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史上最年少二冠チャレンジへ――奇跡の神童・藤井聡太七段(17歳)棋聖戦に続いて王位戦も挑戦権獲得

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月23日。東京・将棋会館において第61期王位戦挑戦者決定戦▲藤井聡太七段(17歳)-△永瀬拓矢二冠(27歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は19時52分に終局。結果は127手で藤井七段の勝ちとなりました。

 棋聖戦では史上最年少17歳10か月20日でのタイトル挑戦を決めた藤井七段。いままた王位戦でも挑戦権を獲得し、史上最年少での二冠獲得の可能性も現実的なものとなってきました。

 その藤井七段を迎え撃つのは、昨年、史上最年長46歳で初タイトルを獲得した木村一基王位(47歳)。対照的な両棋士が相まみえる、ドラマチックとしか言いようがない、七番勝負の組み合わせとなりました。

 七番勝負第1局は7月1日・2日、愛知県豊橋市、ホテルアークリッシュ豊橋でおこなわれます。

藤井七段、堂々の勝利で史上最年少二冠チャレンジへ

 棋聖戦、王位戦と短期間のうちに挑戦者決定戦で両雄は対局することになりました。

藤井「永瀬二冠には普段から教えていただいているんですけれど、公式戦では今月まで対局がなかったので、こうして大きな舞台で対戦できるというのは、うれしく思っていました。(ハードスケジュールについては)対局は多いですけど、普段通り臨めているかなと思います」

 藤井七段先手で、戦型は角換わり早繰り銀。藤井七段の序盤構想が新しく、策戦家の永瀬二冠も意表をつかれたか、昼食休憩までは永瀬二冠の方が時間を使ってます。

藤井「ちょっとやってみたい形ではありました」

永瀬「想定はしてなかったんですけれども、なったら仕方ないなと思ってました」

 12時40分、対局再開。35手目、永瀬二冠はあたりになっている銀を逃げる、ほぼ必然の手を指しました。

 そしてここから藤井七段が長考に沈みます。圧倒的な終盤力を誇りながら、中盤で妥協なくよさを求めて長考するのが藤井七段のスタイルです。

 そして1時間36分を使って、遠く相手の飛車をにらむ位置、自陣四段目に角を据えました。持ち時間は4時間ですので、大長考の部類に入ると言っていいかもしれません。

 対して永瀬二冠は筋違いに角を打ちます。以後は押したり引いたり、棋界トップを争う両者による力比べの中盤戦となりました。そして形勢はほぼ互角のまま推移していきます。

 67手目。藤井七段は中盤の忙しそうなところ、落ち着き払って、じりっと自陣の金を一つ、玉側に寄せます。その時点で残り時間はわずかに10分。一方の永瀬二冠は56分。形勢はともかく、残り時間の差を見れば、毎度藤井ファンからは悲鳴が上がりそうな展開です。

 筋違い角を藤井陣に成り込んで、先に相手玉に迫る形を作ったのは永瀬二冠でした。時間が切迫し、一手受けを誤ればそれまでという終盤戦。藤井七段は正確に受け続けます。

 永瀬二冠の攻めが一段落したところで、藤井七段は永瀬陣に飛車を打ち込んで反撃に出ました。

 永瀬二冠の受けもまた、棋界トップクラスの強靭さを誇ります。自陣に角銀を投入して藤井七段の攻めをしのぎます。

 どちらが勝ってもおかしくはないと見られた終盤戦。そこで抜け出したのは、またもや藤井七段でした。恐れ入ったる強さです。

 藤井七段は飛車を渡す代償に、永瀬玉への寄せ形を築きます。そして自玉は危険地帯から逃げ出し、勝勢を確かなものとしていきます。

 102手目。永瀬二冠も時間が切迫する中、自玉のそばにじっと歩を打ちます。鬼軍曹と呼ばれ、「根性」という言葉を好む永瀬二冠。まさに根性としか言いようがない一手で耐えようとします。

 藤井玉はさらに安全地帯へと逃げていきます。対して永瀬二冠は遠い金をじっと玉に寄せ、辛抱を重ねます。

 満を持して藤井七段は最後の寄せに出ました。そして鬼軍曹が根性で築いた堅塁を抜きます。

 藤井七段は自陣の飛車を取らせる間、左右はさみうちの形を作り、ついに永瀬玉を受けなしに追い込みます。

 永瀬二冠は最後に藤井玉に王手をかけて形を作ります。藤井七段はしっかりと合駒を2回続けて打ち、藤井玉は詰みません。

 永瀬二冠が投了し、注目の一番は幕を閉じました。

永瀬「本局、一局を通して力負けという印象がありましたので、追いつけるように、また勉強して頑張りたいなと思います。(挑決で二度続けて当たったことについては)普段から指していて、実力は当然知っているわけなので『まさか自分が』というのはありましたけど、指してみると、こちらが力負けしてしまったような気がします」

 永瀬二冠はそう語っていました。

 将棋界のあらゆる記録を塗り替えつつある、天才・藤井聡太七段。棋聖戦に続いて王位戦でも挑戦を決め、最年少タイトル獲得、さらには最年少二冠の可能性をも現実的なものとしました。

 棋聖戦は五番勝負で持ち時間4時間の1日制。

 王位戦は七番勝負は持ち時間8時間の2日制です。

藤井「持ち時間8時間というのは指したことがないので、じっくり考えられるのは楽しみです」

 迎え撃つのは大器晩成の苦労人、木村一基王位(47歳)です。

藤井「木村王位は力強い受けに特長があるという印象です」

 これから始まる七番勝負、どちらを応援していいのか迷うというファンの方も多いのではないでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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