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八大タイトル過半数制覇の勢い示す渡辺明三冠(35)叡王戦挑決に進出 若手の青嶋未来五段(24)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月22日。東京・将棋会館において第5期叡王戦本戦トーナメント準決勝▲青嶋未来五段(24歳)-△渡辺明三冠(35歳)戦がおこなわれました。持ち時間は各3時間。棋譜は公式ページをご覧ください。

 15時に始まった対局は20時15分に終局。結果は86手で渡辺三冠の勝ちとなりました。

 前期は準決勝で敗れた渡辺三冠。今期は挑戦者決定戦三番勝負への進出を果たしました。

 準決勝のもう1局、豊島将之竜王・名人-佐々木大地五段戦は1月27日におこなわれます。永瀬拓矢叡王への挑戦権を獲得するのは、果たして誰になるでしょうか。

渡辺三冠、初の叡王挑戦まであと2勝

 渡辺三冠(棋王・王将・棋聖)は現在、広瀬章人八段の挑戦を受け、王将戦七番勝負の防衛戦を戦っています。

 2月からは新鋭の本田奎五段を挑戦者に迎え、棋王戦五番勝負の防衛戦も始まります。

 A級順位戦は7連勝で独走中。初の名人挑戦権獲得まで、あともう少しというところまで迫っています。

 叡王戦でも勝ち進んでいます。

 王将、棋王を防衛して三冠をキープし、名人、叡王も獲得となれば、自身初の四冠、五冠の達成となります。

 若手の青嶋五段は五段予選を勝ち抜き、本戦では佐藤秀司七段、佐藤康光九段、斎藤慎太郎七段を降しての準決勝進出です。

 2017年の王座戦本戦トーナメントでは佐藤天彦名人(当時)などを破って挑戦者決定戦に進出。最後は中村太地六段(後に王座、現七段)に敗れて、惜しくもタイトル初挑戦を逃したことがありました。

 趣味のチェスでは日本トップクラスの実力の持ち主でもあります。

 本局、まず目を引いたのは、黒いスーツ、シャツ、ネクタイという渡辺三冠の服装でした。これはサッカーのシメオネ監督の真似をしたものでした。

 渡辺三冠は普段からシメオネ監督の本など読んでいて、この服装は以前からやってみたかったそうです。

 本局は振り駒の結果、先手は青嶋五段となりました。青嶋五段の作戦は中飛車。対して渡辺三冠は角筋を開く前に左美濃に組む作戦を見せました。そこまでは事前に決めてきたそうです。

「穴熊は数年指してない。指し方がわからなくなってる」

 と局後に渡辺三冠。以前に比べて穴熊の採用数がめっきり減ったのは、現代将棋界のトレンドを示しています。

 渡辺三冠は銀冠、青嶋五段は高美濃へと駒組を発展させます。渡辺三冠は後手番なので千日手も含みとしていましたが、戦機は熟し、渡辺三冠が歩を突き捨てて開戦となりました。後手番としては、まずまずのわかれだったようです。

 青嶋五段は玉側の桂を跳ねて前線に応援を送りました。渡辺三冠は角桂交換の駒損が見えるところ、かまわず前に出ました。その判断が素晴らしかったようで、あっという間に渡辺三冠が優位に立ちました。

 青嶋五段は駒得ながらも、美濃囲いが乱れて玉が露出する形となり、思うように粘りが効きません。

 渡辺三冠はゆるまず攻め続けます。飛車を成り込んで龍を作り、さらに相手の飛車を取って寄せ形を築き、快勝を収めました。

「準決勝で内容もいい将棋を指せたので、よかったと思います」

 渡辺三冠は局後にそう語っていました。

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 叡王戦においては、渡辺三冠は初の挑決進出。三番勝負が確定して、少なくとも対局が2局増えることは確定しました。勝って忙しい超一流棋士が、さらにまた勝って忙しくなるのが、将棋界の伝統のようです。

「挑決に出た以上は、勝たないと忙しくなっただけ。忙しくなって、見返りがないと意味ないですからね」

 渡辺三冠らしい言葉で、挑決への意気込みを語っていました。

 渡辺三冠の2019年度成績は32勝8敗。勝率はジャスト8割で、全棋士中1位をキープしています。

【追記】青嶋五段が自身のブログで本局を詳しく振り返っています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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