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藤井聡太七段(17)と対峙するのは和服姿の杉本昌隆八段(51)竜王戦3組決勝、大舞台での師弟戦開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月20日10時。大阪・関西将棋会館において第33期竜王戦3組ランキング戦決勝▲藤井聡太七段(17歳)-△杉本昌隆八段(51歳)戦が始まりました。

 杉本八段と藤井七段は師弟の関係です。

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 両者にとってはこれが2度目の師弟戦となります。前回は2018年の王将戦一次予選。千日手指し直しの末に、藤井七段の勝ちとなりました。

 杉本八段と藤井七段は竜王戦では3組、順位戦ではB級2組に所属しています。順位戦はリーグ戦で、事前に抽選によって全対局のカードが組まれます。B級2組では規定により、最初から師弟戦が組まれないようにしています。

 一方で竜王戦はトーナメント戦です。師弟が勝ち進めば必然的に師弟戦がおこなわれます。とはいえ、それはレアケース。3組決勝という大舞台で師弟戦が実現するとはすなわち、勢いさかんな若い弟子だけでなく、年長の師匠も現役バリバリで強いことを示しています。

 杉本八段の通算成績は581勝463敗(勝率0.557)。通算600勝を達成した棋士に贈られる「将棋栄誉賞」の受賞まではあともう少しです。竜王戦では最高クラスの1組に8期在籍していました。

 藤井七段の通算成績は175勝33敗(0.841)。3年連続勝率8割以上。信じられないような、史上最速のペースで勝ち続けています。

 藤井七段は竜王ランキング戦において、デビュー以来19連勝中。

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 またランキング戦4期連続優勝となれば、これは史上初の大記録となります。

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 対局場は関西将棋会館でいちばんグレードの高い御上段(おんじょうだん)の間。

 9時40分。まずはスーツ姿の藤井七段が部屋に入り、下座に着きます。

 9時52分。杉本八段が対局室に現れます。本局での杉本八段は羽織袴の和服姿でした。そして床の間を背にして、上座にすわります。

 杉本八段は2002年度朝日オープン決勝五番勝負などで、和服で対局に臨んでいます。

 将棋会館での対局で和服を着るということは、それだけ重要な決意であることを示しています。

 2017年8月、9月。板谷進九段門下で、杉本八段にとっては兄弟子にあたる小林健二九段は、藤井現七段と2回対戦した際、いずれも和服で臨んでいました。

 板谷四郎九段、板谷進九段の一門にとって、タイトル戦出場は悲願でした。小林健二九段、杉本八段はこれまで惜しくもタイトル挑戦は果たしていません。

 一方で藤井七段は史上最年少でのタイトル挑戦を達成しています。

 杉本八段にとっては本当の意味で、すでにかなりの恩返しをしてもらった、というところかもしれません。

 そして杉本八段は本局、現役バリバリの棋士の一人として、全力で藤井七段を負かしに行く決意で臨んでいるのでしょう。

 記録係が振り駒をした結果、「歩」が1枚、「と」が4枚出て、先手は藤井七段と決まりました。

 定刻10時。両者一礼をして対局開始。

 藤井七段はマスクをずらして口元にグラスを運びます。いつも通りの所作の後、初手で飛車先の歩を伸ばしました。

 その手を見た後、杉本八段は席を立ち、対局室を出ていきます。そしてお茶のペットボトルを手にして戻ってきました。そしてグラスにそそぎ、弟子と同様にお茶を飲みます。

 消費時間は5分。杉本八段は着物の裾を持ちながら、角道を開けました。

 12手目。杉本八段は得意の四間飛車に振りました。これは前回の師弟戦(千日手指し直し局)と同様です。

 18手目。杉本八段は玉側の金をまっすぐ一つ上がります。これは大橋貴洸六段創案の「耀龍四間飛車」を思わせる進行です。

 藤井七段にとっても、そう経験のある形ではありません。午前中は慎重な駒組が進んでいます。

 竜王戦ランキング戦の持ち時間は各5時間。昼食休憩、夕食休憩をはさんで、通例では夜に決着がつきます。

 勝者は3組優勝者として本戦に進み、2組準優勝者と戦います。昨日の対局の結果、それは丸山忠久九段と決まりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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