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WEリーグ発展へ「世界に通用する人材を輩出する」。早稲田大学ア式蹴球部女子・福田あや監督のビジョン

松原渓スポーツジャーナリスト
えんじ(海老茶)色が早稲田のチームカラーだ(写真:keimatsubara)

 早稲田大学ア式(*)蹴球部女子ーー通称“ア女(あじょ)”。大学女子サッカーで全国トップクラスの実力を持つ同校は、今年、創設30周年の節目を迎える。今季は同部OGである福田あや監督を迎え、チーム強化を進めてきた。

 同部は選手主体で活動しており、サッカーの枠組みを超えて「日本をリードする存在になる」というチームビジョンを持つ。今季は主将のGK鈴木佐和子を中心に、オフザピッチでも個々の選手の特徴を活かした組織強化を目指しながら、「大学日本一」を目指してきた。その一環として、分析やスカウティング、広報活動や戦評など、13の役職を設け、各自の能力を活かすチーム作りを行ってきた。

早稲田大学ア式蹴球部女子が目指す「真に強い組織」とは?学生時代から“デュアルキャリア”を考える

 その取り組みは、アスリートが現役中からもう一つのキャリアを両立させる「デュアルキャリア」を考えるきっかけになる。

 今年秋には、日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が開幕することが決定している。そのため、プロリーグで指導できる女性指導者が増えることは課題の一つで、福田監督はWEリーグが掲げる「女性活躍社会」を牽引する存在としても期待されている。

 そうした中、福田監督は、ア式蹴球部女子の強化に向けてどのようなビジョンを描き、また、ア女の組織的な独自性をどのように活かしていきたいと考えているのか。お話を伺った。

(*)サッカーの別称である「アソシエーション式フットボール(協会式フットボール)」の略。

福田あや監督インタビュー

ーー早稲田大学ア式蹴球部女子の監督に就任されて、どのようなことに力を入れてこられたのですか。

福田監督:選手たちにはまず、『“当たり前”の基準を上げよう』と言いました。最高の結果を出すためにはベストな練習が必要で、ベストパフォーマンスを発揮し続けるためには、心技体をベストに保ちながら練習をすることが必要で、そのためにはベストな日常を心がけることが必要、というふうに掘り下げていったんです。また、そのためにコンディショニングのアプリを使ったり、GPSを使って走行距離やスプリント回数も測るようにしています。環境を整えることも最低限の監督の仕事だと思いますから。パフォーマンス向上には心技体の3つが必要ですので、メンタルコーチにも就任してもらいました。

ーー選手たちに変化を感じましたか?

福田監督:かなり変わったと思います。ただ、コロナの影響もあって、やはり時間が足りないなと思うところもあったのですが、選手たちは確実に積み上げてくれたので、自信を持って欲しいですね。

ーー昨季からポジションが変わった選手もいますが、各選手の適性はどのように見極めているのですか?

福田監督:練習の中でポジションをぐちゃぐちゃにしてトレーニングすることがあります。そうすることで選手の違う一面を発見できたり、違うポジションをやることで、本来のポジションでのプレーがより明確になることもあるからです。(FW)高橋雛は器用で、攻撃的なポジションはどこでもできる選手だったのですが、練習でシュート力やゴールセンスを発揮していて、「このポテンシャルを持っているのだったらストライカーになるべきだよ」と伝えました。FWになってからの彼女は本当に伸びたと思います。ボランチの(MF)阪本未周も、最初にポジションを聞いた時はサイドかFWと聞いていたのですが、練習では、悪くないけれど飛び抜けてもいなかった。彼女が一番輝けるのはどこだろう?と考えながら見ていたら、ミニゲームで自然と自分から真ん中に動いて楽しそうにプレーしていたので、本人と話して練習試合で使ってみたら、(ボランチが)ハマったんですよ。それぞれの秀でた武器があった上で、今までの経験値で2つ、3つポジションができることは、これから先のステージでも生きると思うので、できるだけ多くのポジションを身につけさせてあげたいなという思いもあります。ただ、スペシャリティを持った選手でないと生き残れないから、大学時代にそれを見つけられればいいなと思っています。

練習中はパス回しに加わることも(帽子を被っているのが福田監督)
練習中はパス回しに加わることも(帽子を被っているのが福田監督)

ーー関東大学女子サッカーリーグでは5年ぶりに優勝しましたが、皇后杯関東予選と関東女子サッカーリーグは準優勝、全日本大学女子サッカー選手権大会は2回戦敗退でした。コロナ禍で大変なシーズンでしたが、振り返っていかがですか。

福田監督:今季は「積み重ねる力」を合言葉のように使ってきた中で、一つひとつ積み上げながらリーグ戦で力を発揮できたと思いますが、一発勝負のトーナメントを制覇する力はまだまだ足りなかったですし、実力不足でした。ただ、今年築いた礎が必ず来季につながるという思いもあります。来季は真価が問われる年だと思います。

ーー先を見据えたチーム作りをされていると思いますが、結果とのバランスをどう考えていらっしゃいますか。

福田監督:勝者にしか見えない景色があると思うんですよ。「負けから学ぶ」ということは間違っていないと思うのですが、たとえば1000人のトーナメントで、999人が負けて学んだとしても、1人だけが辿り着くことのできるその景色を見たら、それ以上の価値はないんですよ。その景色を見ることができたら、さらに上の新しいステージが見えてくるし、目標も変わってくる。その過程で得られる成長があることを私自身が知っているから、勝つことにはこだわりたいですし、成長と結果はイコールだと考えます。

ーーア女は選手がそれぞれに役職をこなし、選手の自主性も特徴的ですが、OGでもある福田監督はその独自性をどのように感じていますか?

福田監督:独特な部分があることは、私も外に出てみて感じました。卒業したら社会に出ていきますから、ここで役職をこなすことで、社会とのつながりが体現できると感じます。広報や地域貢献など、外側との関わりを持つ仕事もあれば、スカウティングや戦評など専門的な役職もあるので、社会性は養われると思います。大元となる競技力はもちろんですが、「学生力と社会力と人間力の3つを全部高めよう」と言ってきました。

ーー結果ばかりに目を向けるのではなく、「どういう組織でありたいか」というビジョンを浸透させることで結果がついてくるような組織を、鈴木キャプテンが提案されたそうですね。

福田監督:はい。鈴木を中心に、今回の4年生が1年以上前から問題意識を持っていて、私が就任する前に、「こういう組織を目指したい」と伝えてくれました。自分の考え方と似ていたので驚きましたし、早稲田ってそういうところだったな、と、喜びとともに実感が湧きました。自覚や責任を持って、自分たちの価値を自分たちで高めていく。そうすればマインドが変わってくるし、選手をやめても確実に生きると思います。学生のうちは失敗できるのも良さだと思うので、いろんなことにトライしてほしいですね。一つのことを極める力は大事ですが、それは当たり前です。その上で、二つ、三つのことを考えて行動が起こせるかどうか。(ア女で)役職をこなすことでその習慣を身につけて、プロの定義や本質をもっと考えられるようになればいいなと考えています。そのマインドを持ってプレーすることができれば、必然的に大学サッカーのレベルも上がると思いますから。

ーー選手たちから渡されるスカウティングを、監督はどのように試合で活かされているのでしょうか。

福田監督:選手たちが、「相手はこうだから、こういう戦い方はどうですか?」と上げてきてくれるので、話をして、私のスカウティングと齟齬(そご)がなければOKだし、あった場合は、「こういうところも注意した方がいいと思うよ」と伝えます。そこまでズレることはないので、最初にすり合わせをして、私から伝えておきたいことは伝えた上でミーティングは選手に任せて、みんなの頭に「?」が浮かんでいそうな時には話します。監督の仕事はピッチ上だと思っているので、練習や試合中に予定を臨機応変に変えることはありますよ。

ーーア女は動画やコラムなど、SNSのコンテンツが充実していますね。福田監督もTwitterなどSNSを活用される中で、選手たちの背中を押しているのですか?

福田監督:私自身は、女子サッカーやスポーツ界の素晴らしさを伝えたいという思いでやっています。思いを形にするために、まずはどんなこともやってみようというタイプですし、ア女のSNSも同じスタンスで考えています。一つ条件があって、SNSは誰もが見るものですから、誰に届けたいのか、その先でどういう世界を作りたいのかを考えて発信することが大切です。「女子サッカー選手ってかっこいい」「スポーツに打ち込んでいる若者って素晴らしいな」と思ってもらえたらいいし、誰かのやり方を真似するのではなく、自分たちのスタイルで発信して、チームの価値を高めていきたいですね。たまに、「こっちの方が良くない?」などと小言を挟むこともありますよ(笑)。そこで新しく作り上げてくる発想力とか、出てくるアイデアがすごく面白くて、私も刺激になるし、学ぶことがたくさんあるんです。他のチームでその感覚は持ったことがないので、それはすごく面白いなと。

ーーところで、ジャージの着こなしがお洒落ですね。早稲田カラーの燕脂を絶妙な具合に取り入れつつ、色の組み合わせが独特です。

福田監督:うちは家系がクリエイター系なんですよ。服飾、広告、カメラマンやデザイナーなど、そういう家で育ったので、ちょっと感覚がずれているんだと思います(笑)。

ーーそうなのですね!その感覚は、サッカーの指導にも反映されることがありますか?

福田監督:ボールを出す角度とか位置とかタイミングとか、ディテールにこだわるのは、デザインの感覚とも繋がっていますね。ただ、基本的には細かいところよりも、上から俯瞰して見る傾向があります。もっとディテールにこだわってロジカルな指導をすることが今後の課題です。

ーー今年秋に日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」も開幕します。プロの世界に選手たちを送り出すことも含めて、今後の目標を教えてください。

福田監督:ここで監督として指揮を執る以上は、世界に通用する人材を輩出することが目標です。選手としても一流で、「女性活躍社会を牽引する」というWEリーグの理念を体現できるマインドを持った選手を輩出したいですし、WEリーグの裏方に興味を持つ選手も出てくると思います。チームとしても、芯の部分からタフで、本当の強さを持っているチームにしたいと思っています。

――本日はありがとうございました。

Twitter/早稲田大学ア式蹴球部女子部【NEW】

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※文中の写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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