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東京五輪、グループ3位で8強に滑り込み。厳しい3連戦を経て優勝候補が待つノックアウトステージへ

松原渓スポーツジャーナリスト
田中(左は清水梨紗)の決勝ゴールで日本がチリに勝利した(写真:ロイター/アフロ)

 7月27日のグループステージ第3戦で、チリと対戦したなでしこジャパンは、FW田中美南のゴールで1-0で勝利。3試合を終えて1勝1分1敗の勝ち点4となり、グループ3位で準々決勝へ駒を進めた。この試合は宮城スタジアムで有観客試合として行われ、「生の応援が本当に自分たち選手の後押し、力になるなと改めて感じた試合でした」(DF熊谷紗希)というように、日本にとってようやく、地の利を感じられる一戦となった。

 自力での決勝トーナメント進出には、勝利が絶対条件。チリはFIFAランク10位の日本に対して37位だが、2019年のW杯で初出場するなど急成長中で、守備の粘り強さや、ファウルを誘うしたたかさは、欧米諸国とは異なるやりにくさがあった。3試合ともメンバーを入れ替えて臨んだ日本とは異なり、チリは中2日のグループステージ3連戦を、11人中10人の主力を固定して戦っていた。それでも、運動量は最後まで落ちず、タフな90分間を強いられることとなった。

 試合の入りは良かった。「自分が(声で)指揮をとって動かそう、という意識でプレーして、うまく相手をはめられたシーンもありました」とボランチのMF三浦成美が振り返ったように、守備に奔走させられたカナダ(△1-1)、イギリス(●0-1)との2試合とは異なり、素早い切り替えからボール保持で優位に立つ。

 相手がボールに食らいつくと、FW岩渕真奈やMF長谷川唯、MF杉田妃和らがドリブルで相手をかわして数的優位を作った。相手が自陣で構えれば、その3人にFW菅澤優衣香を加えた前線4人が流動的な動きでスペースを突き、右サイドからDF清水梨紗、中央からダブルボランチのMF三浦成美やMF林穂之香らが攻撃に厚みを加えた。

 だが、それも長くは続かなかった。チリはボールを失った後の戻りが速く、日本がクロスを入れる場面ではゴール前を固められていた。チリのディフェンス陣をドリブルやサイド攻撃で誘き出し、なんとかエリア内まで侵入しても、182cmの最強GK、クリスティアン・エンドラーが守るゴールは、コースが完全に消されていた。また、日本のゴール前では、常に長身のマリア・ホセ・ウルティアをはじめアタッカー陣がカウンターの機会を虎視眈々と狙っていた。

 杉田は、攻撃の決め手を欠いた理由について、こう振り返る。

「相手の選手が(日本陣内で)攻め残って、嫌なところに立っていました。戻ってその選手をマークするのか、それともリスクを負って攻撃的にいくのか、それをチームとしてもっと早めに決断できたら、攻撃に人数をかけられたと思います。前半はチャンスになるボールを選んでいたので、もっと早めにクロスを上げていいシーンもあったと思います」

 高倉麻子監督は、後半開始からFW田中美南、54分にMF遠藤純、65分にMF木下桃香と、交代カードでリズムを変えたものの、チリの運動量は落ちるどころか粘り強さを増す。そして、69分には日本陣内で守備がバタついたところを狙われ、MFフランシスカ・ララのヘディングシュートがクロスバーを直撃。跳ね返ったボールはギリギリゴールラインを割っていなかったが、あと5cm内側だったら運命は変わっていただろう。

 そうした中、均衡が破れたのは77分だ。杉田の縦パスを受けた岩渕が粘り強くボールをキープして相手DFの間にボールを流すと、左から走り込んだ田中が、エンドラーの鼻先でボールに追いつき、「GKが(体を倒して)寝るかな、というのを冷静に見て浮かせました」と重心の逆をとってゴール。沈んでいた日本ベンチの歓喜が爆発し、ピッチ上も再び攻撃が活性化。そのままタイムアップの笛を迎えた。

エンドラーの脇を抜くシュートが決まった
エンドラーの脇を抜くシュートが決まった写真:ロイター/アフロ

 右膝をテーピングで固め、2試合ぶりに先発して90分間を走り抜いた岩渕は、試合後、思いとプレーがうまく噛み合わないもどかしさを抱えていたことを明かしている。

「難しい状況で、今まで感じたことがないようなプレッシャーを感じていました。チームとして、向きたい方向、やりたいことが一瞬、わからなくなりかけた時もありました」

 背番号10への期待が厳しい声となって、あちこちから飛んでくる。

「戦う気持ちが足りないのではないか」。かつて世界を制した先輩たちから、「体を張る」ことの意味を学んできた岩渕にとって、それは最もこたえる言葉だっただろう。その中で、ようやくチームの結果が一つ実を結び、思わず涙がこぼれた。

「もっともっと、口だけじゃなく自分たちが目指す何かを感じ取ってもらえるようなプレーをしよう、と話して臨んだ中で、勝って次に繋がりました。まだまだ、ここで負けるわけにはいきません」

 3試合にフル出場し、右サイドを支えてきた清水も、「毎試合、全員で目の前の試合にすべてをかけて戦っていますが、そういう(厳しい)声がある中で、周りの(試合を見ている)人たちにもっとプレーで伝えることも絶対に必要です」と話し、さらに気持ちのこもったプレーを見せることを誓った。

 中2日で迎える次の相手は、グループステージ初戦で世界女王のアメリカを3-0で下し、その後オーストラリア、ニュージーランドにも快勝してグループGの1位通過を決めたスウェーデン。会場は宮城から埼玉スタジアム2002へと移り、再び無観客となる。

 日本の守備は3試合を通して上向いてきたが、強力なFWやサイドアタッカーを擁するスウェーデンは、わずかな隙も見逃してはくれないだろう。だが、日本には、ブラジルやフランスといった強豪との厳しい戦いを制してロンドン五輪の銀メダルを獲得した経験がある。熊谷と岩渕もそのメンバーだった。かつてのW杯優勝メンバーや、五輪でメダルを獲得した歴代の代表選手たちは、今は解説者や指導者として各紙面を飾り、今大会にも様々な批評やアドバイスを提供している。

 当時のチームを牽引した澤穂希さんは、愛のあるムチとともに、自らの五輪での経験から具体的なアドバイスを送っている。

「スウェーデンはダイナミックで足元もあるチームですが、日本が戦う上ではスピードに乗らせない守備や、日本の技術や戦術を全面に出して戦って欲しいと思います。レベルが上がるにつれて、強豪チームは(少ないチャンスを)決め切ってくるので、クロスを上げられても、最後は中で相手にいい状態でシュートを打たせないようにして欲しい。背のある選手に真っ向勝負しても勝てないけれど、打たれる前に体を当てるとか、そういう細かいところを詰め切らないと、1本のチャンスで決められてしまうと思いますから」

 高倉ジャパンが世界大会で対戦してきた中で、おそらく1、2を争う手強い相手だ。だが、失うものはない。たとえ1点取られても、2点取り返してみせるーーそんな、「最後まで諦めない」なでしこのDNAを発揮して、未来のなでしこたちに希望を繋いでほしい。

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

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スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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