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宮澤ひなたの2ゴールでベレーザが示した女王の意地。来秋開幕の女子プロリーグ参入も決定!

松原渓スポーツジャーナリスト
3年目の今季は新たなポジションにチャレンジしている宮澤ひなた(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 10月15日に、来年秋開幕予定の日本女子プロサッカーリーグ、「WEリーグ」の参入クラブが発表された。秋春制でのリーグ戦や、最低5000人以上の観客を収容できるスタジアムで試合が行われるなど、従来のなでしこリーグとは異なっている。新たに選手を集める新規チームもあり、オフには選手の移籍市場も活発になると予想される。

 また、WEリーグの岡島喜久子初代チェア(代表理事)によると、シーズン移行によって空白の期間となる来春から開幕までのプレシーズンマッチやリーグの放映権、冬季の降雪地域の試合会場など、まだ具体的に決まっていないこともあるようだ。これから1年間の準備期間の動きを見守っていきたい。

 今回参入が発表された11チーム(※)のうち9チームが現在のなでしこリーグ所属で、1部所属が7チームを占めている。プロリーグ参入を見越して、今季開幕前に新監督を招聘し、着々と準備を進めているチームもあり、それが今季のリーグを面白くしている要因の一つでもある。

 

 現在、なでしこリーグの優勝争いは佳境を迎えている。

 10月11日にAGFフィールド(東京都調布市)で行われた首位の浦和レッドダイヤモンズ・レディースと2位の日テレ・東京ヴェルディベレーザの直接対決は、ベレーザが3-2で勝利。浦和との勝ち点差を「9」から「6」に縮め、逆転優勝に望みを繋いだ。代表選手を多く抱える両チームは、プロリーグへの参入が決まっている。

 リーグ5連覇中のベレーザは、今季はケガ人が多く、昨年までのように安定した強さを見せることができていない。一方、6季ぶりのタイトル奪還を目指す浦和は、大きなアクシデントもなく、着実に勝ち点を積み重ねてきた。浦和駒場スタジアムで行われた8月2日の同カードは浦和が1-0で勝利しており、この試合で勝てばほぼ優勝を手中に収めると思われた。だが、「自分たちの目の前でそれはさせない」とばかりにベレーザが意地を見せ、手に汗握る白熱した試合となった。

 開始3分、鮮やかなミドルシュートで試合を動かしたのは、司令塔のMF長谷川唯だ。DF清水梨紗からグラウンダーのパスを受けるとすかさず右足を振り抜き、強烈なシュートをゴール左上に突き刺した。前述したように、ベレーザは負傷者の多さから試合ごとにメンバーやポジションが変わる状況が続いており、中盤の要となる長谷川は難しい舵取りを強いられていた。だが、ここ数試合でようやく戦い方が安定し、「どう攻めてどう守るか、攻から守に切り替えた時のポジションも全体で把握できてきました」と、永田雅人監督は振り返る。

 この試合は選手同士が良い距離感でサポートし合い、トップ下で出場した長谷川に対するマークを分散させることができていた。先制点は、「(長谷川が)アタッカーにパスする側ではなく、アタッカーの中でゴールに絡んでいく形を取りました」という指揮官の狙いが的中した。

 16分には浦和のMF猶本光が「先ほどのお返し」と言わんばかりに、パンチの効いたミドルシュートで試合を振り出しに戻す。すると、ベレーザは28分にFW宮澤ひなたのゴールで勝ち越すと、さらに55分にも宮澤が追加点を挙げた。浦和の森栄次監督は積極的な交代策で勝負を仕掛け、65分には浦和がセットプレーからDF高橋はなのゴールで1点差に迫る。だが、終盤はベレーザがしっかりとリスクマネジメントしながら浦和ゴールを狙う試合巧者ぶりを発揮。中盤でゲームを作ることができるMF菅野奏音や、スピードのあるFW植木理子、DF遠藤純らが交代で変化をつけ、前半を上回る数のシュートを打ちながらリードを守り抜いた。

 勝利の立役者になった宮澤は、「出るからには仕事をして、結果を残したいという一心でした」と、穏やかな表情で自身の活躍を振り返った。今季のゴール数は「5」となり、自身の1シーズンの得点数を更新。20歳のスピードスターは、持ち前の躍動感溢れるプレーで、昨年からひと回り成長した姿を印象づけた。

(※)参入チームは以下の11チーム。

現なでしこリーグ1部(7チーム):マイナビ仙台レディース(現マイナビベガルタ仙台レディース)、浦和レッドダイヤモンズ・レディース、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、日テレ・東京ヴェルディベレーザ、ノジマステラ神奈川相模原、アルビレックス新潟レディース、INAC神戸レオネッサ

現なでしこリーグ2部(2チーム):ちふれASエルフェン埼玉、AC長野パルセイロ・レディース

新規(2チーム):大宮アルディージャ、サンフレッチェ広島F.C

【新ポジションで引き出される新たな魅力】

 宮澤は、ルーキーイヤーだった2018年に新人王を獲得。足に吸い付くようなボールタッチと、相手をあっという間に置き去りにする緩急自在のドリブルで、ベレーザのパスワークの中にアクセントをもたらした。その溌剌としたプレーは、同年のU-20W杯での活躍と相まって鮮烈なインパクトを残した。

 しかし、その後は各チームの対策が進み、宮澤自身はプレーの選択肢を増やす過程で判断に迷いが生まれる場面が増えた。昨夏のW杯には多くのチームメートが選ばれる中、選考から漏れる悔しい思いもした。だが、宮澤は「ベレーザで成長できる」という確かな手応えとともに課題と向き合う時間を大切にしながら、着実にプレーの幅を広げてきた。そうした中、今季は新境地も切り開いている。従来のサイドハーフだけではなく、2トップの一角でプレーする機会が増えたのだ。

「サイドでプレーしていたときは180度の視野の中で縦に仕掛けたり、中にカットインするプレーが多かったのですが、FWは360度見なければいけないし、2トップの関係の中で、背後なのか足元なのか、サイドに流れた方がいいのか、複数の選択肢がある時に一番いいプレーを(瞬時に)考えるのが難しいです」

 相手の守り方、味方の位置やプレーの特徴、そして自分自身の特性も考慮して、複数の選択肢から最高のプレーを選び抜くーー宮澤の高いポテンシャルを評価した上で、永田監督は難易度の高いテーマを課している。宮澤自身も「いろんなポジションをできることがチームの力になると思いますし、試合状況に応じて複数のポジションができるようになりたいです」と、チャレンジに前向きだ。

 浦和戦の2ゴールは、そうした中で磨かれた新たな力が引き出されていた。28分の2点目は、清水のクロスにファーサイドで相手DFの死角から全力で走り込み、足をいっぱいに伸ばして決めたダイナミックなゴール。3点目は、相手DFと駆け引きをしながらFW小林里歌子のスルーパスを受けると、GKと1対1の緊迫した状況も楽しむかのように、スピードに乗ったドリブルから冷静に流し込んだ。

 ボールを持った時のプレーでインパクトを残すことが多かった宮澤だが、2つのシーンではオフザボールで駆け引きをし、味方とのコンビネーションから完璧なラストパスを引き出している。

「練習から2トップを組む選手との関係を意識してきたので、(小林)里歌子さんが中盤に落ちたら自分が裏を狙い、逆に自分が落ちた時には裏を狙ってもらう、というように状況を見ながらプレーできました。今までは自分がボールを持って仕掛けたり、味方の動きを見てパスを出すイメージが多かったのですが、2点目は(清水)梨紗さんが合わせてくれたからこそのゴールです。(FWは)後ろの選手がパスを出しやすいスペースを考えたり、味方の要求を理解する能力を磨けるポジションだと思います」

 今季、ベレーザで得点数が多いのは12ゴールの小林と6ゴールの長谷川だが、2人は狭いスペースでのゲームメークに長け、ラストパスの「出し手」としても高い能力を発揮するプレーヤーである。だからこそ、得点力のある選手が増えれば、攻撃のオプションは自ずと増えるはずだ。その点では宮澤と、FW植木理子の“現役大学生コンビ”に期待がかかる。

 来年開幕するプロリーグでは、大学生でも「プロ」の肩書を背負う可能性はある。「サッカーでお金をもらうこと」は、「お金を払っても『見に行きたい』と思われるようなプレーを追求する」ことでもあるだろう。それは、宮澤が星槎国際高校時代から大切にしてきた「自分のプレーで見ている人を笑顔にしたい」という思いとも合致する。

「自分の長所であるスピードを生かしたプレーでお客さんをワクワクさせたり、この選手は次に何をやるんだろう? という気持ちにさせたいです。積極的にシュートに行く姿勢や、梨紗さんのクロスに飛び込んだゴールのように、これからも戦う姿を多くの人に見せられたらなと思います」

 弾んだ声で宮澤は語ってくれた。状況に応じたプレーの判断とテクニックを洗練させ、サイドに加えてFWのポジションでも迷いなくプレーができるようになった時、宮澤は眩い輝きを放つだろう。

【リベンジマッチ再び】

 次の対戦相手は、勝ち点「2」差でベレーザを追うINAC神戸レオネッサ。10月18日にノエビアスタジアム神戸で第15節が行われる。前半戦は1-2で敗れており、ベレーザにとってのリベンジマッチとなる。INACもWEリーグへの参加が決まっている。参入チーム発表後の大一番であり、注目の一戦だ。

「前期は監督が変わった(チームが多い)中で、各チームがどういう戦いをしてくるかがわかりませんでしたが、さすがに、相手のやり方や自分たちへの対策も見えてきました。INACさんも、メンバーやサッカーのやり方をいろいろと変化させていますが、こちらもそれに対して、戦略を持って臨みたいと思います」

 レギュラー陣の相次ぐ負傷という想定外の事態が重なった今季、永田監督が選択したのは「若い選手たちを育てながら勝つ」というテーマだった。苦しいチーム事情の下でのベレーザの現在地について、永田監督は丁寧に言葉を選びながらこう語った。

「(就任してからの)2年間、試合に出続けた選手で今年もコンスタントに出られている選手は3名ぐらいしかいません。この状況で、(負傷者の穴を埋める形で)試合に出始めた選手たちが10代なので、その選手たちを融合して、勝ちながら経験値を上げていくことを考えてきました。難しい状況の中で、どうしていくべきかを一人ひとりが深く捉えて力をつけながら、『勝つ』ことと両立させる、その両方の矢印が向上してきたと思いますし、来年以降に向けても良い流れができてきていると思います」

 永田監督が言う「来年以降」は、「新リーグのスタートに向けて」ということでもある。日本女子サッカーが大きく変化する来季に向けて、戦いはすでに始まっている。

 

 なでしこリーグは残り5試合。プロリーグへの参入を希望しながら叶わなかったクラブもあり、現行のなでしこリーグでは、この5試合が最後の対戦カードとなる。1989年の第1回からリーグを牽引してきたベレーザのラスト5試合もしっかりと見届けたい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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