WEリーグ首位折り返しを支えるウイングバック。DF守屋都弥がINAC神戸の攻撃サッカーを進化させる
【窮地を救った今季2ゴール目】
1-1で迎えた後半アディショナルタイム。最後のチャンスは、タイムアップの笛まで1分を切ったところで巡ってきた。
ハーフウェーラインの前方で、MF成宮唯からパスを受けたのはDF守屋都弥(もりや・みやび)。
味方のサポートを待って遅攻に切り替えるか、自分でカウンターを完結させるかーー。
次の瞬間、守屋は反転して力強いドリブルで相手を引きはがすと、ペナルティエリアの外から右足を一閃。芯を完璧に捉えたボールが、弓から放たれた矢のように伸びやかな弾道でゴール左上に突き刺さった。
WEリーグ中断前のラストゲーム。ホーム・ノエビアスタジアム神戸にアルビレックス新潟レディースを迎えたINAC神戸レオネッサは、新型コロナウイルスの影響で、攻撃陣のレギュラーを欠き、ベンチに交代メンバーが4人しかいないという緊急事態だった。そんな窮地で、守屋のゴールがチームを救う勝ち越し弾となった。
「人数が少ない中で、みんな気持ちが入って、チーム一丸となって絶対に勝ちたい!という気持ちが強かったです」
スーパーゴールの余韻が残るスタジアムで、ヒロインとしてマイクを向けられた守屋は、柔らかい笑顔を観客席に向けた。
今季からINAC神戸を率いる朴康造(パク・カンジョ)監督は、相手陣内で主導権を握る攻撃的なサッカーを志向。就任から開幕まで準備期間は4カ月弱しかなかったが、適材適所の起用と選手間の修正力も生かし、6勝1分の首位で前半戦を折り返した。
その中で、ビビッドな存在感を見せているのが右ウイングバックの守屋だ。
サイドで上下動を繰り返すスプリントと高精度のクロスが攻撃のスイッチとなり、前半戦の7試合で2ゴール1アシスト。チームが決めた15得点のうち、6ゴールに絡んだ。WEリーグ初ゴールは、第6節の浦和戦。左サイドからのクロスを左足でジャストミートした芸術的なボレー弾だった。
「いい組み立てをしているし、ゴール以外のところでもビッグチャンスを作ってくれている。運動量もあって、チームにとって欠かせない存在です」と、朴監督も厚い信頼を寄せる。
【開花したポテンシャル】
エリート養成機関のJFAアカデミー福島からINAC神戸に加入して8シーズン目。2015年にそのプレーを最初に見た時、「スケールの大きい選手だな」と、血管が開くような感覚を抱いたのを覚えている。長い手足と高い身体能力、アカデミーで培った技術。164cmの身長以上にサイズがあるように見えるのは、ストライドの大きい走りや、プレーのダイナミックさゆえだろう。
エリートコースを歩んできた守屋だが、それゆえに苦労もしている。JFAアカデミー時代には2011年の被災と移転を経験し、2015年のINAC神戸入団後は、厳しいポジション争いやケガとの戦いだった。
それでも、1年目から代表の中心選手とポジション争いができる経験は得難い。ベンチ入りさえできなかった時、なでしこジャパンで一時代を築いていた近賀ゆかり(現広島)のプレーをとことん観察した。
「どうやったら試合に出られるのか、自分に足りないところは何か。近賀さんは細かいプレーもしっかりと出来ていて、学ぶことが本当に多いんです」(2016年)
当初、課題に挙げていたメンタルの弱さとも向き合い、同年の終盤から出場機会を得て、同年のU-20W杯では3位に貢献した。
2018年から19年にかけて、膝の大ケガでリハビリに1年を費やしたが、復帰後は最終ラインのレギュラーとして奮闘。2020年は全試合フル出場でリーグ2位に貢献し、代表候補入りを目指すなでしこチャレンジキャンプに招集された。
「センターバックもサイドバックもサイドハーフもできる自信はあります。自分の持ち味を出して、必ずなでしこジャパンにいきたいと思っています」(2020年12月)
その言葉には、それまで守屋があまり見せることがなかった“熱さ”が詰まっていた。
WEリーグ初年度の昨季は、ベンチスタートや途中交代の試合もあったが、守備面でチームを支え、リーグ最小失点に貢献した。
そして、今季はシーズン前のカップ戦や皇后杯も含めて公式戦全12試合でフル出場中。特筆すべきは攻撃面の貢献度の高さだ。
急成長を遂げた、というよりも、元々持っていたものが「きっかけを得て輝き始めた」という印象がある。そのきっかけは3つある。
一つ目は、ポジションがサイドバックやセンターバックから、右ウイングバック(WB)に変わったこと。3バックはサイドで数的不利に陥りやすく、WBには相当な運動量が求められる。守屋は言う。
「ポジションが変わったことで、体重が2〜3kg落ちました。最初はきつかったですが、その体重を維持していたら動きやすくなってきたし、瞬発力も高まってきています」
スポーツパフォーマンスデータ分析会社「InStat」による新潟戦のデータは、その適性を示している。時間と共にアクション数が減る選手も多い中、守屋のグラフは右肩上がりで、試合終盤の15分間で両チーム合わせてぶっちぎりの「32回」を記録。そのハードワークが、最後の勝ち越しゴールにつながった。監督やチームメートが「みやびの運動量はすごい」と声を揃えるのも頷ける。
守屋の能力を引き出している2つ目の条件は、新加入で、右のセンターバックに入ったDF土光真代の存在だ。
「まよはパスの精度が高くて、ボールを取られない安心感があります。走る距離自体は以前とは変わっていないのですが、(走るエリアが)以前は“後ろから前”だったのが、まよのおかげで“前からさらに前”へ行けるようになって、ゴールに近づきました」(守屋)
技術的なミスが少なく、攻撃参加もできる土光は、守屋のプレーの選択肢を増やした。
「みやびは最初から最後までサイドを駆け上がる体力やスピードがあるので、攻撃に専念してもらうことを意識しています。クロスの精度がすごく上がっていて、そこが得点源になっています」(土光)
3つ目は、土光が指摘したそのクロスの質だ。守屋いわく、「痛めていた太もも裏が自然と治って、キックがイメージした場所に飛ぶようになった」のだという。それは、体重が落ちて体のキレが出てきたこととも無関係ではないかもしれない。
「裏でボールをもらうのが得意なので、そこを使ってもらって、いいクロスを上げて得点、という形をもっと増やしていきたいです」
守備のオールラウンダーから、ゴールも奪えるチャンスメーカーへ。眠らせていたポテンシャルを開花させ始めた背番号2が、INAC神戸の攻撃サッカーを進化させていく。
*表記のない写真は筆者撮影