【突きつけられた世界との差】

 2012年のロンドン五輪以来、9年ぶりのメダルを目指したなでしこジャパンの戦いはベスト8で幕を閉じた。

 なでしこジャパンのFIFAランキングは10位。今大会では、カナダ(8位)に1-1のドロー、イギリス(イングランドが6位)に0-1で敗れ、チリ(37位)に1-0で辛勝して決勝トーナメントに進んだが、スウェーデン(5位)に1-3で敗れた。2位のドイツや3位のフランスは出場していないため、ベスト8という結果はランキング通りとも言える。欧州各国が急激にレベルアップしている実情を考えれば、このままでは差は開いていくのではないかという危機感を覚えた。

 11年のW杯優勝メンバーの一人であるDF近賀ゆかりは、自らのインスタグラムで、「チームが強くなる為には、個の成長が必ず必要だと思います。それと共にチームとしてグループとして成長もないと本当の意味で強くて勝てるチームにはなれないのではないかと思いました」と綴った。

 日本が再び世界一になるために、発展の根幹となる競技人口をいかに増やすかということも課題だ。世界ランク1位のアメリカは160万人、世界2位のドイツは100万人とも言われる競技者数を抱えているが、日本は11年の優勝後に増加した5万人前後から伸び悩んでいる。

 中学生年代の女子選手を指導しているある指導者は、「(今年9月に開幕する)WEリーグなど、ピラミッドの上を整備することも大切だけれど、中学生世代のグラスルーツにもっと目を向けて強化していかないと、選手がどんどん離れていってしまいそうです」と危惧する。

 今大会で、日本を破って決勝進出を果たしたスウェーデンは、人口(約1000万人強)は日本の10分の1以下だが、女子サッカーの競技人口は97,000人(15歳以上)で、日本の約2倍もいるという。代表チームに目を向ければ、スウェーデンは16年のリオデジャネイロ五輪銀メダル、19年のW杯で3位と、国際大会で上位を維持し、今大会では準優勝だった。オーストラリアを下して決勝進出を決めた後、ペテル・ゲルハルドション監督に、会見で「なぜ、スウェーデンはこの数年間でここまで強くなったのですか?」と聞いた。答えはシンプルだった。

「それは、いい選手が揃っているからです。彼女たちはハイレベルなクラブ、たとえばバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、パリ・サンジェルマンなどでプレーをしています。そうした、スキルが高い選手たちばかりです」

 欧州ではイングランドやスペインなど、資金力と育成力のある男子のビッグクラブを中心に各国が女子サッカーの環境整備を進め、そうした流れを代表強化につなげてきた。

 なでしこジャパンも、今年に入って海外でプレーする選手は増えた。だが、欧州のトップレベルと言われてきたフランス、ドイツ、イングランドのリーグや、女子チャンピオンズリーグの常連チームでシーズンを通してレギュラーとしてプレーした経験があるのは、DF熊谷紗希とFW岩渕真奈の2人だけだった。

スウェーデン女子代表
スウェーデン女子代表写真:ロイター/アフロ

【戦術面の強化は急務】

 チームは、高倉麻子監督の下で5年間の強化を進めてきた。攻守に攻撃的なサッカーを目標としてきたが、結果は2019年のフランスW杯と同じ1勝2敗1分となり、決勝トーナメント初戦で大会から姿を消すこととなった。

 スウェーデン戦後、高倉監督はメダルに届かなかった要因の一つとして、「世界中の女子サッカーの急速な進歩の幅が、自分の計算とは違っていたのかなと思います」と語った。

 日本は、早い時期から課題にしてきた立ち上がりの悪さを今大会でも露呈した。初戦のカナダ戦は、前半6分に失点。カナダのベヴ・プリーストマン監督は、試合後の会見で、日本のパスコースや立ち位置を研究した上でハイプレスをかけ、うまく機能したことに手応えをにじませていた。前後半の立ち上がりに失点したスウェーデン戦も、相手の圧力をもろに受ける形になってしまった。強豪国は日本の弱点を見抜き、戦略的に攻め抜いた。「試合の入りは特に集中しなければいけないところ」と、高倉監督や選手たちの誰もが合言葉のように口にし続けてきた。だが、どれだけ集中力を研ぎ澄ませて試合に入っても、常にその上を行かれた。相手のペースに慣れたところで、スウェーデンやイギリスが陣形を変えて狙いを変化させてくると、ゲームコントロールや交代策でも後手を踏んだ。グループで唯一格下と見られていたチリは粘り強く、後半にスタミナの優位性を生かしたい日本のプラン通りにいった試合はなかった。

 スウェーデン戦の試合後、MF長谷川唯は、「全体が共通意識を持って、空いているスペースを使えた時はチャンスになりますが、(相手陣内に)スペースがない時には、わずかなスペースでも、どこが空いているか(を探して、どうチャンスを作るか)を共有できませんでした」と振り返っている。

 その中でも、限られたチャンスをゴールに結実させた場面では、日本は流動的な動きで相手のマークを撹乱し、ピッチに立った選手同士が呼応し合う理想的な崩しを見せた。美しい連係のハーモニーを奏でたスウェーデン戦のFW田中美南のゴールは、それが見られた数少ないシーンだ。

 上述した女子サッカーチームの指導者は、前半23分の同シーンのプレーについて、こう分析した。

「日本が同点に追いついたシーンは、杉田(妃和)選手が絶妙の位置でボールを受けたことから日本のチャンスが生まれています。相手の三角形の中央でボールを受けた杉田選手が中島(依美)選手と入れ替わり、中島選手が新たな三角形の中心に入ったことで、相手の左MFが中島選手に気をとられて中に釣り出され、それによって清水(梨紗)選手の前に少しのスペースができています。あの場面以外にスウェーデンの守備に綻びが出るシーンはほとんどなく、日本は中盤の選手が相手の守備をしやすい位置でボールを受ける場面が多かった。イギリスやスウェーデンは、各ポジションの選手がどこでボールを受けて、取られた時にどう追い始めるのか、攻守の共通認識が明確だったように見えました。Jリーグでいえば、川崎フロンターレとか横浜F.マリノスは共通認識を持ってプレーしているからこそ、アタッキングサードで三笘薫選手(川崎)のドリブルのような個性が生きる。なでしこジャパンは、その点で“自由さ”が裏目に出てしまったのではないでしょうか」

杉田妃和
杉田妃和写真:青木紘二/アフロスポーツ

 高倉監督が目指した、選手同士の判断力や発想に委ねる攻撃は、選手の個性を生かすためだったはずだ。だが、世界的に守備のレベルが上がり、緻密にスペースを消してくる国が増えてきた中で、逆に、その“自由さ”が足枷になることもあった。

 守備は、カウンター対策や状況に応じた守り方を練習やミーティングの中で積み重ねてきた。だが、カナダやイギリス、スウェーデンは戦術的な引き出しが多く、システムや時間帯に応じた戦い方などのコンセンサスがあり、日本は受け身にならざるを得なかった。

 同じような課題は、2019年のW杯や、スペイン、イングランド、アメリカに3連敗した20年3月のシービリーブスカップでも出ていた。高倉監督自身が認めたように、そうした海外との力の差を正しく把握し、どう対抗していくかという具体策を落とし込めなかったことが最大の敗因だろう。

【再び強豪国になるために】

 欧州の女子サッカー界は、男子サッカーのトレンドに追随している。今大会の上位進出チームは、そうした世界の戦術的な潮流を研究し、戦う術をチームに落とし込むことができる監督やスタッフを揃えていた。そうした戦術面の潮流を抑えた指導者は、日本の女子サッカー界、たとえば今季から始まる女子プロリーグ「WEリーグ」にもいる。そうした力を代表に還元することが必要な時期にきたのではないだろうか。

 高倉監督は、2016年に佐々木則夫監督の後を引き継ぎ、女性初の代表監督となった。その際に、「王座奪還」と、「世代交代」という、2つのミッションがあったと振り返っている。育成年代ではU-17W杯優勝やU-20W杯3位の成績を残し、アジア最優秀監督賞を7回受賞するなどの実績を掲げて代表監督に就任後、世代交代を進めた。育成畑を歩んできた指導者らしく、選手にさまざまな角度から刺激を与えて伸びしろを見極め、国内リーグの1部から3部まで幅広いカテゴリーの試合に足を運び、可能性のある選手を抜擢してリーグの活性化を図った。

高倉監督
高倉監督写真:森田直樹/アフロスポーツ

 また、16年の五輪予選敗退後、強豪国とのマッチメイクが難しくなった中、現役時代やFIFA(国際サッカー連盟)の仕事をする中で培った幅広い人脈を活用して、強豪国とのマッチメイクのルートを再構築し、リーグとの兼ね合いの中で代表活動を増やしてきた。そこに、女子委員会の本格的なサポート体制も感じられ、期待が高まった。

 ただし、チーム作りの手法は“王道”ではなかった。W杯や五輪の過密日程を想定して「力の変わらない2チームを作る」ことを掲げ、また敵に狙いを読まれない、変幻自在な戦い方ができるチームを目指し、試合ごとにメンバーやポジションを変えた。大胆で魅力のある構想だったが、反面、それによってチームの軸が固まらず、コンビネーションの成熟は遅れ、試合内容は一進一退を続けた。2018年のアジアカップやアジア競技大会、19年の東アジア選手権など、アジアでは薄氷を踏む勝利でタイトルを獲得したが、欧州の強豪国に対しては苦戦することが多く、19年のW杯では、世界一の目標は叶わずベスト16敗退に終わった。

 19年のW杯の後、個人的な考えとして、戦術面の刷新や対戦相手の分析も含めた専門性の高いスタッフの増強に期待し、記事に書いた。実際、W杯で優勝したアメリカは、ジル・エリス監督(当時)のサポート役として、テクニカルスタッフやコーチングスタッフを国籍問わず揃えていた。そうした頭脳を集めたアメリカサッカー協会の資金力や人脈、忌憚なく意見を交わせる風通しの良い環境を作った監督のマネジメント力もあるだろう。女子サッカー界が急激な進化を遂げていく中で、それは理想的な形に映った。

 W杯後、JFA(日本サッカー協会)の今井純子女子委員長による大会検証報告の中で、「テクニカルスタッフ増強」の案は出ていた。だが、実現したのは五輪の延期が決まった後だった。昨年7月にヘッドコーチとして今泉守正氏を迎え、その後、テクニカルスタッフとして11年のW杯優勝チームを支えた能仲太司氏が迎えられたが、そこまでずれ込んでしまったことが残念でならない。また、そうした力を生かす体制はあったのだろうか。チームを様々な角度から客観的に見る「目」を持つことの必要性も含めて、検証しておきたいポイントだ。

 世界で勝つための戦い方を見直して方向性を定めていくためには、資金力やマンパワーも必要だ。その点でも、世界との差はなかなか縮まらない。

 高倉監督はスウェーデン戦の試合後、自身の進退について問われ、「自分自身の思いはありますけれども、私自身が決められることではないですし、今ここでそれを言うべきことではないと思います」と語った。

 2023年のW杯までに、代表チームをどう立て直すのか。日本サッカー協会、そして女子委員会の動きに注目が集まっている。