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なでしこジャパン入りへの登竜門。選手の発掘、育成、強化を担う「チャレンジキャンプ」に挑んだ挑戦者たち

松原渓スポーツジャーナリスト
紅白戦は意欲的なプレーが光った(写真:keimatsubara)

【約60名の候補者から18枠へ】

 12月7日から9日まで、JFA夢フィールド(千葉県千葉市)で、「なでしこチャレンジトレーニングキャンプ」が行われた。

「なでしこチャレンジ」は、代表入りを目指す実力のある選手たちを発掘・育成・強化するプロジェクトで、なでしこジャパン(A代表)予備軍にあたるカテゴリーだ。トレーニングは高倉麻子監督をはじめA代表のコーチングスタッフが担当し、トレーニング内容も共通しており、代表チームのコンセプトも落とし込まれる。10月と11月の2回にわたって行われたなでしこジャパンの候補合宿は総勢34名が参加。そこに、今回のなでしこチャレンジメンバー24名を合わせた約60名が、来年7月に延期された東京五輪候補となる。

 代表チームとしての完成度を高めるためには、早い段階での絞り込みも必要だろう。一方、ケガ人の多さは気になるところだ。コロナ禍で、4カ月遅れで開催された今季のなでしこリーグは中断期間を設けず、夏場を含む4カ月間の短期集中開催となった。例年とは異なるイレギュラーなシーズンを戦い抜いた選手たちが、疲労を蓄積させていることは、ケガが多い要因の一つと考えられる。代表活動中に、選手がケガやコンディション不良で離脱するケースもある。

 現在行われている皇后杯は、12月29日に決勝戦を迎える。その後、シーズンオフに入るが、各チームの動きは例年とは大きく異なる。今季、なでしこリーグ1部で戦った10チーム中7チームが、来年秋に開幕する女子プロサッカーリーグ、「WEリーグ」に参加するためだ。WEリーグは、なでしこリーグの上位、日本のトップリーグに位置づけられ、9月から5月にかけての秋春制が採用される。一方、なでしこリーグはWEリーグ創設に伴って、これまでの1部からチャレンジリーグ(3部)までの3カテゴリーから、1部と2部に再編成される。こちらは例年通り、春から秋にかけて実施される予定だ。

 代表選手たちの所属チームが変わらなければ、大半はWEリーグに参戦することが濃厚だ。ただし、11月中旬のリーグ戦終了後から、水面下で各チームによる選手の獲得競争が進められており、代表選手の中でも新天地を求める選手が出てくるかもしれない。これまで女子チームがなかった大宮アルディージャやサンフレッチェ広島F.C.など、WEリーグ参戦により、新たに選手を集めるチームもある。

 WEリーグの各チームの活動開始は例年通り、来年の2月ごろになる見込みだ。代表選手の所属チームが大きく入れ替わることがあれば、環境の変化が個々のパフォーマンスに与える影響も小さくはないだろう。WEリーグは五輪後に開幕するため、21年の上半期は例年に比べて代表活動が多く組まれることが予想される。

 各クラブとA代表が協力体制の下で、個々のコンディション管理を徹底していくことが求められる。

【なでしこジャパンのコンセプトを共有】

 今回、なでしこチャレンジ合宿に招集された選手たちは、「攻守ともにトータルな能力の伸びしろと、何か光ったものを持った選手」(高倉麻子監督)だ。

 リーグでの活躍をきっかけにこのキャンプに呼ばれ、A代表に定着した選手もいる。A代表の合宿に比べると実施頻度が少なく、また期間も短いため、限られたトレーニングや紅白戦の中で自らの長所をどれだけ印象づけることができるかもポイントだ。このチャンスを掴みとろうと、参加した選手たちは緊張感を漂わせていた。

真剣な眼差しで取り組む選手たち(左から栗島朱里、祐村ひかる、浜野まいか)
真剣な眼差しで取り組む選手たち(左から栗島朱里、祐村ひかる、浜野まいか)

 攻撃面では、ボールを失わないためのポジショニングや体の角度、遠くまで目を配ることができているかどうかなど、コーチ陣から細かく指摘が飛んだ。中でも、パススピードと縦パスを入れるタイミングを逃さないことに関して、なでしこジャパンと同じ基準で求められるレベルの高さに、選手たちも刺激を受けたようだ。

 2日目と3日目には紅白戦が行われ、所属チームとは異なるポジションで起用された選手も。五輪は18枠と少なく、複数のポジションでプレーできるユーティリティ性が重視される。

 DF守屋都弥(INAC神戸レオネッサ)は、今季のリーグ戦はセンターバックでの出場がメインだったが、身体能力が高く、サイドでもプレーできる。「センターバックもサイドバックもでき、サイドハーフもできるという気持ちがあります。どこに置かれたとしても100%で準備したいと思っています」と、力強くアピールした。

2度の紅白戦は異なる組み合わせでポジションも変えて行われた
2度の紅白戦は異なる組み合わせでポジションも変えて行われた

 FW南野亜里沙(ノジマステラ神奈川相模原)は、なでしこチャレンジへの選出は3回目となる。狭いスペースの突破や得点力が持ち味で、昨年までセンターフォワードのポジションで点を取ることが多かったが、「サイドやトップ下、FWなどいろいろなポジションでプレーして、今季は裏への飛び出しを意識してきました」と、プレーの幅を広げた。合宿中はボランチでもプレーし、積極的な攻撃参加を見せていた。

 2018年U-20W杯での優勝に貢献し、A代表選出経験もあるMF長野風花(ちふれASエルフェン埼玉)は、テクニックとインテリジェンスを兼ね備えたボランチだ。紅白戦では各選手が攻撃への意識を強める中、バランス面で、「もっと声をかけてコントロールできたらよかったです」と、振り返った。A代表入りに向けては、「東京で五輪が1年延期されたことは、私にとって成長する期間と活躍するチャンスが与えられたと思うので、このチャンスを自分がどう掴み取れるかだと思います」という言葉に覚悟が感じられた。

 最大のアピールの機会である紅白戦は見応えがあった。2019年の女子W杯フランス大会に出場したDF三宅史織(INAC)を筆頭に、DF北川ひかる(アルビレックス新潟レディース)や、MF隅田凜、DF國武愛美(共にマイナビベガルタ仙台レディース)、MF栗島朱里、(浦和レッズレディース)、FW千葉園子(ASハリマアルビオン)、FW宮澤ひなた(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)ら、A代表で国際試合に出場した経験を持つ選手たちは、世界と戦うために質の高いプレーのみならず、コミュニケーションスキルが必要なことも知っている。初めてプレーする選手同士でも、声をかけ合うシーンが見られた。

年代別代表選出歴、A代表選出歴がある選手も多い(左から國武愛美、西澤日菜乃、児野楓香)
年代別代表選出歴、A代表選出歴がある選手も多い(左から國武愛美、西澤日菜乃、児野楓香)

 一方、初招集された選手たちも意欲的にプレーしていた。その一人が、最年少で選出された16歳のFW浜野まいかだ。2度の紅白戦を通じて1アシスト2ゴールと、結果を残した。今季は、1部に昇格後4位と躍進を遂げたC大阪堺レディースで、インパクトを残した。延期により来年2月にインドでの開催が予定されていたU-17W杯は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止になったが、“飛び級”でA代表に足跡を残すことができたのは一つの成果だろう。インタビューで憧れの選手を聞かれ、初々しい表情で、リオネル・メッシ(バルセロナ)とFW岩渕真奈(INAC)を挙げた。

(左から山口千尋、浜野まいか、園田悠奈、松本真未子)
(左から山口千尋、浜野まいか、園田悠奈、松本真未子)

【大会中止に代わる新カテゴリー創設の提案】

 チャレンジキャンプを取材して思うことは、なでしこリーグの選手層が厚くなってきているということだ。リーグ戦や皇后杯で拮抗した試合が増えていることも、その証と言えるかもしれない。豊かな伸びしろを持った選手たちが、チャンスを掴もうと日々プレーを磨いている。

 今年はコロナ禍で、予定されていた様々な大会が延期、あるいは中止となった。特に、2021年に延期されていたU-20女子W杯とU-17女子W杯の中止は非常に残念だった。

 日本は女子サッカーの育成年代では、世界でもトップ3に入る育成大国だ。両世代とも昨年のアジア予選で優勝し、U-20代表は2018年のフランス大会に続くW杯連覇、U-17代表は2014年以来、3大会ぶりの優勝が期待されていた。技術や運動能力が高く、きっかけ一つで大きく飛躍しそうな選手もいる。

※参照記事

U-20女子W杯に向けて高まる一体感。アジア王者として大会2連覇を目指す「ヤングなでしこ」の強みとは

日本女子サッカーにダイヤモンド世代が登場!U-17W杯に臨む伸び盛りの“リトルなでしこ”の魅力

 U-17の選手たちは2年後のU-20W杯が新たな目標になるが、U-20世代は、なでしこジャパンへのアピールの場を失ってしまったとも言える。新型コロナウイルス感染拡大が収束したその時には、U-21代表やU-22代表、あるいは13年から17年まで国際大会にも出場していたU-23などのカテゴリーを暫定的に復活させ、この世代が国際試合を戦える機会があればと願う。

 現在は欧州などとの行き来が困難な状況で、なでしこジャパンも強化試合を組むためのハードルはかなり高い。韓国は、今年10月に国内でA代表とU-20女子代表がスペシャルマッチとして2試合を行った(結果は1-0と2-0でいずれもA代表が勝利)。これを日本でも実現できないだろうか。きっと、面白い試合になると思う。

 2012年に、東日本大震災復興支援チャリティマッチとして、なでしこジャパンとヤングなでしこが対戦したことがある。なでしこジャパンは2011年のW杯優勝メンバーを中心に結成。ヤングなでしこは、2012年のU-20女子W杯(3位)のメンバーが中心だった。また、90分間のうち後半の45分間は、なでしこジャパンとヤングなでしこが混合で女子オールスターチームを結成。ラモス瑠偉氏や北澤豪氏、武田修宏氏など、男子日本代表OBのレジェンドプレーヤーたちと対戦する華やかなエキシビションマッチが実現した(前半はなでしこジャパンが3-0で勝利、後半は男子OBチームが1-2で勝利した)。テレビ中継もあり、このチャリティマッチはサッカーファンだけでなく、多くの人々に喜ばれた。

 多くの観客を入れることは難しいだろうが、A代表の意地とヤングなでしこのチャレンジャー精神がぶつかる真剣勝負は、ハイレベルで熱い試合になることだろう。

 感染者は再び増えており、先が見通せない状況ではあるが、2021年の日本女子サッカーは、東京五輪、そしてWEリーグ開幕と、大きなトピックが続く。未来への希望が持てる状況は、幸せなことだと思う。コロナ禍の厳しい時代に明るいニュースを届け、希望を与えるような一年になることを心から願っている。

監督・選手コメント

※文中の写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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