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将棋界注目の新鋭・本田奎五段(22)を育てた師匠・宮田利男八段(67)インタビュー

松本博文将棋ライター
2月25日、三軒茶屋将棋倶楽部にて、宮田利男八段(撮影筆者)

 将棋界の新鋭である本田奎五段(22歳)が快進撃を続けています。現在は棋王戦五番勝負で渡辺明棋王(35歳)に挑戦中です。

 昨日2月25日には、折田翔吾アマの編入試験五番勝負第4局の対局相手としても、注目を集めました。

 編入試験がおこなわれていた当日、本田五段の師匠である宮田利男八段(67歳)にお話をうかがってきました。

――いま先生のお弟子さんがたくさん活躍されています。本田奎五段は史上最短、1期目の参加でタイトル(棋王)挑戦。現在は渡辺明棋王に挑戦中で、タイトル獲得となれば、史上最速(1年5か月)記録となります。本田さんは小さい頃から有望でしたか?

宮田 うーん、それはもう・・・(笑)。最初にお母さんが連れてきて。(小学)1年生かな。「近い将来、頭抱えることになるかもしれないですけど、その時はまあ・・・」って言ったんですよ。

――ほお・・・。

宮田 頭抱えることになるかもしれないですよ、って。お母さんがね、「何の話?」って感じで。

――それが何の話かというと。

宮田 (本田現五段が奨励会の)三段で何期か苦戦しているときにね、お母さんが忘年会で言ったんですよ。「先生、私もう、どうすればいいんでしょうね」って。

――ああ・・・。そういうことですか。本当に頭を抱えることになってしまった・・・。

宮田 何人かはそういうのは、見たことがあります。

――奨励会に入って三段にまで進めるだけでも、将棋ファンからすれば、驚くべき強さです。小学校1年生で、そこまでの将来を感じさせるだけの、抜群の才能だったというわけですね。

宮田 「才能」って言葉はよくわからないんだけども、「絶対に強くなるだろう」とね。今まで何人か「絶対」というのはありました。

――では先生の期待通りにここまで順調に・・・。

宮田 いや、順調にではないです。17、8で四段になると思ってたんで。「ばかやろう」って感じです(笑)。

――ははは(笑)。本田さんが四段に昇段したのは21歳でした。先に弟弟子の斎藤明日斗さんが19歳で四段に昇段して。

宮田 まあ、刺激になったんでしょうけどね。

――先生はこれまでいろんなお子さんを見てきて、本田五段はその中でもピカイチの才能だったということでしょうか。

宮田 ピカイチかどうかはわからないけどね。一番びっくりしたのは、大昔の古作登かもしれないですね。

――なるほど。古作さんも天才少年として名高い存在でした。

宮田 古作君がね、あれは小学校2年生か、3年生だったかな。僕が奨励会三段で、飛車落ちで。(若い奨励会員が指導対局でわざと)負けてあげるなんてことは考えられないんだけど、それでしっかり負かされてね。「なにこれ?」って思ったもん。島朗(現九段)よりも上だと思った。

――奨励会三段に小学校低学年で飛車落ちで勝てたら、それはもう天才ですね。その天才古作少年も、三段まで進んで、プロにはなれなかった・・・。

宮田 学校の出来もよかったんでね。(名門校に進学しないで)将棋だけやってたら、ラクラク(棋士に)なってたんでしょうね。

――先生のお弟子さんの伊藤匠三段も、小さな頃から強いと評判でした。

宮田 あれこそ本当にね、16、7で四段になるかと思ってたんだけど。

――いまちょうど17歳ですね。藤井聡太七段と同い年で。先生の目から見たらもう、もっと早く四段になっていてもおかしくなかったと。

宮田 そりゃもう、全然よ。

――なるほど。NHKの番組で小学4年の時の伊藤少年が取り上げられていました。伊藤少年が有望だからか、先生の指導はずいぶん手厳しいように見えました。

宮田 言葉はそうかもしれないけれど、厳しくはないんですよ(笑)。斎藤なんてのはね、「はいっ、わかりました!」とか言いつつね、「へへー」って顔してるんだ(笑)。全然、なんにも厳しくないと思いますよ。周りの人にはすごく厳しそうに見えるんですよ。あいつらはもう「ふんっ」って顔するんだ。鼻でせせら笑うようなね。

――なるほど。将棋が強くなる子はそんな感じかもしれないですね(笑)。伊藤三段は今期ここまで8勝8敗。最終戦では女性で初めて棋士となるかもしれない西山朋佳三段と対戦します。

宮田 (最終日の2局で勝ち越せるように)「最低でも連勝だぞ」って。もし負けることがあれば、信じられないぐらい辛いラーメン屋に連れてってやります。「辛いものは楽勝です」って言ってた斎藤がスープ一口飲んで「勘弁してください」っていうぐらいのところで。加藤桃子も、三十分口をきけなかったぐらい。

―― ははははは。そうしてお弟子さんたちと食事に行かれたりするんですね。

宮田 伊藤は辛いのまったくダメなんで、このご時世でそんなことやったら問題になりますね(笑)

―― 最後に、お弟子さんに望むようなことはありますか?

宮田 まあ・・・。タイトル取れとかなんとか、っていうよりも「早く四段になってほしい」。もうそれで終わりです。本当にね。小さい時から知ってるから。とにかく、四段になって(将棋界に)残ってくれてたらってね。今はもう『将棋世界』でも、タイトル戦の記事よりも、奨励会のページをずっと見てます。

―― ありがとうございました。最後に写真を撮らせてください。

宮田 怖そうな師匠に見えるように写してください(笑)

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(2月25日午後、三軒茶屋将棋倶楽部にて)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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