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山崎隆之八段(39)順位わずか1枚の差でギリギリセーフの残留 B級1組順位戦全日程終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月12日。東西の将棋会館に分かれて、B級1組順位戦最終局がおこなわれました。

 残留争いにからむ▲屋敷伸之九段(48歳)-△山崎隆之八段(39歳)戦は、大阪・関西将棋会館で指されました。

 屋敷九段先手で、戦型は角換わりに。互いに陣形のバランスを崩さぬように間合いをはかりながら、腰掛銀に組みました。

 15時頃、屋敷九段が歩を突っかけて、中盤の戦いが始まりました。

 盤面中段、端から端までを使っての攻防のあと、夜戦に入って、屋敷九段が総攻撃を敢行します。山崎八段の玉は中段に引っ張り出される形となり、危険きわまりない格好です。

 山崎八段はかつてNHKで「ちょいワル逆転術」と題した講義をしていました。ちょいワルな展開から、強靭な力を発揮するのが山崎八段です。終盤で猛然と追い込み、屋敷玉を龍角角の大駒3枚で追う形を作り、いつしか形勢は逆転模様となりました。

 一方の屋敷九段はすでに残留を決めていて、自身が敗れても降級するわけではありません。しかしそうしたところで決して手を抜かないのが将棋界です。また勝つと負けるとでは、来期の順位が数枚違ってきます。そのわずかの順位の差で、天国と地獄ほどにも状況が違ってくるのが、順位戦です。

 そして屋敷九段が耐えて反撃に転じ、形勢はまたひっくり返ったようです。他の全ての対局が終わり、残るはこの一局だけとなりました。

 実はこの時すでに、同じ大阪で指されていた畠山鎮八段-松尾歩八段戦が終わり、残留を争う畠山八段が敗れていたために、山崎八段の残留は決まっていました。

 優位に立った屋敷九段は間違えず、着実に山崎八段を追い詰めていきます。そして149手目。屋敷九段がしばりの銀を打って山崎玉を受けなしとしたところで、山崎八段が投了。

 深夜0時58分。今期順位戦のすべての対局が終わりました。

 改めて、残留争いの表を見てみましょう。

画像

 山崎八段、谷川九段、畠山鎮八段の3人は同成績の3勝9敗。その中で、前期までの成績を反映した「順位」最上位の山崎八段が、からくも助かった形となりました。「順位戦は順位1枚の差が大きい」とよく言われます。今期の山崎八段と谷川九段の運命を分けたのも、わずかに順位1枚の差でした。

 また屋敷九段は勝って白星を積んだことによって、来期は松尾八段、阿久津八段よりも順位上位となります。

 屋敷九段-山崎八段戦は、今期順位戦の悼尾を飾るにふさわしい、大熱戦でした。来期はまた、どのようなドラマが見られるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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