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永瀬拓矢叡王(27)-豊島将之竜王・名人(30)どちらが勝つのか予想は圧倒的互角 叡王戦七番勝負開幕

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月21日。静岡県賀茂郡河津町「伊豆今井浜温泉 今井荘」で第5期叡王戦第1局▲永瀬拓矢叡王(27歳)-△豊島将之竜王・名人(30歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 叡王戦は4月に開幕予定でした。しかしコロナ禍の影響で開幕が延期されています。

 名人戦、叡王戦ともに6月の開幕となりました。

 9時47分、豊島竜王・名人が対局室に入ります。豊島挑戦者は一昨日まで山形県天童市でおこなわれていた名人戦七番勝負第2局で勝利を挙げています。

 豊島竜王・名人は昨日が移動日で天童から今井浜に。そして本日、この対局に臨んでいます。

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 昭和の昔には忙しい人のことを「オイソガ氏」と表現しました。現棋界のオイソガ氏四天王は渡辺明三冠、藤井聡太七段、そして本局の対局者である豊島竜王・名人、永瀬叡王(王座)でしょう。

 永瀬叡王もまた、目のくらむようなハードスケジュールが組まれています。

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 永瀬叡王は棋聖挑戦は逃しましたが、王位挑戦となれば、さらにまた忙しくなりそうです。

 9時49分、永瀬叡王が対局室に入ります。その和服姿を見て、ニコニコ生放送で聞き手を務める山口恵梨子女流二段いわく。

「自分で着た感がすごいあるんですが、これはコロナの影響で着付けさん呼ばなかったんですかね」

 筆者は和服の着付けの出来栄えについてはよくわかりません。「なるほど、これは鋭い見方なのかもしれない」と思いました。

 対局が始まる前、ニコ生恒例のアンケートが取られました。第1局の勝者予想の結果は次の通りです。

永瀬 叡王 29.5%

豊島挑戦者 29.6%

にゃんとも 40.9%

 ニコ生で「圧倒的互角」というコメントが流れた通り、非常に拮抗した数字でした。

「圧倒的互角」という言葉、先日は山口女流二段がテレビのワイドショーで使っていました。将棋をよくご存知ない方からは「矛盾した言葉ではないかと」ざわざわとした声が聞こえてきました。これはネット起源で、近年の将棋界におけるスラングです。

 どちらが七番勝負を制するのかについてはまさに、にゃんとも言えないところでしょう。

 先後を決める振り駒は、タイトル戦第1局の開始直前におこなわれるのが通例です。ただし叡王戦では、事前に振り駒がされます。先後があらかじめ決まっていれば、対局者や運営側も準備がしやすいというメリットがあります。

 今期叡王戦では3月8日、「見届人」を務める方が振り駒をおこないました。

 振り駒の結果、「歩」が4枚出て永瀬叡王の先手と決まっています。

 叡王戦は段位別予選、本戦、七番勝負と、持ち時間はすべてチェスクロック方式です。

 また七番勝負では1時間、3時間、5時間、6時間と4通りの持ち時間が設けられるのが叡王戦の特徴です。今期第1局は各5時間となります。

 10時。

「定刻になりましたので、永瀬叡王の先手番で始めてください」

 立会人の青野照市九段がそう告げて、両者一礼。対局が始まりました。

 永瀬叡王先手で、戦型は角換わりとなりました。そして互いに手早く銀を繰り出していく「早繰り銀」の作戦です。最近しばしば見られる形で、両者ともに研究十二分というところでしょう。

 豊島挑戦者が先攻して、永瀬叡王が反撃。対局が始まって間もないにもかかわらず、盤上はすでに乱戦模様です。事前に研究してある形は飛ばせるだけ飛ばして、中終盤に時間を残すというスタイルは、現代的なペース配分と言えます。

 62手目。豊島挑戦者が飛と馬の利きに歩を打って攻めを継続したところで昼食休憩に。

 両者の昼食はいずれもうな丼でした。

 東西に広い静岡県。うなぎの名産地である浜名湖、浜松は西側。本局対局場の河津町は東側の伊豆です。

 永瀬叡王のかたわらには、たくさんのバナナが置かれています。永瀬叡王のバナナ好きはその活躍とともに有名になりました。AbemaTVトーナメントで永瀬叡王がリーダーを務めるチーム名も、そのままずばり「バナナ」です。

 ニコニコ生放送で解説を担当するのは屋敷伸之九段。屋敷九段は昨日、ABEMAで竜王戦3組決勝・杉本昌隆八段-藤井七段戦の解説も担当していました。

 屋敷九段もまた忙しいようです。

 杉本-藤井戦は夜になっても駒がぶつからないような、大変なスローペースでした。

 一方で本局は対照的なハイペース。ただし昼食休憩が明けて再開後は、両者ともに時間を使い合っての力のこもった中盤戦となりそうです。

 14時半を過ぎた時点では68手目、豊島挑戦者がじっと玉を寄せたところまで。形勢は圧倒的互角のようです。

 本局で記録係を務めているのは熊谷俊紀二段(22歳、所司和晴七段門下)。熊谷二段は本日21日夜放映予定(すでに収録済み)のAbemaTVトーナメントでも、記録係として映るようです。

 叡王戦、そしてAbemaTVトーナメントと、観戦する側にとってもハードスケジュールが続いていきます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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