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「アゲアゲ将棋」折田翔吾アマ(30)プロまであと1勝! 編入試験第3局で山本博志四段(23)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月27日。東京・将棋会館において棋士編入試験五番勝負第3局▲山本博志四段(23歳)-△折田翔吾アマ(30歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は18時37分に終局。結果は170手で折田アマの勝ちとなりました。

 折田アマの五番勝負の成績はこれで2勝1敗。残る2戦のうちあと1勝をあげれば試験に合格し、四段(フリークラス)として棋士になります。

 第4局は2月25日におこなわれます。対戦相手は本田奎五段。これから棋王位に挑戦する、若手棋士中屈指の強豪です。

アゲアゲさん、大きな大きな一番を制す

 第2局の敗戦の後、折田アマはYouTuberらしく、敗戦を振り返る放送をしていました

 山本四段はその動画を見て、折田アマが気持ちを切り替えていることを知り、手強い相手と感じたそうです。

 山本四段の三間飛車に対して、折田アマは左美濃に組みました。

「こちらに結構選択肢の多い将棋になったかなと」

 と局後に山本四段。作戦としてはまずまずの展開と感じていたようです。

 山本四段が中段に飛車を浮いた手に対して、折田アマが銀を出られるかどうかが一つのポイントで、それが実現しないと作戦負けになると折田アマは考えていました。

 その水面下での駆け引きの後、戦いが始まります。折田アマが飛車を成り込んで龍を作ったあたりでは、将棋ソフトの評価値だけを見れば、折田アマの方がいくぶんかは指せそうにも見えました。ただし両対局者はともに、その前後の攻防の局面を難解と感じていたようです。

 振り飛車党の本領が発揮されるのは、こうした局面かもしれません。山本四段は龍取りに歩を打ちます。これが粘り強い手でした。応手も幾通りか考えられ、どれが最善か迷いそうです。

 折田アマは長考の後、龍と飛車を交換して踏み込みました。相手に飛車を手持ちにさせることは、自陣に打ち込まれるリスクが生じます。しかし震えていてはかえって形勢がもつれることもある。折田アマは決断して決めにいきました。

 山本四段は丁寧に受けて決め手を与えません。自陣に金を打って美濃囲いを復元させ、いつしか形勢はほぼ互角へと戻りました。流れとしては、追いつかれた側は焦りそうな展開です。

 折田アマは冷静さを保っていました。折田アマは自陣の自玉から遠く離れたところに金を打ちました。飛車取りの先手で桂取りを受けています。部分的にはある手筋ですが、金が遊んでしまう可能性があるだけに、決断が必要なところだったかもしれません。

山本「まさか△7一金を打ってくるとは思ってなくて、びっくりしました」

 山本四段は局後に何度か「根性」という言葉を使いました。

山本「根性が足りなかった」「根気、我慢強さではっきり上を行かれていた。手強い相手でした」

 △7一金は容易には負けられないという、折田アマの本局にかける気持ちが表れた一手でした。

 山本四段は当たりになっている香を一つ浮いて逃げるという辛抱を見せました。すると両取りの角を打たれることになるのですが、あえてそう指させることによって勝負する意図があったようです。しかしどこかに誤算があったか、その手を境に、形勢は折田アマに傾いていきました。折田アマもそのあたりで、形勢好転を感じたようです。

 折田アマは相手の龍を取って駒得を広げ、手にした飛車を中段の攻防の位置に打って、着実にゴールへと向かっていきます。

 対して山本四段は飛車を取り返して再び相手陣に打ち込み、折田玉に迫る形を作ります。からめ手の端にも手をつけて、逆転の可能性を残しました。

 折田アマは攻防ともに丁寧な手を積み重ねていきました。

折田「ずっと決め手をつかめずに、一手でも間違えたらおかしくなる。切れ味がなかった。『ちょっと冴えないな』と思いながら指してました」

 折田アマは局後にそうコメントしていました。大一番だけに慎重にならざるを得ないところはあったかもしれません。

 残り時間が切迫し、感情も高ぶりそうなところ、折田アマはずっと冷静で、駒音はそっと静かなままでした。

 山本四段は最後まで最善を尽くして指し進めました。大きな駒損のため、なかなか形勢挽回にまでは至りませんが、きわどい終盤戦から中盤に巻き戻ったかのような展開で、長手数局となりました。

 最後は総手数170手。折田アマが大きな一番を制しました。

 また1つ大きな関門を突破した折田アマ。いよいよあと1勝で念願の棋士となれます。

 ただし、残るあと2人もまた強敵です。特に棋王挑戦権を得た本田奎新五段と当たることになるとは、ドラマチックです。

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 棋士編入試験がおこなわれるのは2月25日。棋王戦第2局と第3局の間です。

 折田アマと本田五段は奨励会三段リーグでは2回対戦し、1勝1敗となっています。

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 第4局について尋ねられた折田アマは

「楽しんで臨めたらなとは思います」

 と語っていました。

【追記】局後、山本四段はTwitterとnoteに、今回の試験の感想と、ここまでの取り組みについて書いています。山本四段にとっても、大きな一局でした。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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