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A級残留を目指す佐藤天彦九段(32)逆転で糸谷哲郎八段(31)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月17日。大阪・関西将棋会館においてA級順位戦7回戦▲佐藤天彦九段(32歳)-△糸谷哲郎八段(31歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は22時54分に終局。結果は173手で佐藤九段の勝ちとなりました。

 これで両者の成績はともに3勝4敗に。佐藤九段は残留に向けて、大きな1勝を挙げました。

佐藤九段、残留に向けて貴重な白星

 A級は現在7回戦が進行中です。年明けの1月4日には渡辺明三冠が稲葉陽八段に勝っています。

 名人挑戦権争いは7連勝の渡辺三冠が独走状態。以下は4勝2敗の広瀬章人八段、三浦弘行九段まで、可能性が残されています。

 一方で残留争いは、熾烈な最終盤を迎えそうな気配です。前名人の佐藤天彦九段はここまで2勝4敗。同成績で羽生善治九段、木村一基王位というビッグネームが並んでいる状況です。

 糸谷八段は1勝3敗から佐藤康光九段、羽生九段に勝って現在は3勝3敗。前局で羽生九段を破ったのは大きく、やや余裕を得たようにも見えますが、糸谷八段も依然、残留を目指しての戦いが続きます。

 佐藤九段は前日の1月16日、32回目の誕生日を迎えています。

 佐藤九段、糸谷八段はともに1988年生まれ。糸谷八段の誕生日は10月5日で、学齢では佐藤九段が1学年上となります。関西奨励会の頃から対戦している間柄で、棋士となって以降の公式戦対戦成績は佐藤3勝、糸谷7勝。順位戦では2010年のC級2組以来の対戦となります。

 本局は佐藤九段が先手で、後手番の糸谷八段は一手損角換わりの作戦を採用しました。対して佐藤九段は早繰り銀で臨みます。

 四十手を過ぎたあたりで本格的な戦いが始まりました。佐藤九段は攻めの銀を五段目に進め、相手陣に角を打ち込んで、十分な攻めの態勢を築きます。まずは中盤で、佐藤九段がリードを奪ったようです。

 佐藤九段は取れる歩を取らず、じりっと自陣の歩を突き上げました。プロらしい格調の高い手ですが、そのあたりから糸谷八段が怪力を発揮して、形勢は逆転しました。

 糸谷八段は相手の飛車を封じ込め、自玉は中段に逃げ出します。入玉も視野に入り、糸谷八段がかなり優勢となりました。

 しかしそこから、今度は佐藤九段が追い上げます。手段を尽くして、まずは入玉を阻止しました。

 終盤戦。糸谷八段の側には4枚の大駒があり、盤上に配されています。対して佐藤九段は金銀8枚で、自玉の守りに3枚、攻めに2枚、持ち駒に3枚と配分されています。

 佐藤九段は銀を1枚タダで捨てる勝負手を放ち、糸谷玉を上と左右からはさみうちする態勢を作りました。

 正確に指せば糸谷八段が受けきれるか、というところ。残り時間は佐藤九段が1分しかないのに対して、早指しの糸谷八段は2時間以上残しています。

 時間のない中、佐藤九段はうまく攻めをつなげていきました。進んでみると、いつしか糸谷玉は受けが難しくなっています。

 最後は173手。佐藤九段が糸谷玉を受けなしに追い込んで、熱戦を制しました。

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 両者はこれで3勝4敗に。佐藤九段にとっては残留に向けて、大きな大きな1勝となりました。前名人で順位1位という点も大きく、かなり息をつける形になったのかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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