦、どちらの番勝負、まだ前半なので、結果については意識することなく、また、これまでの対局の反省を次にいかして指せればと思っています」

福島「この流れでまた来週(9日)にはちょうど棋聖戦第3局もありますが、この(王位戦第1局の)対局がまた次に向けてのいいはずみといいますか、ステップになるというような実感はいかがでしょうか?」

藤井「今日の対局は初めての2日制でいい経験ができたかな、というふうには思うので、それもまた次の対局にいかしていければなと思っています」

福島「ありがとうございました」

藤崎「ABEMAの藤崎です。おめでとうございます。今回2日制ということで、とてもおつかれだと思うんですけども、今回、記者会見で着物を着て、たぶん全国の皆様にコメントするのは初めてだと思うんで、いまですね、後ろの方で手を振っている者がいるんですが、こちらのカメラがですね、いま全国のテレビ局に画(え)を送ってるので、そのカメラに向かってですね、大変おつかれだと思うんですけれども、全国の皆様に一言、よろしくお願いします」

藤井「2日間ご観戦いただきまして、ありがとうございます。今回初めて2日制の対局ということでいい経験ができたかなと思うので、またその経験をいかして次局もいい将棋を指せればなと思っていますので、またご観戦をよろしくお願いいたします」

藤崎「ありがとうございました。(第2局対局場の)札幌でもまたお待ちしています。ありがとうございました」

司会「それでは以上で藤井聡太七段の記者会見を終了とさせていただきます。藤井七段おつかれさまでした」

(藤井七段、一礼をして立ち上がり、もう一度深く一礼して、会見場をあとに)

(7月2日夜、愛知県豊橋市・ホテルアークリッシュ豊橋)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

松本博文の最近の記事