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東京五輪に向け活動を再開したなでしこジャパン。8日間の候補合宿に起きたチームの変化

松原渓スポーツジャーナリスト
五輪に向けて守備の強化を重点的に行った(写真:keimatsubara)

 10月19日から26日まで、福島県のJヴィレッジでなでしこジャパンが候補合宿を行った。代表活動は、3月にアメリカで行われたシービリーブスカップ以降7カ月ぶり。コロナ禍で国際親善試合が組めないなか、1年後の東京五輪に向けて海外勢のパワーやスピードを想定するため、4日目と7日目にはそれぞれ、男子のふたば未来学園高校(○2-1)といわきFC U-18(●1-3)とのトレーニングマッチが組まれた。

東京五輪に向けて再始動。なでしこジャパンが7カ月ぶりの活動で見せた3つの好変化

 合宿時に高倉麻子監督と選手たちに話を聞いた。

(※)取材はすべてオンライン会議ツール「Zoom」で行いました。

監督・選手コメント

高倉麻子監督

ーー7カ月ぶりの活動を振り返って、いかがでしたか。

プレーに関しては今までやってきたことを振り返りながらトレーニングで再現しつつ、新しく加わった選手にそれをまた落としこみながら精度を高めていく作業をしました。前向きで明るい空気が流れていたなと思いますし、いい競争、いいチャレンジのなかでサッカーをやれる嬉しさや喜びも含めて、チームが成熟してきた感じがします。まだまだ足りない部分はありますが、落ち着きを持ってポジティブに進むことができている手応えを感じました。

ーーセットプレーを含めて、守備面を重点的に取り組んだ狙いを教えてください。

守備的にサッカーをすることは考えていなくて、「チームを安定させるための土台は守備」という理解の中でこれまでも進めてきましたが、海外勢との対戦では、国内のレベルとは違う強度やスピードで(プレスを)外されることが多くあったという選手の経験を基に、細かいところを詰めていきました。

ーー合宿中はメディカルの時間が多めにとられていましたが、ケガ予防やコンディショニングの面で新たな取り組みはありましたか。

リーグの途中ですし、各チームから選手を借りているので、疲労困憊で返すのではなく、頭の整理と体のケアをして、プレーの質を短い時間でも高める狙いを持って合宿を進めました。体の使い方やスピード、コーディネーション(*)のところは練習中にGPSをつけて数字が出ているので、もう一段階上げるために具体的な話をしました。あとは、個別に強化してほしいことについて話をしました。

(*)体を自在に動かす神経系の能力

ーーコロナ禍で国際親善試合が組めないなかで、海外勢との対戦を考えていく難しさもあるのではなないですか。

海外勢との対戦でマイナスになるフィジカル的な瞬発力や爆発力、スピードに対応していくために男子高校生とトレーニングや試合を組みますが、女子(の海外勢)と試合をやった時の違いはどうしてもあるので、正直に言えば国際親善試合は多くやりたいです。ですが、コロナ禍では難しい部分もあるので、男子選手を相手にすることで割り切る部分と、課題として取り組んでいく部分を整理して続けていくしかないと考えています。

鮫島彩
鮫島彩

DF鮫島彩(INAC神戸レオネッサ)

ーーふたば未来学園高校(○2-1)との試合の感想と、手応えを教えてください。

今回の合宿で自分たちがどういう風にボールを奪っていくかがチームとして細かく提示されたので、そこを意識してやろうとみんなで入りました。積極的にトライする中でいくつかエラーは起こったので、今後はそれをどう修正するかを詰めていきます。積極的なトライと、修正につながるエラーも含めて、プラスになる面はかなりあったと思います。

ーーW杯以来の代表ですが、五輪が延期されたことも含めて、代表への思いを教えてください。

延期になっていなかったら、ケガ(の回復)は間に合っていなかったと思います。チームとしてもより細かいところを確認したり、今回のように新たなコンセプトに挑戦する時間を得ることができました。世の中がとても大変な状況ですし、言い方は難しいですが、その時間をプラスに捉えて、来年の五輪に向けてチームとしてもっと成長していかなければという思いがすごく強いです。

ーー新しいコンセプトの中で、声かけの面ではどのようなことを意識していますか?

世界の強豪に勝つことにベクトルを向けた時に、声かけをせずに簡単にボールは取れないし、細かい部分に着目していかないと勝負どころでは勝てないと思います。今までのなでしこ(代表)の先輩たちからも、『ここまで細かいところを全部確認していくんだ』と、刺激を受けて学んできました。世界のサッカーのレベルがあの頃より上がっていることを考えても、そういうところを自分たちで突き詰めていくことは、昔以上に必要だと思います。

杉田妃和
杉田妃和

MF杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)

ーーふたば未来学園高校(○2-1)との試合は左サイドでプレーしましたが、どうでしたか。

代表では普段はボランチで左サイドは初めてだったので、自分なりにやっていこうと(高い)モチベーションで入りました。いつもはゲームの展開の中で中央で受けることが多く、サイドにボールが入った時にいつもより余裕があると感じていました。そこからさらに広く、奥の逆サイドまでボールを展開することができたら攻撃の幅も広がったのかなと思います。

ーーサイドハーフで、自分の特徴が出せると感じる部分と課題を教えてください。

プレッシャーの(アプローチの)速さや、守備から攻撃にかけて強さを出せるのは(自分の)いいところだと思うし、そこはしっかり出していきたいです。逆に、攻撃に切り替えた時の立ち位置やスタートの速さはボランチとは違うところがあるので、そういうところを他の選手との連係や、(練習中の)映像から新しいことを見つけてチャレンジしていけたらいいなと思っています。

ーー練習ではボランチでもプレーしていますが、取り組んでいる守備で求められる役割は変わりましたか?

全員が同じ意識で、前から攻撃に向けた守備ができるようにやっています。ボランチの立場だと、どうFWを動かして限定させるかの声かけや、そのスタートを切れるような指示は必要だと思います。

林穂之香
林穂之香

MF 林穂之香(セレッソ大阪堺レディース)

ーーふたば未来学園高校(○2-1)との試合では決勝ゴールを決めました。今季はリーグでゴールを多く決めていますが、久しぶりの代表でどんなところに手応えを感じていますか?

今までは(代表で)自信がないプレーをしてしまうことがあったのですが、今季、1部でしっかり戦えているという自信が、代表でのプレーにも出せるようになったと思います。(得点はセットプレーからでしたが)今季はこぼれ球で点を取ることが多かったので、ボールがきそうなところに入れていたのは良かったです。

ーー新しい守備の取り組みの中で、どんなことを意識していますか?

FWの選手がどのタイミングで行くかという点で、深追いしすぎないようにしたり、行く時はGKまで行くところなどを合わせたり、穴を一つずつ埋めていくようにトライしています。エラーも起きるところなので、もっと詰めていけたらなと思います。代表では展開やプレースピードが速いので、自分の判断を早くして前の選手に指示を出す力をもっと高めていこうと思いました。

ーー体の大きな選手に対して、コンタクトプレーで意識していることを教えてください。

相手の見えないところから奪いに行ったり、私は体が大きくない(157cm)ので、男子や海外の選手とプレーする場合は足で奪いに行くだけではなくて、体全体で力強く当たることを意識しています。

脇阪麗奈(右)
脇阪麗奈(右)

MF脇阪麗奈(セレッソ大阪堺レディース)

ーー代表初招集で、合宿に参加した感想を教えてください。

選ばれるとは思っていなくて、聞いた時はびっくりしました。初めの日の練習は足が震えて動けなかったのですが、2日目からは慣れてきました。一つひとつの蹴る、止める、(ボールを)運ぶ力が、どの選手も普通にできているところがすごいなと改めて思います。みんな優しく接してくれて、気持ちがほぐれました。

ーーボランチが主戦場で、サイドバックやセンターバックもやっていますが、どのような経緯を経てボランチができるようになったのですか?

小学校から中2ぐらいまではFWで、そのあとは(セレッソで)センターバックをしたり、サイドバックやサイドハーフでもプレーして、ボランチになりました。初めてセンターバックと言われた時は、泣きましたね(笑)。今はボランチで、ボールが取れるとわかっている時は嬉しいし、楽しいです。

ーー特に刺激を受けた選手はいますか?

長谷川唯さんです。「そんなところが見えているんだ!」というところにパスを出したり、速いし、ドリブルも上手いしシュートも打てる。体は小さいけれど、しっかりキックを飛ばせるし、周りを生かせるところがすごいですね。

ーー特にアピールしたいポイントはどんなところですか。来年の五輪への意気込みもお願いします。

自分の特徴は守備において絶対に負けない強い気持ちや、球際では海外の選手にも恐れずぶつかっていけるところだと思います。攻撃面ではボランチでも点を取らなければいけないので、もっと精度を高めていきたいです。今回選ばれるまではまったく意識していなかったですが、チャンスはあると思うので、全力で目指したいと思っています。

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GK 池田咲紀子(浦和レッズレディース)

ーー今回の合宿で、守備で特に大切にしていることはどんなことですか?

チャンスがあれば、前線から守備をしてゴールを奪うというところにつなげていけたらと思いますし、押し込まれた場面では全員で早く帰陣して、最後はしっかりゴールを守ることに切り替えるという、2つの守り方を使い分けていきたいです。攻撃の時間を長くすることがいい守備にもつながると思うので、攻守ともに自分たちからアグレッシブにチャレンジできるように取り組んでいます。今までよりラインを高くすることで背後のスペースができるので、GKが守備範囲を広げていかなければいけないと感じています。

ーーボランチの動かし方もポイントになると思いますが、指示ではどのようなことを意識していますか。

簡単に縦パスを入れさせない立ち位置とか、どこからボールを奪いにいくのかは、最終ラインから声がかかります。ボランチのところでなるべくボールを奪えたらいいかなと感じるので、GKからも意識的に声をかけるようにしています。

ーー新しい選手も入ってきた中で、久しぶりの代表活動はいかがですか。

GKは(五輪は)2人という枠で、今回も初招集の選手がいますし、これからまた新しい選手が出てくると思います。五輪まで残りの期間は少ないですが、自分自身ももっともっと残りの期間でできることを増やしていかないといけないなと思います。

清水梨紗(右)
清水梨紗(右)

DF 清水梨紗(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)

ーー新しい守備の取り組みの中で、サイドバックとして感じるメリットとリスクはどんなところですか?

積極的にボールを取りに行って、そこから早く攻撃に移れるところは長所だと思います。逆に、自分の背後のスペースを空けて出ていくことが多いので、自分がいけるかどうかを判断したり、センターバックにスライドしてもらう判断はもっとやっていかなければいけないと思います。

ーー新しい選手も入った中でリーダーシップをとる意識は高まっていますか?

ベレーザでも代表でも若手の年代ではないので、自分が引っ張らなければいけないという気持ちが強くなっています。代表では年齢が真ん中の位置にいるので、(年)上と(年)下をうまくつなげられるような存在になれたらいいですね。(普段から)同じサッカーをしている選手たちではないので、相手のサッカー観を自分が取り入れることも必要だと感じてきました。自分が思ったことを伝えながら、相手の意見を聞くことも大事にしています。

ーーコンディション面とかケガ予防の観点から、普段のベレーザでのトレーニングやこの合宿中に意識していることはありますか?

代表活動の中でメディカルの時間はすごく多く与えられているので、そこの時間を活用したり、(チームの)フィジカルコーチに合宿の中でもできる体づくりのメニューをもらって、そこを継続して今はやっています。

小林里歌子
小林里歌子

MF 小林里歌子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)

ーーいわきFC U-18(●1-3)との試合は後半からの出場でしたが、前線から相手にプレッシャーをかけてうまく牽制していました。

相手が前から来る中で、前半は少し受け身になっている状況だったので、後半の入りは自分たちが、前から来ても慌てずに繋ぐことを意識して入りました。後ろのサイドバックの(清水)梨紗さんから声をかけてもらい、速いタイミングでサイドバックにプレッシャーをかけることを意識していました。前回の(ふたば未来学園高校との)試合ではサイドハーフが中に絞りすぎたり、後ろに吸収されてプレッシャーにいくのが遅れるシーンがあったのですが、今回はタイミングよく行けたと思います。

ーー強豪国と対戦する上で、守備の大切さはどう捉えていますか?

日本の強みはポゼッションですし、そのためには攻撃の時間が必要なので、前から守備でいけるときは行くことにチームとして取り組んでいますし、そこはみんなが統一した意識の中でやれていると思います。展開が速い相手や、足が速い相手に対して、一人ひとりの守備のポテンシャルはさらに上げていかないといけないと感じています。

ーーリーグ戦はコンスタントに得点できていますが、成長の要因をどのようなところに感じていますか?

去年と明らかに違うところは、しっかり自分の体と向き合えていることだと思います。筋トレや食事など、自分の体の変化や、些細なことでも気づけるようになったことは、大きいと思います。自分の体に合わないものは食べないとか、どのタイミングで何を摂ればいいか知識をつけてきました。筋トレも、頻度や負荷は自分に合わせてやるようにしています。

南萌華
南萌華

DF 南萌華(浦和レッズレディース)

ーー久しぶりの合宿ですが、どのような積み上げができましたか?東京五輪まで一年を切って、今回は宝田(沙織)選手がセンターバックに入りましたが、意識の変化はありましたか?

守備に重点を置いてやっていたなかで、今までよりも細かくラインの上げ下げをしたり、横の選手同士の距離を意識しました。男子選手相手にできた部分もあり、エラーも出ましたが、今後につながるトライができました。体を入れるタイミングとか守備の対応には課題があるので、チームに帰ってからしっかり強化したいと思います。縦パスがセンターバックから出るようになると攻撃の形が増えると思うので、今後さらにチャレンジしていきたいですね。沙織はいいものを持っていますし、自分よりも若い選手が入ってくるといい刺激になります。一緒にプレーしていて楽しいと感じましたが、最終的には五輪に向けての選考がある中で、お互いに高め合いながら、個人でもレベルアップしていきたいです。

ーーセットプレーの守備も重点的に行っていましたが、守備の重要性をどう捉えていますか。

かなり重要だと思います。いくらボールを保持してもセットプレーでやられて負けてしまうことはサッカーではありうるので、全員で集中して守らなきゃいけないですし、自分のような長身の選手が空中戦を強化して、チームに貢献できるようにしたいと思います。

ーー今季、浦和で自分のプレーが変わったり、考え方が変わったと感じる部分はありますか。

レッズではビルドアップのところで関わりながら長いフィードも求められているので、逆のサイドバックに展開したり、縦パスや長いボールを入れるというオプションも持てるようになり、自分に足りないものを見つけながら成長できている実感はあります。ビルドアップの部分では以前よりも自信を持ってボールを動かせるようになったなと思います。

※文中の写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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