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北村菜々美が一瞬のスピードで見せる「違い」。万能型MFから攻撃的アタッカーへ

松原渓スポーツジャーナリスト
北村菜々美(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【サイドのブレイク候補】

 Jリーグはシーズンが終了し、世間はカタールW杯の話題一色になっている。

 一方、9月に開幕したWEリーグはまだ4節が終わったばかり。シーズンが欧州と同じ秋春制で、群雄割拠の戦いはこれから佳境を迎える。

 昨季、4節終了時のゴール数は「51」だったが、同試合数で63ゴールが生まれている。1試合あたりのゴール数は、昨季の「2.55」から「3.15」に増加。これはフランス、ドイツ、スペイン、イングランドといった欧州強豪リーグ(1試合あたりの平均ゴール数が「3」前後)に匹敵する数値だ。

 とはいえ、11月の欧州遠征でなでしこジャパンがイングランドとスペインの高い壁に阻まれた。その2試合で上がった課題の一つが「スピード」。

「両国の選手は体が大きくて、日本人には絶対にないような種類の速さでした。特にイングランドは、パスをするときの音が『ドーン!』という感じで正直驚きました。日常の練習から、あのパススピードを目指したいと思いました」

 そう振り返るのは、日テレ・東京ヴェルディベレーザ(東京NB)のMF北村菜々美だ。主戦場は左サイド。WEリーグでもベスト5に入るであろうスピードの持ち主だ。

東京五輪では悔しい思いを味わった
東京五輪では悔しい思いを味わった写真:森田直樹/アフロスポーツ

 昨夏の東京五輪では、メンバー入りしたものの、チームはベスト8敗退。北村自身も精彩を欠き、悔しい思いを味わった。

 また、昨季のリーグ終盤はケガもあって出場機会が限られ、チームもタイトルに届かず3位に終わった。代表からも遠ざかっていたが、今季は開幕から好調を維持。東京NBも首位の浦和と同勝ち点の2位(2日現在/浦和は消化試合が1試合少ない)につけている。

 そして、10月の国内親善試合で1年ぶりに代表に招集され、今回の欧州遠征にも参加した。自身の出場機会は巡ってこなかったが、7月の女子ユーロで欧州王者に輝いたイングランドと、サッカー大国スペインの“世界基準”を目の当たりにし、大きな刺激を受けたようだ。

 北村は、静かにブレイクの予感を漂わせている。

 23歳の誕生日(11月25日)翌日に行われたWEリーグ第4節・長野戦では、フル出場で2-0の勝利に貢献した。

 開始7分に中盤を抜け出し、アーリークロスでFW植木理子の決定機を演出。相手2人を引きつけ、カットインからゴールに迫った40分のプレーは、会場を沸かせた。ボールを持っている時の姿勢がよく、俊敏な動きで相手の動きに対応できるため、対峙するDFは間合いを詰めにくいのだろう。終盤は交代に伴って一列下がって左サイドバックに入り、クリーンシートに貢献した。

 代表でFWに定着しつつあるFW植木理子、右サイドでブレイク中のFW藤野あおばとともに、3トップの一角で東京NBの攻撃を支えている。

東京NBの攻撃を支える(右は植木理子)
東京NBの攻撃を支える(右は植木理子)写真:西村尚己/アフロスポーツ

【指導者との出会い】

 北村は、育成の名門であるセレッソ大阪堺レディース(現・なでしこリーグ。来季からWEリーグに参入)出身。2018年のU-20W杯優勝メンバーの一人だ。

 2021年に東京NBに加入して、今季で2年目となる。

 瞬間的な動きで相手のタイミングを外すスキルや、ターンの速さ、動き出しのタイミングの良さなどに定評がある。東京NBでは味方と連係して局面を打開する場面が多く、スピードは一見わかりにくいかもしれない。だが、トップスピードにギアを入れた時は目を見張る速さだ。

 速さの原点には、ハードル走や五段跳びなど、10代からハードなトレーニングをコツコツ積み重ねてきたことがある。

「セレッソ(C大阪堺)で培ってきたものがあるからこそ、ベレーザでもプレーできている」と北村は言う。いろいろなポジションを経験し、戦術的な柔軟性も身につけてきた。

 現在は3トップの左が主戦場だが、サイドバックやサイドハーフや、インサイドハーフでもスムーズにプレーできる。

 生え抜き選手が約8割を占める東京NBが、他クラブから選手を獲得するのは珍しい。獲得後、竹本一彦監督は北村について、「スピードは魅力的。いろいろな可能性を秘めた存在」と、ポテンシャルの高さを高く評価していた。また、ファーストタッチに非凡さがあることも強調している。

 東京NBは、相手陣内でボールを保持しながらゴールを目指す。前線は相手のプレッシャーが強く、素早い判断や正確な技術が求められる。その中で、自身の強みを発揮するために北村が磨いてきたのがボールの持ち方やパスのタイミングだ。

 C大阪堺時代、「パスやトラップのタイミングが(他の選手と)違う」と言われたことがあるという。当時は無意識だったが、プロになってからは意識的にタイミングを変化させてきた。

2021年、東京NBでプロのステージに挑戦した
2021年、東京NBでプロのステージに挑戦した写真:松尾/アフロスポーツ

「ワンタッチと見せかけてワンテンポ置く、というふうに、相手が困るようなタイミングでボールを離すように意識しています」(昨年6月)

 その成長をサポートしてきたのが、東京NBで5年目になる永田雅人ヘッドコーチだ。同氏の指導を受けた選手の多くが、代表や海外で活躍の場を広げている。MF長谷川唯(マンチェスター・シティ)やDF清水梨紗(ウェストハム)、FW田中美南(神戸)らも門下生である。

 永田HCは選手個々の引き出しを増やすため、南米などの海外サッカーの映像を編集して具体的なイメージを落とし込むなど、ロジカルで熱い指導に定評がある。トレーニングは親しみを込めて「永トレ」と呼ばれ、北村もその指導を受けてきた。

「一番いい状態で仕掛けたり、相手をいなせるボールの持ち方を教わって、意識的に変えてきました。今はボールが入ったら、中にも縦にも仕掛けられるようにしています」

 長野戦の前日には、古巣のC大阪堺で指導を受けた竹花友也監督の退任が発表された。恩師との記憶について聞くと、言葉に一段と熱がこもった。

「竹花さんは厳しい方でしたが、すごく愛がある指導者でした。自分が遠慮したようなプレーをしたら『もっといけ!』『ボールを持ったら全部仕掛けろ!』と強く言われることもありましたが、そのおかげで自信を持ってプレーできるようになりました。その厳しさを、これからも忘れずに成長していきたいです」

【攻撃的アタッカーへ】

 今後、北村に期待されるのは更なる得点力だろう。ここまで4試合で1得点だが、今季の目標は2桁ゴールと公言している。

 竹本監督は、「FWとしてもっと攻撃的な選手になっていってほしいですね。左右のバランスをとりながら、チームとしてもっと相手ゴールに迫りたい」と、背番号14の更なる覚醒に期待を込める。

 また北村自身も、「チームが優勝するためにもっと点を取らなければいけない」と、自覚を口にした。

 来夏、オーストラリアとニュージーランドで女子W杯が共催される。五輪はメンバー枠が「18」と少なかったため、複数ポジションができるユーティリティプレーヤーが重宝された。だが、枠が「23」に増えるW杯では、攻撃面で変化を加えられるスペシャリストにもスポットが当たるだろう。

 今季、北村がどんなアタッカーへと変貌を遂げていくのか、期待しつつ注目したい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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