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U-20女子W杯史上初の連覇に王手。ブラジル撃破のヤングなでしこ、決勝の相手は好敵手スペイン

松原渓スポーツジャーナリスト
決勝進出を決めたヤングなでしこ

 U-20日本女子代表(ヤングなでしこ)が、コスタリカで行われているU-20女子W杯で決勝に進出した。

 準決勝で南米の強豪ブラジルを2-1で退け、大会連覇に王手をかけた。

 準々決勝のフランス戦で、120分間の延長戦を含む激闘を制してから3日。一方のブラジルは準々決勝のコロンビア戦(◯1-0)を90分間で勝ち切り、中4日でこの試合に臨んでいた。その差は大きいように思われたが、懸念はまたも杞憂に終わった。

「今日はアドレナリンが出ていたのか、全然疲れませんでした。みんなが同じぐらい一生懸命走ったから、自分も走りきれたんだと思います」

 84分の逆転弾で勝利を引き寄せたFW浜野まいかは、試合後に満面の笑顔でそう振り返った。

 前日にスタジアムで行われた公式会見で、印象的な一幕があった。ブラジルのキャプテン、DFブルニーニャが日本へのリスペクトを熱く語ったのだ。

「日本は、走り抜く力があり、力がみなぎったようにプレーします。そのスタイルはすごいと思っているし、私たちはそれを集中的に観察(研究)してきました。この大会のチャンピオンですから尊敬の念を持っていますし、U-20W杯の先輩に是非勝ちたいです」

 サッカー王国ブラジルは、女の子も小さい頃からボールに触れる機会が多く、ボール扱いの巧さは言うまでもない。女子代表はFIFAランク9位で、11位の日本にとっては格上だ。ただ、20歳以下の年代では実績が逆転する。ブラジルは今大会で16年ぶりに準決勝に進出。史上初の決勝進出がかかる日本戦に向けて、気合は十分だった。

 試合が始まると、ブラジルは慎重な入りを見せた。一方、日本はフランス戦の激闘を経て、この試合では余裕を持った入り方ができていたように思う。テンポよくボールを動かしてブラジルの守備を揺さぶり、粘り強く決定機を作り出していった。

 グループステージから無失点で勝ち上がったブラジルの堅守を最初にこじ開けたのは、FW山本柚月だ。前半30分、相手DFのクリアに素早く反応し、ペナルティエリアの手前で胸トラップ。そのまま右足ボレーかと思いきや、「相手が後ろから来ているのがわかったので持ち替えました」と、咄嗟の判断で左に持ち出し、左足でシュートを放った。7人のブラジルDFが密集するゴール前を這うような弾道がすり抜け、ゴール右隅に突き刺さった。

 ここから、リードを許したブラジルが南米王者の意地を見せる。それまでの慎重な戦いぶりが嘘のように、攻撃のギアを上げてきたのだ。ロングボールと前線の個人技を織り交ぜた攻撃は脅威で、日本はセカンドボールも拾えない苦しい時間帯が続いた。

 クロスに強いGK大場朱羽のファインセーブもあり、辛くも前半を1点リードで折り返したが、後半もブラジルの猛攻は続いた。そして55分、MFクリスがエリア外から放ったシュートが日本のゴール右上を破った。

「トーキックでのシュートは予測できなかった」と大場が振り返るように、シュートレンジの広さやシュート技術はフランス同様に高かった。

 日本はその後も続いたピンチの応酬に耐え、57分の相手の枠内シュートをDF杉澤海星が止めたあたりから、徐々に形勢を立て直す。66分には右から崩して最後は左サイドのDF小山史乃観がペナルティエリア内に進入し、相手ゴールを脅かした。

 一進一退の攻防は終盤に突入。そして84分、山本の浮き球のパスに反応した浜野が、GKの頭上を抜くループシュートで勝ち越しに成功した。

「早くゴールを決めて試合を決めたいというのがあったので、自然とあのポジションにいました。そうしたら、(山本)柚月さんからいいボールが出てきたんです」(浜野)

浜野まいか
浜野まいか写真:森田直樹/アフロスポーツ

 浜野は自他ともに認める“感覚派プレーヤー”だが、そのスピードや鋭いゴール感覚を引き出せるパスの出し手がこのチームには多い。特に、決勝トーナメント以降は山本とのホットラインも光る。

 その後は、終盤に追いつかれたフランス戦の教訓を生かし、しっかりとリードを守り抜いた日本が、決勝への切符を勝ち取った。

【決勝への道のり】

「90分間で試合を決めなければ、という思いは選手たちにもあったと思います。後半少し押し込まれたところもありましたが、最後までボールを自分たちで動かして攻撃に繋げるアグレッシブさは出せたのではないかと思います。ピッチの中でしっかりコミュニケーションが取れていて、一戦一戦成長していることも実感しています」

 2大会連続の決勝へと駒を進めた池田太監督は、試合をそのように総括した。フランス戦では、リードした終盤に押し込まれてロングボールのクリアに頼りがちになり、逆に押し込まれて逆転を許した。

 この試合も似たような雰囲気はあったが、恐れずに前からくる相手をいなした。

 プレイヤー・オブ・ザ・マッチには、1ゴール1アシストの山本が選出されている。ただ、試合を振り返る山本の声は落ち着いていた。

「失点の始まりは攻めている時の自分のミスだったので…もう1点を取るのが自分の仕事だと感じていました。最後の最後で、アシストでゴールできたことは嬉しいです。自分だけの力ではなくて、守備陣が最後まで体を張って守ってくれたり、全員で掴み取った勝利だと思います」

 池田監督がFWに求めるタスクは多い。ゴールを決めることはもちろん、「奪う」というチームコンセプトは、最前線のプレッシングから始まる。奪うと縦に速い攻撃を目指す。FWは何度も動き直しながら、粘り強くチャンスを探っていく。そのように、周囲と連係しながら攻守に運動量と強度が求められている。そうしたタスクをこなしながら、山本はフランス戦に続き、この試合でも2点に絡んだ。

 また、前半からブラジルが狙っていた日本の左サイドで、相手の攻撃を再三封じていたのが小山だ。

「今大会を通して、縦を普段の(日本での)間合いでやるとうまくいかないと感じて、今日の試合からはボールに強くいく守備に変えました。相手の近くに寄ってボールを受けさせずに前で奪ったり、受けさせてもボールに強くいくことを意識したら、主導権を持って奪えるようになったと感じます」(小山)

 海外勢の間合いに慣れ、工夫しながら試合中にプレーを変化させている。それはピッチに立つ選手たちに共通して言えることだ。

 また、今大会の勝ち上がり方は、日本とブラジルの明暗を分けた一つの要素だと感じる。

 ブラジルはコスタリカ、オーストラリア、スペインと同居したグループステージを2位で勝ち上がり、同じ南米勢で戦い慣れているコロンビアに勝って準決勝に勝ち上がった。グループステージから、そこまで大きな壁もなく順調に勝ち上がってきていた印象だった。日本は、アメリカ、オランダ、ガーナと同居した強豪揃いのグループステージを勝ち上がり、準々決勝ではフランスと対戦。優勝候補ばかりを相手にしながら、厳しいゲームを勝ち上がってきた。そうした中でベンチを含めた一体感は高まり、観衆を味方につけた。その中で身につけた逆境への耐性は、ブラジルに優っていたと思う。

 もう1試合はスペインがオランダを2−1で下したため、決勝は前回大会と同じ、スペインとの対戦となった。スペインは日本が優勝した2018年と同じP.ロペス監督が務めていて、日本も同じく池田監督が率いている。捲土重来を期するスペインの思いは相当に強いはずだ。

 スペイン女子代表はこの10年間で、FIFAランキングが17位から8位まで上昇。来年のW杯でも上位に食い込むことは間違いなさそうだ。戦術理解度の高さや身体能力の高さなど、個の力をベースにしたシステマチックなサッカーは育成年代から一貫しており、今大会も盤石の戦いを見せている。

「どんどん相手が強敵になっていく中で、自分たちもレベルアップしているのを感じているので。決勝は相手をリスペクトしながらも自信を持って戦い抜きたいと思います」(山本)

山本柚月
山本柚月

 山本の言葉からは、決勝で最強の相手に挑戦できる喜びが伝わってきた。

 スペインも、日本も前回とはメンバーが大きく変わっており、攻撃の形や得点の傾向も異なる。ただ、日本は全員で守り、全員で攻め、90分間ハードワークを貫く。その点においては前回と今回のチームは同じDNAを持っている。それは、試合後の小山の言葉にも象徴されていた。

「試合に出ていない選手がいるなかで、自分はピッチに立たせてもらっています。諦めるのは誰でもできると思うし、諦めるなら交代してもらうぐらいじゃないといけないと思うんです。あとは、笑顔で最後まで頑張ればいいことが起きるんじゃないかな、と思ってプレーしています」

 この数年間、日本は新型コロナウイルスの影響で、国際試合ができなかった。その分、今回のチームは大会中にさまざまなものを吸収し、1試合ごとに逞しさを増してきた。ラストマッチで、ヤングなでしこはその成果をどう表現するのだろうか。

 スペインも一体感のあるチームで、両者の良さが正面からぶつかり合う好ゲームになるだろう。力を出し尽くしたその先に、ワールドカップのトロフィーがあれば最高だ。

*表記のない写真は筆者撮影

(取材協力:ひかりのくに)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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