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木村一基九段(46)が竜王戦挑戦者決定戦に進出 準決勝で永瀬拓矢叡王(26)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 8月5日(月)、東京・将棋会館で第32期竜王戦挑戦者決定トーナメント準決勝▲木村一基九段(46歳)ー△永瀬拓矢叡王(26歳)戦がおこなわれました。結果は20時39分、87手で木村九段の勝ちとなりました。

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 勝った木村九段は挑戦者決定戦に進出。豊島将之名人(26歳)と三番勝負を戦います。

充実著しい両者の対戦

 現棋界のトップクラスの棋士として、各棋戦でコンスタントに上位に進出している両者。

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 竜王戦1組ランキング戦では、永瀬叡王は決勝まで進んで2位。木村九段は3位決定戦で羽生善治九段に勝っての本戦進出となりました。

 永瀬叡王は王座戦でも挑戦権を得たばかりです。

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 斎藤慎太郎王座(26歳)と永瀬叡王は、ともに七段で、タイトル1期。9月に始まる王座戦五番勝負を制した方が「タイトル2期獲得」の条件を満たして、先に八段昇段を決めることにもなります。

 永瀬叡王はまだ、竜王戦七番勝負の舞台に立ったことはありません。

 一方の木村九段は2005年の竜王戦七番勝負で渡辺明竜王に挑戦したことがあります。(結果は4連敗で敗退)

 木村九段は現在、王位戦で豊島王位に挑戦中です。

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 第2局が終わった時点で2連敗と劣勢に立たされていますが、木村九段の初タイトル獲得を期待するファンの声援は、なおもやむことがありません。

 永瀬叡王、木村九段ともに、容易に腰を割らない、粘り強い棋風です。

 両者は過去に2回対戦して、1勝1敗。2012年のNHK杯では千日手指し直しの末に木村現九段の勝ち。2015年の王座戦二次予選では永瀬現叡王が勝っています。

木村九段、リードを保って制勝

 対局場は東京・将棋会館の特別対局室。振り駒の結果、木村九段の先手と決まりました。木村九段が初手に飛車先の歩を伸ばし、永瀬叡王が2手目に角筋を通して対局が始まります。端歩を突き合う駆け引きがあった後、戦形は横歩取りとなりました。

「模様の取り方に苦労しました」

 木村九段は局後、そう語っていました。

 中盤戦。木村九段は桂を跳ね出します。互いに桂頭が攻撃目標として意識されるところ。そこを狙って先に踏み込んだのは、後手の永瀬叡王でした。後戻りのできない思い切った攻めに出ましたが、その判断がどうだったか。自然に応対した後の反撃が厳しく、そこからは木村九段が優位に立ったようです。

 永瀬叡王が飛車を成って龍を作ったのに対して、木村九段はその龍を追い返しながら、自然にポイントを積み重ねていきます。夕食休憩の前に、木村九段が永瀬玉に王手で迫った局面では、かなりの差がついていました。

 いかに粘りが身上の永瀬叡王をもってしても、挽回するにはかなり厳しそう。そう思われた局面で、永瀬叡王は時間を使って、こんこんと考え続けます。形勢を離された局面を目の前にして、永瀬叡王は何度もうつむき、何度もがっかりしたような仕草を見せました。そこからもなお、夕食休憩をはさんで永瀬叡王は考え続けました。これは大変な精神力を必要とした場面かもしれません。

 ようやく永瀬叡王の手が動いた後、木村九段は慎重に時間を使って、永瀬玉を受けなしに追い込んでいきます。

 永瀬叡王は最後、木村九段の玉に迫っていきますが、一手足りませんでした。

「勝負所が作れなかったのが残念です」

 終局後、永瀬叡王はそう語っていました。

 終了時刻は20時39分。総手数は87手で、木村九段の勝ち。

 木村九段はこれで挑戦者決定戦に進出しました。

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「せいいっぱいがんばりたいと思います」

 木村九段は挑決三番勝負の意気込みをそう語りました。

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 三番勝負は、王位戦七番勝負と並行しておこなわれます。

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 合わせて十番勝負。この夏は、豊島名人・王位と木村九段のデッドヒートが続きそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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