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竜王戦挑戦者決定戦三番勝負第1局 豊島将之名人(29)が木村一基九段(46)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 8月13日。関西将棋会館でおこなわれた竜王戦挑戦者決定戦三番勝負第1局▲木村一基九段(46歳)-△豊島将之名人(29歳)戦は19時33分、82手で豊島名人の勝ちとなりました。豊島名人はあと1勝で、広瀬章人竜王(32歳)への挑戦権を獲得できます。

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木村九段、意欲的な序盤戦術から結果を出せず

 豊島名人・王位と木村九段は王位戦七番勝負も並行して戦っています。直近におこなわれた第3局では木村九段が勝ち、第3局を終えた時点で、豊島王位2勝、木村九段1勝となっています。

 竜王戦決勝トーナメントもいよいよ大詰めの三番勝負を迎えました。

 振り駒の結果、第1局は木村九段が先手番で、互いに飛車先を伸ばし合う相掛かりの戦形となりました。

 本局のハイライトは、「将棋界でやる人は1人しかいない」と木村九段自身が局後に語っていた、序盤戦術でしょう。木村九段が採用した作戦は、実は8月16日に出版される飯島栄治七段の最新の戦術書で解説されているそうです。

 25手目、木村九段は角の近くの桂を跳ねました。これを跳ねてしまうと、歩を打たれた時に角の身動きが取れなくなってしまうのは百も承知の作戦です。

 豊島名人は小考で、木村九段が待ち受ける作戦に飛び込みました。その結果、先手は飛、後手は角と金を駒台に乗せ、持ち駒とします。この交換は、通常であれば、後手が大きな得をしていることになります。しかし、この形であればいけると木村九段は判断したのでしょう。豊島名人もまた「バランスが取れている。押し込まれているので一局の将棋、いい勝負なのかな」と局後に感想を語っていました。

 

 差がついたのは、その後でした。木村九段は豊島陣に攻め込もうとしますが、そこからの豊島名人の立ち回りが上手かった。木村陣の2枚の飛車を目標に、豊島名人が反撃に転じる頃には、いつしか形勢は豊島ペースになっていました。

「最後はちょっと差が開いてしまいましたね」

 と木村九段。木村九段に粘りの余地を与えない豊島名人の決め方もまた見事でした。

「やっちゃいかん戦法だったか・・・」

 感想戦で木村九段は、そうぼやいていました。

「よいスタートが切れたので、次局以降もコンディションを整えて力を出せるようにしたい」

 と語った豊島名人。竜王挑戦に大きく近づく1勝をあげました。挑決三番勝負の第2局は、10日後の8月23日に指されます。

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 また両者は8月20日・21日、王位戦七番勝負第4局も戦います。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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