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スペインが2世代でダブル優勝。U-17女子ワールドカップインド2022を振り返る

松原渓スポーツジャーナリスト
スペインが連覇を達成(C)2022 FIFA

【スペインがダブル優勝】

 インドで行われたU-17女子W杯は、スペインの優勝で幕を閉じた。スペインは前回2018年大会からの連覇と、今年のU-20女子W杯とのダブル優勝という快挙を成し遂げた。

 準優勝はコロンビア。3位決定戦は、ナイジェリアがドイツとの3-3の打ち合いの末にPK戦を制した。

 日本は準々決勝でスペインに敗れ、前回大会に続くベスト8止まりとなった。試合終盤の2失点で逆転負けを喫する悔しい幕引きとなったが、今大会を振り返れば、その粘り強さと最後まで諦めないメンタリティこそがスペインを王座へと導いたと感じる。

 今大会で、スペインの成績は5勝1敗。グループステージ2試合目のメキシコ戦で1−2と敗れるなど苦しんだが、グループを2位で突破し、準々決勝では日本に終盤までリードされながら劇的な逆転勝利で波に乗った。そして、準決勝と決勝ではドイツとコロンビアを1-0で破った。

 ボール支配率は全試合で相手を上回ったが、スコアはすべて1点差。決勝トーナメントの3試合とも、試合の入りはあまり良くなかった。だが、相手の勢いに耐えて徐々にペースを掴み、後半にギアを上げた。そのきっかけはいつも、ケニオ・ゴンサロ監督の交代策だった。

 3回に分けて攻撃的なカードを切り、全6試合で5つの交代枠をフル活用。交代でピッチに立った選手たちは躍動し、流れを引き寄せた。決勝トーナメントはすべて、80分以降に決勝ゴールを決めている。

U-17スペイン女子代表。ヴィッキー・ロペスは下段一番右(C)2022 FIFA
U-17スペイン女子代表。ヴィッキー・ロペスは下段一番右(C)2022 FIFA

 試合中の配置換えや流動的な動きなど組み合わせのバリエーションが多く、誰が出ても質が落ちないチーム作りは理想だ。チームとして立ち返ることのできる戦い方や考え方が徹底されていることは大きい。個人では、ゴールデンボール(MVP)を獲得した16歳のヴィッキー・ロペスを筆頭に、バルセロナやレアル・マドリードなど、ビッグクラブで試合勘を磨いたタレントが違いを見せていた。

 南米勢として初の決勝進出を決めたコロンビアにも、優れた才能は揃っていた。FWリンダ・カイセードは14歳でプロデビューを果たし、フル代表でも既に13試合に出場している逸材だ。U-20代表と指揮を兼任したカルロス・パニアグア監督は、8月のU-20W杯に飛び級で選出したカイセードを含む6選手を今大会の主力に据えていた。ただし、大会中はメンバーはある程度固定して戦い、交代もスペインほど積極的ではなかった。主力の連係が高まり、試合ごとに強くなっていく印象はあったが、その分疲労も溜まっていたはずだ。決勝の終盤はさすがに体が重そうだった。

U-17コロンビア女子代表。カイセードは下段左から2番目(C)2022 FIFA
U-17コロンビア女子代表。カイセードは下段左から2番目(C)2022 FIFA

 表彰式では、4試合で4ゴールを決めた日本のMF谷川萌々子がシルバーブーツ(得点王2位)を受賞。また、チームとしてはフェアプレー賞も獲得した。2011年の女子W杯ドイツ大会、2014年のU-17女子W杯コスタリカ大会、2018年と今年のU-20女子W杯に続く受賞である。それは、国際的に評価され続けてきた日本女子サッカーの魅力だ。

 とはいえ、強度の高い欧州リーグや国際大会では、ファウルも戦術のうち。今季、イングランドへの海外挑戦をしたなでしこジャパンのDF清水梨紗は、「一番違いを感じたのは、ファウルのすごさです。カウンターを受けた時の寄せの深さや、(奪うための)技は、ずっとやってきているんだなと感じました」と話していた。

 育成年代からフル代表に上がると、海外勢との体格やスピードの差はさらに広がる。その差を埋めるため、育成年代から球際のスキルや駆け引き、筋力アップなどの取り組みを続け、実を結ぶことを期待したい。

【インドの地で】

 今大会は、レギュレーションの面でイレギュラーなことが多かった。

 まず、ピッチのサイズが規定により64m×100mと、通常(68×105)よりも縦5m、横4m小さかった。それによってロングボールを多用するチームはボールがラインを割る回数が多くペースを掴むのに苦労していた。一方、しっかりとパスを繋ぐ日本やスペインはプレーイングタイムが長い印象があった。それは、試合をより面白くし、現地で両国が多くのファンを味方につけた要因でもあるだろう。

 インドは乾季で、平均気温は25度から30度と蒸し暑く、夜の試合でも吸水タイムが設けられた。試合時間は遅く、4試合とも20時キックオフだった日本は、深い時間に食事を摂るルーティンを強いられた。補食を活用して食事の回数を多くしたり、事前合宿から時間をかけて時差調整を行うなど、コンディション調整にも入念な準備をしていたのは印象的だった。

練習は夜に行うことも多かった
練習は夜に行うことも多かった

 U-17女子W杯はこれまでにも、トリニダード・トバゴ(2010)、アゼルバイジャン(2012)、コスタリカ(2014)、ヨルダン(2016)、ウルグアイ(2018)など、あまり女子サッカーが盛んではない国で行われてきた。インドも、道端でサッカーボールを蹴る少年は見かけたが、女の子はほとんど見かけなかった。ただ、スタジアムには多くの女子学生や女性グループが訪れていた。W杯開催の影響力は侮れない。決勝で出会ったインド人少女は、今大会でスペインのヴィッキーのファンになったそうで、手作りのボードを持参して応援していた。

ヴィッキーのファンになったという少女
ヴィッキーのファンになったという少女

【女子サッカー市場は発展中】

 FIFA(国際サッカー連盟)は最近、女子サッカーに関して興味深い調査報告書を発表している。

 このレポートでは、女子サッカーの30のトップリーグと294のクラブのデータを検証・分析。スポーツ、ガバナンス、財務、選手、ファンエンゲージメントに関連するデータに基づき、包括的に分析しているという。その結果、いくつかの重要な分野において成長と発展が認められた。そのうちの数項目を以下に抜粋する。

・2021年の 79%に対し、2022年には 90%のリーグが戦略書を作成していた。

・タイトルスポンサーを持つリーグの割合は2021年から11%増加し、2022年には77%となっ た。

・放送収入を確保したと回答したリーグは、2020年の9リーグから、2021年は10リーグとなった。放送収入を得るリーグのうち、9割がクラブライセンス制度を導入している。

・2022年、収益の伸びに関して明るい兆しが見えた。全クラブの7%が、試合日、放送、コマーシャル、賞金から100万米ドル以上の収益を生み出し、クラブは前年比で33%の商業収益の伸びを記録。一方、リーグは、商業収益において、前年比24%の伸びを記録。この2つのポジティブな傾向は、世界的なパンデミックや不確実な世界経済にもかかわらず、商業化の進展とスポンサー獲得能力が向上していることを明示。

・ 女子プロサッカーの国際移籍金は2021年に210万米ドルの新記録を達成し、2020年比で73%増となった。

 FIFA女子サッカー最高責任者のサライ・バレマン氏は、以下のように語っている。

「今年の報告書のデータは、女子サッカーに投資する用意のある組織がリターンを得ていることを強調しています。そして、より多くのクラブやリーグ、放送局やパートナーが、女子サッカーに存在する独自の成長機会を本当に認識することによりこの状況はさらに続くと期待しています」

 女子サッカーは、世界中で発展を続けている。その勢いに負けじと、2シーズン目をスタートさせたWEリーグも、競技力、商業面の両面で国際競争力のあるリーグになっていくことを期待したい。それは、W杯で再び頂点に立つための重要な指標となる。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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